第22話 噛ませ犬は続けざまに
「おい! 聞いてんのか?!」
「ナメてんとどうなるか教えてやろうか!」
「やめてくださいよ~」
『こんなムカつく童貞なんて殴っちまえ!』
『一度痛い目に遭った方がいいですよ』
うるさい。
現在、僕はギルドの受付エリアにて、Cランク中年野郎たちに絡まれています。
「僕は登録しに来ただけです。あなたたちと関わるつもりはありませんので、放っておいてください」
「んだてめぇー! 格上冒険者が声かけてやってんだろーが!」
いや、本当に酒臭いな。怒鳴ってくるから口臭がすごいのなんの。おかげで内容が頭に入ってこない。
「あ、あの、揉め事ですか? ギルド内ではやめてください、ジーザさん、デンブさん」
「「「っ?!」」」
なんてこった。受付嬢さんが戻ってきてしまったじゃないか。
というか、この中年共、ジーザとデンブと呼ぶのか。覚えとこう。
「ちっ! 命拾いしたな!」
「行くぞ!」
二人は悪態を吐きながら、僕の下から離れていく。
「くそ! 僕だってもう少し先に行きたかった! あの雑魚共を蹴散らしたかった!」
「え?」
『言っとくが、お前も雑魚だぞ』
『私たちの実力ですからね?』
うるさい。身体貸してんだからそれくらい譲歩してよ。
「それでですね、ナエドコさん、Eランクスタートにはそれより上のランクの方を審査員として、実践形式の試験で合否を決めます」
「なるほど」
「この審査員はギルド側が特に指定しませんので、もしお知り合いに高ランク冒険者が居れば、そちらの方に依頼してください」
‟ギルド指定の冒険者じゃない”というのは、単純に僕のようにアポ無しで来るような人と都合が合うとは限らないから、テキトーな人を使って審査するつもりのようだ。
で、格上ランク冒険者との実践形式の試験を近くで見ているギルド職員が、試験者がどれくらいの戦闘力を持っているか判断するらしい。まぁ、結果的に高くてもEランクスタートなので、無試験のFランクとの実力差がそこまである訳ではないと見込んでの内容だろう。
ちなみにこの試験は戦闘の実力だけで、筆記試験のようなものは無いとのこと。冒険者は自身の行動が全てだから、知識も技術もいっぺんにその実戦試験で測るようだ。
「ここに来たのも初めてですので、人選はお任せしても―――」
「ってことなら、俺らが付き合ってやるよ!」
「なんたって俺らはCランクだからな!」
「じ、ジーザさんにデンブさん?!」
まさかのここで僕の審査員の立候補が。先程、僕に絡んできた酒臭いおじさんたちじゃないですか。
もしかして、僕がEランク試験を受けると見込んで、近くで聞き耳を立てていたのかな。だとしたら、さっきの僕の「あの雑魚共を蹴散らしたい」発言は聞かれていたのだろうか。
というか、この人たち二人共四十代超えてるよね? これ、僕が仮にボコったとしても世間体に影響しないよね?
「昨日、広間の噴水で自虐ショーしてただろ!」
「俺らもあの場に居たんだよ! 思い出したが、アレお前だろッ! 童貞さんよぉ!」
「「ぶはははははは!!」」
「.....。」
うっわ、観客かよ。マジ最悪。さっそく童貞呼びされてんじゃん。それも受付嬢さんの前で。
でも彼女はなんの事かわからないと言った様子である。
「え、えーっと、それで.....」
「ねえちゃん、さっきこいつから受け取った紙触ったんだろ?」
「ちゃんと手を洗った方がいいぜぇ? 童貞の手はいつだってイカくせぇーからなぁ! ぎゃはははははは!」
『ぎゃははははは!!』
一緒になって笑うな。こんなことになった張本人だろ。
『可哀想に.....』
「.....。」
だから君らのせいだろッ!! 同情やめろ!
「受付嬢さん、それでお願いします。この人たちで結構です」
「お? 随分な言い草じゃねーか」
「皆聞いてくれ! ここに居る童貞君がモテない理由がわかった! 俺らおっさん二人を相手にしたいかららしい!」
「た、他者を蔑む発言は止めてください」
受付嬢さんもこの二人に手を焼いているのだろう。明らかに困り顔である。
中年野郎の片方がそんなこと言うから、聞いていた周囲の人もくすくすと笑っている。笑っていない人も何人か居るな。コイツらが言ったことが面白くないのか、それとも僕と同じで童貞か。どっちにしろ笑わないだけマシだ。
『おい! コイツはブスでも欲情する自称ノーマルだぞ!』
『そうですよ! 中の下でも平気で勃〇した男ですよ!』
「ちょ、黙ってて」
「あ? なにぶつぶつ言ってんだ」
「童貞は一日中フルでキメぇーな」
二人の声は、周りには聞こえていないってわかっていてもつい反応してしまう。直さなければならない癖である。
「え、えー、では奥に試験場があるので、そちらに移ってください」
「はい」
「安心しろ。武器は使わねーからよ!」
こうして僕は中年Cランク冒険者を相手に昇格試験を行うことになった。
*****
「よし、コテンパンにしよう」
『馬鹿にされた分やり返しますよ!』
『倍返しだッ!』
「君らはいったいどっちの味方なんだ.....」
さっきまで散々僕のことを馬鹿にしていたくせに。
僕らは今、ギルドの奥にある試験場と呼ばれる広間の中央に立っている。周囲には観客席のような場も設けられていて、先程の騒動から興味のある冒険者たちが何人か見に来ていた。
「ナエドコさん、準備はいいですか?」
「あ、はい」
「おうおう、何も持たなくていいのかよ?」
「丸腰か?戦いに‟もし”は無いんだぜぇ?」
『ハーフ魔法使いだぞ! 詠唱無しで射精だってできんだぞ!』
詠唱無しで出すってどういうこと? もうそのネタでイジってこないでほしい。
ちなみに僕の相手をしてくれるのはジーザさん一人で、デンブさんは見学だ。あくまで高ランク審査員ということで一対一の勝負である。
「.....多少の怪我は仕方ありませんが、今後の活動に影響するような怪我はやめてくださいね?」
「わーってんよ」
少し離れた所に居る受付嬢さんがジーザさんに忠告をする。格上だもんな。
「それでは始めてください」
そして試験開始と同時に、僕は一気にジーザさんとの距離を縮めるべく接近した。距離にして二十メートル。走って数秒だ。
「っ?!」
こんなひょろっちぃ僕が接近してくるとは思わなかったのか、驚いた様子のジーザさん。この人、見た目からして筋肉がすごかったから接近戦が得意な気がする。だから接近戦で挑んでくる僕が意外なのだろう。
「いくよ」
『
『【烈火魔法:爆炎風】!』
「なッ?! 複数の魔法を同時使用だとッ?!」
妹者の発動した【烈火魔法:爆炎風】はその名の通り、視界を爆風で奪いつつ激しい風を起こす魔法である。これでジーザさんをノックバックさせる。
「はッ?! 大して痛くねぇな! 雑魚がッ!」
「はは。足見てくださいよ」
「あ?」
僕が近づいたのにも関わらず、妹者さんの魔法でジーザさんを吹っ飛ばしたのには訳がある。
ジーザさんが自分の足を見て驚く。姉者さんが生成した鉄鎖が、いつの間にか自身の右足に巻き付けられていることにびっくりしたのだろう。
「た、ただの鎖かよ。んなもんで何ができるって―――っ?!」
魔力吸収開始だ。
『おおー。さすがCランク冒険者、トノサマゴブリンよりかは魔力を持ってますね』
「ちなみにトノサマゴブリンとジーザさんを比べるとどっちが上?」
『この中年の方が上だな。コイツなら単体で狩れる』
まーじか。じゃあこんな罠に引っかかったのも奇跡じゃん。
「な、なんだこれ?! 魔力が.....魔力が吸われてやがる?!」
『まぁ、‟通常”のトノサマゴブリンはな』
『あのとき戦ったトノサマゴブリンは【固有錬成】持ちです。おそらくCランクでも複数人必要なはず』
「ならこんなに焦らなくても勝機はあったのかな」
なんだ、コイツが油断してそうだったから、隙を突いて早々に決着をつけようとしちゃったよ。早く終わりすぎて受付嬢さんの審査に情報不足だったらどうしよう。
「てめぇ! 魔力を吸収してんな?!」
「すごい焦ってますね。初心者相手にどうしたんですか?」
「っ?! ぶ、ぶっ殺してやる!」
「さっき『戦いに“もし”は無い』って言ってませんでしたっけ? 油断しすぎですよ。EランクがCランクに勝てないなんて誰が決めたんですかぁ?」
「ああ?!」
「まぁ、なんというか......童貞に負けて乙です!」
怖いけど、煽るだけ煽ろう。ストレス溜まってたんだ。これくらいいいでしょ。
「こ、この雑魚野ろ―――っ?!」
「雑魚はあなたでーす」
『【烈火魔法:
妹者さんが魔法をそう唱えたと同時に、鎖を握っている右手からジーザさんの所まで火種が伝っていった。
そして―――
「あああぁぁぁぁあぁあああ!!!」
「『『お、おおー』』」
目の前で中年野郎が火柱に包まれて焼かれた。
これ、絶対火力間違えたでしょ.....。
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