第21話 冒険者ギルぅードっ!!
「ここが冒険者ギルドかッ!!」
『興奮しすぎです』
『おら、さっさと中入って用済ませんぞ』
現在、僕は異世界に行ったらやりたいランキング五位の‟冒険者ギルドの加入”をしに、王都ズルムケの中央区域にあるギルドに来ています。
ちなみに四位は竜族ロリBBAとお友達になること。
一、二、三位は.....ふふ、内緒だ。
「よぉし! 最短でSランク目指すぞ!」
『お前って変にフラグ立てるよな』
『馬鹿ですから』
うるさい。僕はギルドの扉を勢いよく開けた。
「おおー!!」
だだっ広い空間にはたくさんの人たちが居た。飲食ができるエリアでは、昼間の今にも関わらず酒を飲んでいる中年のおっさん共が。受付エリアでは忙しく動き回る受付嬢が。
そして中でも注目したのが、すごい人だかりの掲示板エリアだ。高さは三メートルにも及ぶんじゃないだろうか。そこに現在、未達成の
一般人なら、どう考えても天辺に貼られている
『あ、そこの案内板では、冒険者登録は右端の方で受け付けているようですね』
姉者さんの言った通り、登録は通常の場所と分けている模様。手間の違いだろうか。僕はそんなことを考えながら目的の場所へ向かった。
「こんにちは。新規の方ですか? それとも紛失等のライセンスカードの再発行ですか?」
「こんにちは! 新規です!」
「畏まりました。少々お待ちください」
そう言って、手続きの資料をカウンターテーブルの下から取り出した受付嬢のお姉さん。
すっごい美人だ。茶髪で中分けした前髪が大人の女性って感じで、座っていても見てわかるくらいスレンダーな女性だ。見た感じ二十代後半かな。胸に着いてるプレートには“研修中”の字が。新人さんか。
『な? あの村のブスとは比べものにならないだろ?』
『童貞を捨てずに良かったですね?』
僕は右手、左手の順に軽く引っ叩いた。バチン、バチンと。
きっと例の魔法で目の前の受付嬢さんには聞こえていないだろうが、もう二人を叩くことが癖である。
「登録と言っても大して手間はかかりません。まずはこちらの書類にある必要事項をお書きください」
「はい」
僕は渡された書類に必要な情報を書いて受付嬢さんに渡した。
「ナエドコさん.....ですね。年齢は十五......希望職の欄が空白なのですが.....」
「あの、一応魔法は使えるのですが、区別がつかなくて。ここにある‟前衛”と‟後衛”はどうやって判断すればいいのでしょうか?」
『魔法使いだろッ!! それ以下でもそれ以上でもねーよ!』
『おそらく苗床さんが言いたいのは、魔法が使えても、それがどのジャンルの魔法使いに該当するかわからないのでしょう』
そう。魔法と言ってもその系統は多岐に渡る。
例えば、同じ火属性魔法でも支援型や攻撃型などで分かれていると魔族姉妹から以前聞いた。例えば支援型の場合だと、前衛にあらゆる強化魔法をかけたりするサポーター的な存在か、それとも後ろから遠距離攻撃がメインとなるのか、将又その両方かで意味合いは分かれてくるだろう。
姉者さんの得意とする【凍結魔法】は攻撃特化だ。まだ使える魔法は大して知らないけど、現段階では前衛向き。
一方、妹者さんの得意とする【烈火魔法】は支援特化だ。以前、初級なら全部使えるとか言ってたけど、‟目眩まし”や‟物に属性付与”なんかで判断するなら支援特化な気がする。
こんなことなら事前にもっと二人に聞けば良かった。
「ああ、なるほど。回復魔法を使えるのなら、貴重な支援系後衛職として、こちらにチェックをしていただきたいのですが.....」
「すみません、自己対象で回復ならできますが、他人は無理です」
『【固有錬成】のことは口にするなよ』
「なるほど。でしたら、ナエドコさん自ら進んで攻撃を?」
「そう.....ですね。いつも一人なので自分以外任せられる人が居なくて」
『ぼっちだからな』
「わかりました。でしたら、魔導士で前衛を希望ということでよろしいですか?」
「はい!」
『つーか、前衛とか後衛関係なくね? どーせ、ソロプレイヤーなんだし』
右手がうるさい。
って、え? 僕、ソロプレイ限定なの? まぁ、魔族姉妹のこともあるし、そりゃそうか。当分の間は大人しく単独行動だね。
「では、魔力量や魔力濃度を計測するので、この水晶をお使いください」
「きたぁあぁあぁああ!」
僕はこのイベントに、盛大にガッツポーズした。
「ひっ?!」
「あ、すみません」
これ絶対あれだよ! あの魔力量が多すぎて量りきれずに水晶パリンするヤツ!
パリンするヤツ!
「これに手を当てればいいんですね?」
よっしゃ、絶対パリンさせよう。思いっきり魔力込めるわ。あ、そこら辺に割れた水晶の破片が飛び散っちゃうかもしれないので、気をつけてくださいね。
「いえ。この水晶に血を数滴垂らしてください」
「え」
『ばーろ。身分証の発行のときにも血を使っただろ』
『そこに切れ味の良さそうなペティナイフがあるでしょう?』
マジすか。関所では騎士さんたちが針を使って慣れた手つきでやってくれたからまだ我慢できたけど、今度はセルフですか。
つか、ペティナイフって.....。
「.....他に方法はありませんかね?」
「え?」
『怖じ気づいてんじゃねーよッ!!』
『妹者、左腕を固定しているので、ぐっさりやっちゃってください』
「‟ぐっさり”?! あ、ちょ、こら! やめろ!」
『無駄な抵抗ですね。両腕の支配権は私たちにあります』
『三、二、一で行くぞ!』
「あ、あのナエドコさん? そんな大袈裟にやらなくても、数滴でいいんですよ?」
「ほら! 数滴でいいって!! 刺したらドバドバ出ちゃうって!」
「手震えてますよ?!」
『三―――』
『おりゃあぁぁああぁあ!!』
「二と一はぁぁあぁああぁぁああぁああ!!!」
「ナエドコさん?!!」
魔族姉妹によって左腕にペティナイフを突き刺されたので、ドバドバと出血が始まった。カウントダウン全く意味なかったじゃん。
不本意な僕も受付嬢さんも顔面蒼白である。周囲の人も何事かとびっくりだ。数滴でいいって言ってるのに、出血は止まらない。
そしてその血液を水晶にぶっかけられる。
『【回復】っと』
「ハァハァハァハァ.....」
「だ、大丈夫ですか?.....ってもう傷が?!」
『さっきもお伝えした自己対象の回復魔法です。で、結果はどうですか?』
受付嬢さんの問いに、痛みで答える余裕が無かった僕に代わって姉者さんが声真似魔法を使って応対してくれた。
受付嬢さんが水晶を覗き込んで結果を判定してくれるようだ。残念なことに水晶パリンは無かった。
「こ、これは?!」
「‟これは”?!」
「Bランク冒険者相当の魔力ですよ?!」
「.....。」
なんか、ぱっとこないな。なんで“B”なんだって感じ。あんなに痛い思いしたのに。
「それってすごいのですか?」
「当然ですよ! ナエドコさんは初心者なんですよね? それでいきなりこの数値はすごいですよ!」
「は、はぁ」
「本来なら良くてDランク相当なので、Bランクなんて本当にごく稀です」
マジか。そこまで貴重な存在だったのか、僕という逸材は。
ちなみに後で魔族姉妹が教えてくれたのだが、この魔力量の診断結果、僕の魔力じゃなくて姉者さんの魔力を流し込んだ結果らしい。以前、聞かされていた通り、僕自身の魔力保有量はゼロだ。Fランクどころの騒ぎじゃない。悲しいね。
「と言っても、初期ランクはEまでです。Fランクスタートなので一つ飛ばせるだけですね」
「.....さいですか」
冒険者ランクはFからSまであり、ランクを上げるにはそれなりのキャリアと実績で決めるらしい。当然ながら、FやEランク冒険者じゃ、それより上のDランク以上のクエストは受けられない。
例外は自分より高ランクのメンバーとパーティを組めば挑んでもいいとのこと。
「もし初期ランクをFではなく、Eから始めたいのでしたら、一時間程度で済む試験を受けていただいきますが....」
『受けろ。少しでもランクは高い方が良い』
「お願いします」
「かしこまりました。では、手続きを始めますので今しばらくお待ちください」
その言葉を最後に受付嬢さんは下がって行った。
「よぉー、あんちゃん」
「くくっ。ペティナイフで指を少し切っただけだろ? あんなに痛がって、この先大丈夫かよ?」
受付嬢さんが居なくなったタイミングを見計らってか、後ろから見るからに悪そうな二人の中年野郎に絡まれた。この人たち、酒臭いな。あっちで昼から仲良く飲んでいたのだろう。
「少し? あ」
『さっき綺麗さっぱり治してやったぞ』
『苗床さんはトノサマゴブリンと戦ったときに何度も致命傷を食らったでしょう? なんで腕にナイフをぶっ刺したくらいで、あんなにうるさくできるのですか?』
いや、腕にナイフ刺さったら普通に痛いだろ。
「良かったら俺らが指導してやろうか?」
「もちろん高くつくぜぇ? ぶははははは!」
面白いこと言ってないのに、なんでそんな爆笑できるのだろう。ちょっとギルドのスタッフさん、この人に薬物検査した方がいいですよ。肌が硬かったら怪しいです。
「おい! なにスカした顔してんだよッ!」
「もしかしてナメてんのか?! ああ?! 俺らCランクだぞ!」
何が面白くて初心者に絡むんだろう。ああ、面倒な人たちに巻き込まれたなぁ。
『おい、なんで童貞の野郎はニヤついてんだ?』
『大方、こうやって絡んでくる輩をかませ犬かなんかだと思っているのでしょう』
ふふ。全くもってその通り。
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