第18話 魔法の意味!

 「おい、誰だ。今喋ったのは? .....“てへぺろ”?」


 「『『っ?!』』」


 おい、例の魔法はどうしたんだよッ!!


 「少年、今の声は貴様か?」


 「あ、いや、これは、えーっと.....」


 『『.....。』』 


 この場で姉者さんに問い質してもしょうがない。誤魔化さなければ。


 「こ、これはですね、そう! 腹話術です!」


 「は?」


 「唇を動かさず、さも本人が声を出していないように演じる芸です!」


 「声は違ったが?」


 「ま、魔法を使いました」


 「.....ほう」


 マズい。女性騎士さんの顔が近すぎる。めっちゃ見られてる。ヘルム越しにめっちゃ見られてる。


 「なぜこのタイミングでだ?」


 「お、王都に行ったら大道芸として披露しようかと思ってまして。騎士様にも楽しんでいただけるかと」


 「状況を理解しているのか? 貴様の敵対行為から疑いを掛けられているんだぞ?」


 「す、すみません。癖なんです。許してください」


 「.....ふん」


 「いだっ?!」


 胸倉を掴まれていた僕は横へ投げ飛ばされた。


 「まぁいい。貴様のような雑魚はいつでも狩れる」


 な、なんとか山場を乗り切ったようだ。ちなみに先程負った火傷は一部だけ妹者さんに回復してもらった。一気に全回復したら怪しまれそうだから、下手な行動を取らないためだろう。


 「少年、入国待ちか?」


 「あ、はい」


 「なら今日のところは一先ずこの馬鹿共と一緒に関所へ行け」


 「え、まだ時間じゃないですよ」


 「火災を起こしたが馬鹿共と戦おうとしたことは評価する。特例だ。それにあと五時間もすれば門を開ける」


 「あ、ありがとうございます」


 こうして女性騎士さんのおかげで数時間早く入国を許可された僕は、この騎士さんたちと一緒に関所へ向かうことになった。


 女性騎士さんは周辺調査も兼ねてここに残るらしい。なので僕たち五人は先にこの場を後にした。



*****



 「ったく、お前のせいで、こっちまで死ぬとこだったじゃねーか!」


 「ほんっとすみません!」


 「はは。まぁまぁ。しっかし横目で見てたが、あのフグウルフを屠った一撃はすごいな」


 「ああ、場所を選ぶが威力は申し分ない」


 「変わった魔法を使いやがるぜ」


 女性騎士さんから共に罰を食らった仲だからか、意外とフレンドリーな騎士さんたちである。


 僕は関所に着いた後、身分証の発行と入国検査をして数十分後には国の中に入ることができた。


 身分証の発行、血液の検査はマジでビビった。僕の身体には核が約三つ。それのせいで血が黒かったり魔力濃度が違ってたりしてたら魔族認定されてしまうと思った。でも採血した血の色は、ちゃんと人間の血であったことが判明したのでほっとした。


 まぁ、トノサマゴブリン戦を思い出すと、僕が怪我した際に撒き散らした自分の血はちゃんと赤かったので、そこまで心配することじゃなかった。


 「つーか、腹話術だっけか? すげーな」


 諸々の手続きをしている間、僕はザックさんと軽い世間話でもしていた。続くハルバードンさんも会話に混ざる。


 「え、そんなにすごいんですか?」


 「できることはできる。‟魔法”を使えばな」


 「が、魔法を使っちゃ芸を見ている側は面白くねー」


 「?」


 「たしかに魔法を使えばクオリティーも上がるし、表現方法も増える。でもそんなの魔法を使っちまえば当たり前なんだよ」


 「人々に求められるのは己の力のみ、つまり熟練された技術こそに面白味を感じるのさ」


 へー。それで魔族姉妹は大道芸をやれば稼げるって踏んでいたのか。


 「まぁでも、隊長に披露したのは魔法ありきなんだろ?」


 「あ、‟声を変える魔法”ですか」


 「せっかくの腹話術が勿体ねーよ。やるならまだ声を変えない方がウケるぜ?」


 ほうほう。さっきザックさんが言ったように、やはり魔法無しでの行為がウケるのか。個人的にはそこまで腹話術って面白くないんだけど、きっと娯楽の少ないこの世界では面白いのだろう。偏見だけどね。


 『おおっと! 実際は魔法を使わずに声を変えることができるぜ!!』


 『落ち着いてやれば僕にできないことなんてないのさ!』


 「「「っ?!」」」


 うおぅ。急に出てこないでよ。それに僕の声だし。騎士さんたちの反応を見れば、彼女らの話声を隠す魔法は使っていないのだろう。


 急に出てきた魔族姉妹はそれぞれ手の甲へ。そして手の形は中指と薬指を親指にくっつけるという、いわゆる“狐さん”の型を成している。....これで腹話術を続けるのね。


 「マジで唇動かしてないぞ!」


 「す、すっげぇ!」


 「.....はは。でしょ」


 『さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今宵は‟しっこく堂”の特別ライブ!』


 『何から話そう、どこまで話そう、いつまで話そうの無限トークだよ!』


 僕の声ですげぇ勝手なことしてる。“しっこく堂”って.....。


 「おっもしれー!!」


 『もちろんタダじゃ食いっぱぐれる!』


 『お代は要らないが、寝床が欲しい!』


 「.....ですって」


 「おうおう! 関所ここなら好きに使っていいぞ! 休憩室でいいならそこに移るか!」


 まぁ、入国しても宿屋なんかやってないよな。夜中だし。


 こうして無事寝床を確保した僕は、お礼として少し狭い休憩室で腹話術ライブをすることになった。その際、ザックさんたちは同僚を呼び、ライブを楽しむという仕事をサボるに等しい行為をした。


 良い年したおっさん共がキラキラした目で十五歳の少年を見つめてくる。


 「まずは自己紹介してくれよ!!」


 「.....そうですね。僕は―――」


 『童貞です!』


 『刃渡り十五センチです!』


 「「「「「ぎゃははははは!!」」」」」


 「.....。」


 地獄のライブじゃないか.....。



*****



 「ふぁーあ。眠い....」


 『結局一睡もしませんでしたからね』


 『いやぁ、あの反応なら腹話術で当分の間は食っていけそうだな!』


 そう。関所の休憩室を借りた僕らは、腹話術を騎士さんたちに披露した。時間にして約三時間。喉が痛いね。おかげでもうすっかり日が昇って朝である。


 今は入国して街道を歩いているところだ。想像通りで王都は中世ヨーロッパ風の街並みである。


 『つーか、なんなんだよあの女騎士!』


 「僕が聞きたい」


 『まさか魔法を使って隠した声を聴かれるとは』


 「ああやってバレることってあるの?」


 『普通はねー。あり得ちゃいけねーんだよ』


 『おそらく聴覚にそれ系の魔法を無効にする能力でも備わっていたのでしょう』


 「パッシブスキル的な? 魔法やスキルを使っていた様子は無かったもんね」


 『たぶんな。アレが常時発動していると、なると次対峙したときやべーぞ』


 『そう言えば、あの兵たちはあの女性を‟隊長”と呼んでいましたね』


 その隊長さんから食らった一撃に反応できたのは本当に偶然だ。いや、辛うじて目で追えたけど、身体の反応が遅すぎた。推測でも構えとかなきゃ内臓をぶちまけていたのかもしれない。


 「この街を守護する人なんだからまた会っちゃうのかな?」


 『さぁ? これだけひれぇー街だからな』


 『会わないことを祈りましょう』


 たしかに。あの女性騎士さんの前では、迂闊に魔族姉妹たちと会話ができない。他にも彼女のような存在が居るかもしれないので気をつけないと。


 「さ。まずは宿屋を....その前にお腹減ったし、朝ご飯でも食べに行こうか」


 『はい。と言っても、私たちは人前では食べられませんが』


 『ほんっとこの身体は不自由だわー』


 喧嘩売ってるのかな? それは全力で僕のセリフなんだけど。


 睡眠不足だからか、本来なら空腹より疲れが勝っているので、早く宿屋を探して一休みしたいとこだが、異世界の料理店が気になってしょうがない。エエトコ村では一般家庭の料理をご馳走になったが、それとはきっと別なのだろう。


 やばい想像してたら涎が。


 『つっても朝早くから店開けているとこなんてねーよな』


 「あ、ここなんてどう? ‟とんでも亭”だって」


 『いいですね。できたらお持ち帰りの分も買っていってください』


 はいはい。君ら口だけのくせに空腹なんてないでしょ。


 僕らが向かった先は“とんでも亭”と言われる料理店だ。店に近づくに連れ、料理をしている良い匂いが鼻孔をくすぐる。店の前には、オープンと書かれた看板があるから開店しているのだろう。つーか普通に字読めたな。魔族姉妹のおかげかな。


 僕は期待に胸を膨らませながら、西部劇に出てくるような飲食店のスイングドアを豪快に押し開いた。


 「いらっしゃい! 朝早くから珍しいね!」


 「おおー!! ここがッ!」


 僕は入店して感動した。カウンターの反対側では、料理を作っている店主と思しきふくよかな男性が居た。また同じく近しい歳の奥さんと思しき女性は、できた料理を運ぶウエイトレスの役を担っているようだ。


 「好きな席に着きな!」


 「はーい!」


 店内に居る客は一人だけ。赤髪の女性でカウンター席でご飯を食べている。まだ開店したばかりだし、時間もまだ午前五時くらいだ。


 僕もカウンター席に着いた。そして間を置かずに給仕のおばちゃんがお冷を注いでくれた。


 「見ない顔だね?」


 「旅人です。今日初めて王都に来ました」


 「ほう。観光かい?」


 「そんなとこです」


 「なら楽しんでいきな。で、何を注文するか決まったかい?」


 「えーっと、すみませんが、おすすめのヤツでお願いします」


 渡されたメニューを見ても今一何を頼んだらいいのかわからないので、お店の人に任せよう。


 「できれば昨晩から何も食べていないのでボリュームがあるのを―――」


 「なら、この‟フグブタの炭火焼きガッツリ定食”にするといい」


 「っ?!」


 誰かと思って声の主の方へ顔を振り向けたら、左のカウンター席に居る赤髪の女性客だ。


 輝くような赤髪で、その髪は緩やかなウェーブがかかっていた。美人さんだ。お飾りなんか特にしていないようだけど、その髪を後ろでまとめて結んだポニーテールが特徴的である。思わず僕は見惚れてしまった。


 明らかに僕より年上感を醸し出している彼女はおそらく二十代前半。そう思ってしまうのは、キツそうな性格を思わせる若干のつり目と口調が理由である。


 そして何より意識してしまったのは―――


 「綺麗な目....」


 銀色の瞳だ。初めて見る。カラコンじゃないよね。


 「は?」


 「あ、す、すみません! 初対面で失礼なことを言ってしまいました!」


 なにセクハラかましてんだ! いや、これセクハラなのかな? でも初対面でいきなり言うことじゃないでしょ....。


 そしてキッチンの奥ではこの美人さんが言ったことを僕の注文として受け取り、さっそく料理を作り始めている。


 「初対面だと?」


 「へ? どこかでお会いしました?」


 セクハラ紛いな発言を無視してくれたのか、あまり気にしていないらしい。


 こんな美人さん、見かけたことないぞ。


 「ふむ。蹴れば思い出すか。ザコ少年君、立ちたまえ」


 「あ」


 この発言は、あの時の‟女性騎士”さんだ。

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