第16話 信頼してこその奇行

 「新手の尿路結石になりそう」


 『かかッ! てめぇーも面白いこと言うようになったじゃねーか!』


 『妹者の言う通り、今回は敵の“核”は食べようと思います』


 現在、僕らは夕食がてら今後の方針、というより討伐したトノサマゴブリンの“核”をどうするかについて話し合っていた。


 「食べたらパワーアップするの?」


 『わかんねー』


 『私たちも食べたことないので』


 「じゃ、じゃあなんで食べようと思ったの.....」


 『勘です』


 『と言うのも、お前に寄生したのが理由の一つだ』


 「僕の身体には二人の“核”があるから、トノサマゴブリンの“核”もいけるかもしれないって?」


 『ええ。寄生するにあたって、あなたの身体を二か月かけて弄くり回しましたから、私たちの“核”以外も、もしかしたら摂取できるかもしれません』


 『安心しろ。弄ったは弄ったが、特にどっかの臓器消したとか増やしたとかじゃねーから』


 今さらっととんでもないこと言ったな。マジで僕の身体を好き勝手してたのかよ。


 『問題は“核”を飲み込んだ結果です』


 『何も起こらなかったら、トノサマゴブリンの核を無駄にすることになる。売った方がマシだなって後悔で済む』


 「もし成功したらトノサマゴブリンの【固有錬成】を引き継げると」


 『『.....。』』


 「僕は馬鹿だけど、それくらいわかる。この世界にどこかにトノサマゴブリンが居たとしても、きっと数日前に戦ったような【固有錬成】持ちは滅多に存在しないんでしょ?」


 『ああ、その通りだ』


 『実際に【固有錬成】持ちの“核”は種族問わず、どの国でも売られています。より希少な物だったら貴族や王族へ。そうでなくても使えそうな物があれば、人間族の場合は武器への付与。魔族の場合、直接体内へ』


 「どうでもいいけど獣人族は?」


 『彼らにも“核”は存在しますが、多くの獣人は他者の核を利用とするその行為を野蛮なこととして認識しています』


 『一応、流通はしているがな。買う奴はその辺の考え方がちげぇー』


 「へー。じゃあ僕は魔族じゃないのに体内に取り込むと?」


 なんか抵抗あるな。口から入れるってこと? 本当にそれであの強力な【固有錬成:力点昇華】を使うことができるのだろうか。


 いや、そもそも―――


 「トノサマゴブリンのあの人格なかみはどうなるの?」


 『『.....。』』


 「黙るなら、僕は拒否する」


 魔族姉妹は各々の“核”を原動力にこうして会話や魔法などを行使している。トノサマゴブリンは死んだと思うが、僕の体内でどうなるかなんてわからない。


 その理由の一つが妹者さんの【固有錬成】だ。


 もちろん回復の対象は僕だけだと思うが、それが“核”に影響しないとは限らない。なぜなら以前にもこの二人が言ったように、核は既に僕の一部なのだから。


 『トノサマゴブリンは死んでいるが、【固有錬成】は核に根付いて残ったままだ』


 「僕はそれを知りたいんじゃない。君たちのように話すことができるのか、肉体の支配権はどちらにあるのかが知りたいんだ」


 『確約はできません。が、もし失敗した場合.....』


 姉者さんの言葉は続かない。おそらくだが、その失敗はあのトノサマゴブリンの蘇生を意味している。


 『姉者、言うな』


 『い、妹者―――』


 「?」


 『もし失敗してアイツがおめぇーの中で生き返るのなら、その場合は責任を持ってあたしらがアイツの“核”を体内から取り出す』


 『.....。』


 「.....そう」


 姉者さんが言い渋った理由がわかった。たしか異世界転移する前に姉者さんが言っていたな。“核”を取り出すには僕が死なないといけないって。だとしたら“核”は心臓か脳かに直結しているのかな?


 どっちにしろ、それが魔族姉妹以外の“核”にも適用されるなら、僕は一度死ななければならない。


 この二人の手で。


 「僕を殺すってか」


 『.....ああ。生き返るとかの問題じゃねー。あたしらでおめぇーを殺すんだ』


 『やはりやめましょう。さすがに仮設の粋でそこまでしては、今後の予定に支障をきたします』


 「僕たちの“信頼関係”としてはね。たしかに御免だ。というか、勝手してきた君たちが既にもう嫌い」


 『『.....。』』


 ああー、口だけのくせになんでそんな落ち込んだ表情をするのかな。


 「だけど、それと同じくらい君たちのことを信頼している」


 『『っ?!』』


 それだよ。そういうところが、僕をイエスと言わざるを得ない状況に追い込むんだ。


 「何度も怪我をした。何度も死にそうになったし、実際に何度も死んだ。でもその度に何度も元通りにしてくれた」


 『『.....。』』


 「敵を倒すときもそう、姉者さんの力が無ければ一方的に殺られる状況が多かった」


 『.....苗床さん』


 『.....童貞』


 いや、今割と真面目な話してるんだけど。いつものあだ名をここで呼ばないでほしい。


 「二人に助けられたことは事実なんだ。なら、この助かった命のくらい、君たちに使っても罰は当たらないでしょ」


 『かッー! んなこと言う奴じゃねーだろ!』


 『出会ってまだ数日ですよ。人を疑うことを知らないといけませんね』


 「はは。じゃあやめる?」


 『いーや、あたしらを信用してんだ。ならやるっきゃねーな』


 『ええ。人間にこうも言われては蛮魔の意地を見せないといけませんね』


 ここで雰囲気が明るくなった僕たち。なんやかんや言って、互いに互いを思い合っていることに違いないんだ。やろうと思えば僕の許可なく体内に取り込めるのに、そうしないのは僕の意思を尊重したかったからだろう。


 それをわざわざこうして憎まれ口をされるような言い方をするんだから、本当に困った魔族姉妹である。


 『ありがとよ』


 『感謝します』


 「......僕の方こそ」


 頼りない宿主でごめんね。そして、ありがとう。


 ちなみに僕の身体には合計で三つの口があるが、この核を食べるのは自前の口らしい。そして体内に取り込んだ核を二人が使のだとか。


 右手に食べやすいように砕いた核を。


 左手は僕の口が閉じないように押える役割を。


 無理矢理飲み込ませる気なのね......。


 『おっし! さっそく核を食べんぞ!!』


 『ご愛読ありがとうございましたッ!!』


 「おいッ!! それは言っちゃ駄目なヤツ―――おごごごごごご?!!」


 喉奥に無理やり流し込まれた核。昔、舐めていた飴玉を誤って飲み込んでしまったときの感覚に近い。違うのは連続的に流し込むかどうかだけどね。


 「ハァハァハァハァ」


 一通り体内に取り込み終えた僕は四つん這いになって息を荒くする。そんな僕を両手の甲から見上げる魔族姉妹。


 一気飲みだったわ。


 『どうですか?』


 「特に......これと言って変化は無いかな?」


 『んだよ、不発かよ。ちぇ』


 さっきまでの感動を返してほしい物言いだね。


 『まぁ、浸透するまで時間がかかるのかもしれません。しばらくは様子見といきましょう』


 「はぁ」


 『さーって肉を焼く続きでもすっかー』


 再び料理の続きをすることになった。が、しかし、


 「『『......。』』」


 長話でもしてたからか、焚火に当てていた肉は真っ黒だ。


 完全に焦げてしまったのである。


 「勿体ないことしたね」


 『仕方ないので、苗床さんが地球から持って帰ってきた食料をいただきましょう』


 『おおー! あーしはあのカップ麺食いたい! 〇王!』


 少しは反省してくれないかな。肉焼くの君の担当だったんだから。可愛らしくはしゃいじゃってさ。


 まぁ、そんなこと言っても、僕も目の前に居たのに、肉が焦げるのを気づけなかったから強くは言えないけど―――


 「そっちに言ったぞ!!」


 「前衛班! 俺についてこい!!」


 「『『っ?!』』」


 急に大声が聞こえたかと思ったら背中に何かとぶつかった衝撃が走る。


 「お、おい! 誰か居るぞ!」


 「ゴブリンか?!」


 「肌の色は深緑色じゃないが、きっとそれ系だ!」


 「なんか焦げた匂いがする!」


 そして続いて現れたのは騎士の格好をした男性陣が4人。


 誰がゴブリンだっつーの。なんだ、“それ系”って。


 「いや、一般人です」


 「なんで一般人がここに?!」


 「入国待ちか!」


 「あ、おい! 来るぞ!」


 「君、こっちへ来なさい!」


 僕の容姿から最初はゴブリンと間違えたようだが、駆けつけてきた一人の兵が松明で僕を照らしてそうじゃないことが判明した。


 そして僕を挟んで奥の方に居る何かに注意を払っているようだ。


 そちらへ振り向くと、一匹の頬が膨らんでいる狼のような生き物が。いや、一匹じゃない。奥からもう三匹現れた。


 『ありゃ“フグウルフ”だな』


 「またフグ系......」


 『しかし今日はついてますね』


 どこが?


 『フグウルフはフグカモみたいにうめぇーんだよ! クールにいこうぜ!!』


 『さ、食料ゲットしますよ。燃えてきましたね!』


 「......。」


 食べるんだ......。

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