第17話 スパルタ上官は拷問官?
「フグウルフの体液はもちろん.....」
『有毒に決まってんだろ!』
「ですよねー」
『ですがリスクに釣り合う美味しさは保証します』
いや、美味しくなくてもいいから、毒が無いご飯を食べたいです。
現在、僕らは四人の騎士さんたちと一緒にフグウルフと対峙している。
「おい! 一般人はすっこんでろ!」
「あ、あの、僕も戦闘に参加します」
「相手はフグウルフだぞ?!」
「毒食らったら街までいかねーとならねぇ」
「悪いことは言わねぇから、ここは俺たちに任せろ」
『すっこんでろって誰にもの言ってんだ、このチン〇ス共は!!』
『フグウルフなんて苗床さんが三回死ねば一匹くらい狩れます』
死ぬ前提ね。
妹者たちはこう言っているが、きっと例の魔法によって、この騎士さんたちには聞こえていないのだろう。
『まぁ、安心しろ。あんときのゴブリン共よりかは強力だが、トノサマゴブリンほどじゃねー』
『さ、構えてください。
「僕も魔法はいくつか使えます! 一匹はこちらに任せてください!」
僕は二人の言葉を聞いて決心し、騎士たちにそう呼びかけた。
「ふ、フグウルフを単体で?!」
「いや、見ろ。詠唱ナシであの鎖を生み出したぞ」
「わかった! 残り三匹はこっちに任せてくれ! ただし無理はするなよ!」
「助かった。フグ系モンスターには遠距離攻撃が一番だが、こいつらは素早いから数が多いと困る」
あっちも了承してくれたみたいだ。よし、まずはこの一匹に集中しよう。あっちは他に仲間を呼ぶ訳でも僕らを襲ってくる訳でもない。今のとこ、唸って睨んでくるだけだ。
『しかし暗いですね。今は辛うじて焚火の近くですからまだマシですが、こうも周りが暗いと戦いづらいです』
「【火逆光】は?」
『クソ騎士共が居んだろ』
『とりあえず腕に鎖を巻き付けてください。重いと思いますが、防御と魔力吸収の役割をします』
「うん」
『さーて、まだ全快じゃねーがさっそく新技いくぞ!』
僕は姉者さんに言われた通り、両腕に鎖を巻き付けた。そしてその作業中と同時に一匹のフグウルフが僕目掛けて走り出した。
巻き付けた分で鉄鎖はもう使い切った。新たに姉者さんに吐いてもらわないといけない。
『合わせろ姉者!』
『了解』
フグウルフはもう目と鼻の先で、こちらに飛びかかってきている。
対する僕は左手の口から出かけた鉄鎖を右手のひら分握りしめる。
そして思いっきり右手で鉄鎖を引き抜く。
『ガゥア!!』
『【烈火魔法】―――』
イメージは抜刀。
『【
暗かった森に一瞬だけ強い光で照らす鎖が横切った。
解き放った火属性を付与したこの鉄鎖は、てっきり目の前のフグウルフに巻き付いて、纏う火でダメージを与えつつ魔力吸収をするものかと思ったが、そんなことは無かった。
「『『......わーお』』」
だって、今しがた飛びかかってきたフグウルフは、大きく開けた口の上顎と下顎を境に横真っ二つに斬れたんだもん。
『す、すごい威力でしたね』
『相手が雑魚だってこともあったが、あーしが魔力込めすぎちった』
“込めすぎちった”じゃないでしょ。どうすんの、コレ。
僕らは目の前の結果に呆然と立ち尽くすことしができなかった。フグウルフを倒せたのは良い。でもそれだけじゃないんだ。
「森が......」
『燃えてんな』
『燃えてますね』
【抜熱鎖】が届いた範囲、前方約二十メートル先まで盛大な焚火が始まりました。
*****
「うおぉい! コレどうすんの?! 森燃え始めちゃったよ?!」
『慌てんな。そのうち雨降って火消えっから』
「んな悠長なッ?!」
見れば他のフグウルフたちはここを立ち去り、騎士さんたちが戦闘をすることはなかった。そして茫然と僕の方を見ている。
火が木を燃やしているパチパチという音が聞こえ、この場に居る全員が沈黙していた。
「お、おい! 貴様! これは一体どういうことだ?!」
「火災問題じゃないか! 早く消したまえ!!」
「すみません! ほんっとすみません!」
「謝ってないで消してくれ!」
「水属性魔法を使える奴はここに居ないんだぞ?!」
いや、消し方わかりません。【凍結魔法】も副作用が危なっかしくて使えないし。
『おめぇー早くどうにかしないと捕まるぞ』
「え」
『そりゃあ国の周りで山火事起こす奴なんかほっとけないだろ』
「ちょ! え、マジ?!」
なんで入国しに来たのに入獄しなくちゃいけないの?! っていうか、君の魔法じゃん! 君が込める魔力量ミスったからじゃん!
『まぁ、落ち着いてください。私の【固有錬成】があれば脱獄は容易です』
姉者さんはすでに違う打開策考えてるし。もうこれじゃあ立派な犯罪者じゃん。
「貴様ら一体何をしているかッ!!」
「「「「「っ?!」」」」」
すると、突然、後ろから怒号が聞こえてきた。そちらへ振り向くと全身を鎧で包んだ細身の騎士さんが一人居た。ここに居る他の騎士さんたちと同じように見えるが、少し違うデザインの鎧だ。
「私はモンスター討伐をしろと言ったんだ! なぜ焚き火をしている!」
さっきより声量を落としたからか、女性の声だとわかった。どうやらあの騎士さんの正体は女性らしい。
「た、隊長、それがですね―――」
「発言の許可をした覚えは無いぞ!!」
「ぐはッ?!」
そして言い寄った部下を、今現在燃えている森の中へ蹴り飛ばした隊長さん。蹴り飛ばされた人は鎧の関節部位から火で炙られるという始末に。
「あづッ?! あぁぁああぁ!!」
「ザッコ! 説明をしろ!」
「私の名前はザックです! この火災は少年が―――」
「上官に歯向かうかッ! 貴様も泳いでこい!!」
「どへッ?! あづあぁぁぁあぁあ!!」
火の海へ二人目が蹴られてバカンスしに吹っ飛んでいった。
「ザコバードン! 貴様が不出来な先輩共の後始末として説明したまえ!」
「は、はひっ?! 実はこの者―――がッ?!!」
「話すときは敬礼を欠かすなッ!! 蹴ってほしいのか?!」
「あちちちちちち!!」
いや、もう蹴ってます。吹っ飛んでっちゃいました。
「さて、新人のザコなんたら君! 君は馬鹿共の尻ぬぐいを―――」
「う、うわぁああぁあぁぁああぁ!!!」
「あ、おい」
「あづいッ!! あづいよぉぉおおおぉぉぉお!」
上司に蹴られるのが嫌だったのか、できるだけダメージを少なくしようと最後に残った新人兵と思しき騎士さんは、半狂乱となって火の海へダイブしに行ってしまった。
セルフダイブか。
「......まぁいい。蹴る手間が省けた」
ああ、結局蹴るのね。
「それで......最後に残ったバカンスご所望のパンピー君! 奴らはまるで貴様が原因だと血迷ったことをぬかそうとしていたが、そこら辺はどうなのだ?!」
バカンスはご所望じゃないです......。なので蹴らないでください。
と言っても、こうまで部下に対する扱いに容赦が無いところを目にしてしまうと、パンピーである僕も蹴られる可能性大だ。
よし!
「僕じゃありません! ザックさんのせいです!!」
『『.....。』』
逃げに徹しよう。人のせいにしないとね。
「奴の名前はザッコだ!!」
「ぐぶしゃッ?!!」
が、蹴られる羽目に。
絶対ザッコじゃない。本人が口にしていたんだから嘘じゃないだろ。なんだコイツ。
「む?」
僕は蹴られるとわかってたので、鎖を巻き付けた両腕で隊長騎士さんの蹴りを受け止めようとするが、威力が想像以上で殺しきれない。
なので勢いよく吹っ飛ぶ。
「あぐぅああああぁぁぁぁあああ!!」
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!
「ふむ.....よし」
鎧と違って燃えやすい服装の僕はあっという間に火達磨と化す。だがそんな時間は束の間で、気づいたら頭上高くに大きな水溜りがぷかぷかと浮かんでいた。......なんだアレ。
そしてその水溜りは重力が付与されたように、僕たちの所まで落下してきた。
「「「「「あばばばばば?!」」」」」
「反省は後で各々するように」
聞こえてきたのは先ほどの怒鳴り声とは違った女性の声。発声源の人物は同じだが、先程までの怒鳴りつけるような声ではなく、なんというか、大人な女性の声である。
と言うのも、頭含めて全身を鎧で包み込んでいるから、それ以外の部分で情報を得ようと探ってしまう僕の童貞心がそう判断したからだ。
「ハァハァハァハァ.....」
「おい、少年」
女性騎士が、四つん這いになって息が上がっている僕の下に近づいて来た。
そして僕の胸倉を掴んで持ち上げる。
「ぐへッ?!」
「貴様、さっきの一撃に反応したな? そこはいい。が、なぜ私の魔力を吸い取った?」
「ふぇ?」
ああ、そう言えば、両腕は鎖を巻き付けたまんまだったな。両腕で蹴りを防いだから隊長騎士さんの魔力も吸い取ったのかも。
いや、そもそもこの鉄鎖は姉者さんの意思で吸収や補強を行う。蹴られる状況で魔力を吸い取るなんて敵対行為をなんでするんだ?
『興味本位で少し。.........てへぺろ』
一回死んでくれ。死ぬの僕なんだよ。相手には声が聞こえていないからって好き勝手言いやがって。
「おい、誰だ。今喋ったのは?.....“てへぺろ”?」
「『『っ?!』』」
....................はい? なんで聞こえているの?
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