第13話 一撃必殺で両殺!
『あたし半分諦めてたんだけど』
「君さ、ほんとそういうとこ良くないよ.....」
『発動条件は‟一か所だけ力むこと”ですね。効果は見ての通り、力んだ所に‟飛躍的な膂力の底上げ”』
『それで足おせーくせに一気に距離を縮めてこれた訳か』
「そ。‟足”だけに【固有錬成】を使ったからだ」
『苗床さんを即死させるレベルの一撃は‟腕”に【固有錬成】を使っていたからです』
だから威力が違った。アイツ自身の膂力で僕を殺すなら頭を狙われない限り僕は死なない。でも【固有錬成】込みならたとえ腕でどこをガードしようが余裕で死ぬ。
『ほー。わかったは良いが、どうやって殺すんだ』
「姉者さんがさっき言ってたヤツに賭ける」
『魔力のほとんどを使えば【凍結魔法】の中級まで可能で、それならアレを一撃で殺せます』
僕は姉者さんを信じてトノサマゴブリンまで全力疾走した。
『マタカッ?!』
トノサマゴブリンは僕の行動に驚く。そりゃそうだ。さっきそれで僕は即死したんだ。
勝利条件は二つ。
僕を凍らせてもいいから、トノサマゴブリンも殺せる一撃で屠ること。
そして僕も同時に死ねること。
『ナンドデモコロシテヤルッ!』
「いいや。これが最後の一回だ」
前者は姉者さん任せ。後者はトノサマゴブリンの腕が対象の【固有錬成】頼み。
チャンスは一回。タイミングもドンピシャじゃなきゃいけない。
『コユーレンセイ―――』
『【凍結魔法】――――』
僕はトノサマゴブリンの射程圏内に入った。奴は余裕が無くなったのか、案の定、右手に持っている棍棒で綺麗な弧を描きながら横薙ぎを。
対する僕は体格差から自身の左手を腰より下から上へ掬い上げるように、奴の胴から上を狙う。
『リキテンショウカッ!!』
『【氷牙】ッ!!』
決着は一瞬だった。
*****
「ああー。かすり傷すら無いのにすっごい疲れたー」
『早く帰って飯にすんぞ。あたしらは食えんけど』
『いや、あの女が帰って村人に報告しているでしょうし、それどころじゃありませんので、ご飯はまだ先ですよ』
まーじか。
僕らはトノサマゴブリンとの戦闘を終えて、周囲に倒れているフグゴブリン達を処分してから帰宅することになった。辺りはもう暗い。すっかり夜だ。僕は月明かりを頼りに歩を進める。
『しっかしまぁ、よく成功したもんだよなー』
『姉者さんのおかげだよ』
「僕の声で自画自賛しないでくんない?」
トノサマゴブリンとの戦闘は無事(?)終わりを迎えることができた。姉者さんが魔力を使わずに溜めていたから一撃で倒せた。
最後の一撃、左手の姉者さんが突き出した属性魔法の一撃は、ヤツの胴体から上を奪った。アイツの【固有錬成】を‟守り”に使われていたら、死んでいたのは僕の方だろう。生き返るけど。
『相手の【固有錬成】を利用して、盛大に吹っ飛んで死ぬとか発想すげぇーな』
「アレが無きゃ僕は【凍結魔法】の副作用で凍ったままだ」
『だから相手の力で凍った自分を砕かせて、回復できる‟外傷”にまで追い込んだと』
『にしてもドンピシャだったな! あーしの【固有錬成】のおかげで生き返ったし!』
「はは。違いない」
『ひっ。急に素直な発言はやめてください。寒気がします』
失礼な。
まぁ、これでやっと長かった戦闘が終わったんだ。もうしばらくは村でゆっくりしていたいな。
「いたぞ! こっちだ!」
「全員心してかかれ!」
『『「っ?!」』』
突如、前方から目が血走った男性陣が複数人現れた。よく見たらエエトコ村の人たちじゃないか。皆の手には武器や松明が握られていた。
「あ、ご心配おかけ―――」
「喋ったぞ! リープの言う通り人語を話せるモンスターだ!」
「背丈は低いが油断するな!」
「顔が平たいゴブリンだ!」
「.....。」
いや、暗いからってモンスターと人間を間違えないでよ。‟顔が平たい”って.....。その松明でちゃんと確認できないのかな。たしかに激しい戦闘のせいで、僕の衣服はボロボロだからほぼ半裸だけどさ。全身血で汚れているし。
村の男性陣がこんなにやってきたってことは、リープさんから報告を受けてトノサマゴブリンを撃退するために武器を手にとってやって来たのだろう。
「ん? あ! ナエドコさんじゃないですか!」
「あ、ジョンさん」
男性陣の中から見知った顔の人物が前に出てきた。
「無事だったんですか?! 大きいモンスターは?!」
「“トノサマゴブリン”ですね。安心してください。倒しました」
「えッ?!」
信じていない様子だから僕はトノサマゴブリンの砕けた“核”を見せた。
核の大きさは大人の男性の拳一個分くらい。フグゴブリン共の核よりトノサマゴブリンの核の方が二回り程大きい。核を砕かれてはモンスターは生きていけないそうだから、これらがなによりの証拠である。
これを見せても、ジョンさん含む村人の皆さんは未だに信じれないといった様子である。
「ほ、本当にお一人で?」
「はい」
『うっわ、即答ぉー』
『死んでただけでしょうに』
僕は右手と左手を叩いた。バチン、バチンと。例の魔法で姉妹の声は皆には聞こえていないだろうが、気持ち的に叩きたかった。僕も頑張ったんだ。これくらいいいでしょ。
「?」
「はは。お気になさらず」
『残念! 手の甲に移りました! ぶはははは!』
『一人で拍手したみたいになりましたね。恥ずかすぃー』
後で絶対仕返ししよ。
*****
「今日は本当に疲れたなぁー」
『ああ。マジでよくやったな』
『いい子いい子してあげましょう』
自分の左手にされてもなぁ。
一段落した後、僕は今、ジョンさんの家の一室で寛いでいる。
『つーかお前、いいのかよ』
「リープさんのこと?」
『ああ』
家に着いたらリープさんが僕に抱き着いてきた。彼女は泣きながら、僕を置いて逃げたことを謝ってきたのである。彼女を落ち着かせるには結構時間がかかった。
『あのまま告れば絶対いけたぜ?』
「はは。一度は見捨てようとした僕に、そんな資格は無いよ」
『とか言って、あの女に抱き着かれたとき、空気を読めない息子はおっきしてましたよね』
「なっ?! どうして―――」
『そりゃあ童貞だからな。ほら、まだ治まってねーぞ』
『あなたは恋愛対象として彼女を見ていたのではなく、性欲処理対象として見ていたのでしょう』
いや、そんなこと..................ない。
「今日は疲れたんだ。もう寝るよ」
『これが疲れマラか』
『いやいや。さっきの女のせいですよ』
「.....。」
本当に
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