第12話 死してなお笑う人

 「へぶしゃッ?!」


 『おーおー。結構飛んだなぁ?』


 『さっきより三メートル遠くに飛びました。記録更新ですよ』


 真面目にやれよ、クソ姉妹ッ!


 現在、僕らはトノサマゴブリンと呼ばれるゴブリンの上位種と戦っています。


 というか、一方的に押されてます。今、あの棍棒を左腕にぶつけられて吹っ飛ばされました。


 『【固有錬成:回復】っと』


 「っつう。さ、さっき時間をかければ倒せるって言わなかった?! もう十分は経つよ!」


 『まぁそうですが、現にその十分のお陰で、あの女性を逃がすことができたじゃないですか』


 たしかにリープさんを逃がすくらいの時間稼ぎはできたけど。


 『オメェナンナンダ! ナンデスグカイフクスンダヨ!!』


 「秘密だ、馬鹿野郎!」


 『しっかし決定打がねーな。鉄鎖で魔力吸収しても元々魔力が大してねーから魔力切れしても肉弾戦で来やがる』


 『加えて【固有錬成】持ち。少し面倒ですね』


 『ウガァアアァアァァア!!』


 「あぶなッ?! 【固有錬成】を使える奴そんな居ないって言ったじゃん!! 稀じゃないじゃん!!」


 『ドンマイ』


 『そういうときもあります』


 トノサマゴブリンが棍棒をフルスイングしまくる。僕に当たるのはもう何回目かな? 二桁はいってるよ。


 でも段々目が慣れてきた。パターンがあるわけじゃないけど、やはりモンスターだからか、棍棒を振り回すことくらいしかしてこない。


 「さっきの目眩ましは?!」


 『ばーろ、フグゴブリンとの戦いを奥で観られたかもしれねーだろ。魔力を無駄にできねー』


 『こちらも視界を奪われるリスクがあります。かと言って、下手に魔法も試せませ―――』


 棍棒ばかりに注意していたらトノサマゴブリンの拳が僕を捉えた。


 『コユーレンセイ、リキテンショウカッ!!』


 「っ?!」


 腹部に重い一撃が炸裂した。まさかの正拳突きである。初めての戦法に、僕は碌に防ぐことができず直撃を許してしまった。衝撃を抑えきれずにお腹から背にかけて“く”の字に身体が変形する。


 僕は後方数十数メートル先まで吹っ飛ぶが、透かさず妹者さんが回復してくれた。


 『あの身体能力を向上させる【固有錬成】が厄介です』


 『記録更新だな』


 「うっ。おうち帰りたい」


 『姉者、今まで吸収してきた魔力量はどうだ?』


 『今のところ、この戦闘において一切魔力を使っていませんから、私には余裕があります』


 「二人共、使える魔法は?」


 『あたしが得意な【烈火魔法】なら初級だけ全部いける』


 『ただ前世に使っていた魔法はほぼ使えません。魔法使う前にあなたの身体がもちませんから』


 「姉者さんは全部使えないのね」


 マジ姉者ゲロじゃん。


 姉者さんの得意とする魔法、【凍結魔法】は氷属性の魔法系統の一種だ。なんでも、その魔法を初級でも使ってしまうと僕の身体ごと巻き込んじゃうらしい。


 凍らせちゃった場合は妹者さんの【固有錬成】を使っても回復できない。まぁ、当然っちゃ当然か、怪我と言うより凍らせただけからだね。


 対して妹者さんの【烈火魔法】は火属性で、姉者さんと違ってちゃんと加減もしてくれるから、魔力のある限りバンバン使える。ちょっとミスられても軽い火傷で済むくらい。デメリットは手加減するから火力が出ないこと。元々殺傷能力の低い魔法ばかりだから、火力は期待できないけど。


 思ったより、この魔族姉妹が役に立たない説。


 『言っとくが、おめぇーに耐久性が無いから火力出せないんだからな』


 『全くです。魔力はあるのに、あなたのせいで一つも使えません』


 「え」


 『『ほんっと役立たず』』


 「......。」


 お互い様ね。


 『コユーレンセイ、リキテンショウカッ!!』


 「うおッ?!」


 『あっぶねーなおい!! 当たってたらTボールみたいに頭吹っ飛んでたぞ!!』


 『リアル逆アンパ〇マンですね』


 バ〇コさんが取りに行ってくれるのかな。


 トノサマゴブリンは僕の頭部を目掛けてバッティングしようとするが、僕はそれを寸前で躱した。


 「なんなの?! コイツの【固有錬成】強くない?!」


 『【力点昇華りきてんしょうか】。見た感じ、身体能力が馬鹿みてーに上がってんな』


 『ええ。一時的なもの、それも単発限りのスキルですね』


 たしかに、攻撃する際に毎回発動させているみたいだ。


 『いいか、童貞野郎。良いこと教えてやる』


 「お、やっと打開策でも思いついたの?!」


 『【固有錬成】持ちの相手とやり合うときは相手の“条件”と“効果”を探れ』


 「“条件”と“効果”?」


 『ああ。あたしの回復スキルだってあんだろ。対象との距離や情報を一定量必要とするって』


 「発動できる条件とどんな効果かをまず知らないといけないのね」


 “発動条件”はわからないな。“効果”はさっき妹者さんが言ったように、身体能力の強化みたいだ。


 僕はトノサマゴブリンを観察した。僕との距離はざっと五、六メートル程。コイツ自体、そんなに素早くないからこうして距離をあければ、なんとか攻撃を受ける回数を減らすことができる。


 『コユーレンセイ―――』


 『来ます』


 『今回は肌で実感しろ!』


 「と言うと?!」


 『リキテンショウカァアアァア!』


 するとどういう訳か、距離を空けているのに、一瞬でトノサマゴブリンが僕との距離を縮めてきた。



 『『死、あるのみッ!』』


 「クソ―――がッ?!!」


 本日何回目だろうか。思いっきり左方から棍棒による横薙ぎを食らった僕は右方へ吹っ飛んだ。そして即座に妹者さんが僕を回復させる。


 そして僕はあることに気づいた。


 『思ったより軽かったな!』


 『だんだん受け身が上手くなってきたんですよ。偉いですね、ナエドコさん』


 「ハァハァハァ......違う。僕じゃない」


 『『?』』


 「アイツの膂力が弱くなっているんだ」


 間違いない。当たり所が良いと即死だが、今僕が受けたのは左腕。そして何回か前に受けたときも左腕。どっちも【固有錬成:力点昇華】込みで、だ。


 「既に受けた箇所と同じ箇所だった。でも違ったのは威力だ。今回のは死ぬレベルじゃなかった」


 『たしかに、前回のは余波で全身の骨とか内臓がぐちゃぐちゃだったもんな』


 『間隔の問題と言いたいのですか? 今回のは十秒前。前回使用したのは今から約一分三十秒前。その前は三分前。そして三分二十秒前には連続で二回使われているので、発動の間隔はバラバラです』


 「ちゃんと計ってたんだ。【固有錬成】の“発動条件”は、基本、魔力無しでバンバン使えるんだよね?」


 『付け加えて言うなら、さっきから何度も姉者の鉄鎖をぶつけているから魔力切れだぞ、あいつ。あのスキルは魔力による威力上昇がじゃねーな』


 『ふむ。どういった理由で威力が上下するんでしょうね』


 僕もわからない。


 でも確信に近い予想はある。


 『ナンデナオルンダヨォ!! シネヨォ!』


 トノサマゴブリンが吹っ飛ばした僕の方へ走り出した。


 「試したいことがある。上手くいけば......たぶん勝てるかも」


 『ほー』


 『なら試してください。ほら、こっちに来てますし、説明している時間はありませんよ』


 「......。」


 『おい』


 『どうしたんですか?』


 「......その前に二人に確認したい。もし、アイツの全力の一撃を......君たちの“核”がまともに食らったら死んじゃう?」


 『かッー!! こんなときにあたしらの心配かよッ!!』


 『ふふ。ありえません。核を露出してあの【固有錬成】を食らった場合でも傷一つ付きませんよ』


 本当に頑丈だね。それが聞けて安心だ。僕は向かってくる敵に対して全力疾走した。


 トノサマゴブリンは右手に持っている棍棒を頭上に構える。 


 『バカメッ!! ハハハハハ!!』


 『ふぁ?! 死ぬぞ?!』


 「今からとりあえず全力で防ぐけど普通に即死する!」


 『......ああー、なるほど。そういうことですか』


 『リキテンショウカッ!!』


 「そしたら少し経ってから治し―――てぎょッ?!」


 僕はそう言いかけて意識を失った。



*****



 「ぶっはー!! 生き返った?!」


 『ナッ?!』


 『おう。おかえり』


 『さ、休んでないで距離をとりますよ』


 意識を取り戻した僕は周囲を確認した。トノサマゴブリンは少し離れた所に居る。きっと先程の攻撃で即死した僕がすぐに生き返らなかったから、終わりだと思い込んで立ち去ろうとしたのだろう。


 僕は一目散にトノサマゴブリンから離れるようにして走った。


 『ッ?! シツコイヤツ!』


 「蘇生させるまで時間を置いてくれてありがとう!」


 『姉者から訳は聞いたぜ! おめぇーおもしれーことすんな!!』


 『ったく。十分経っても敵が離れなかったらどうするんですか』


 そう。以前聞いた話では、この魔族姉妹は僕が死んでも十分くらいは生きていられるらしい。吹っ飛ばされずに今回はトノサマゴブリンの直前で死んでしまったので、即生き返った矢先でフルボッコされる。


 だからあちらが離れてくれないと生き返るにも生き返れなかったのだ。蘇生をすぐしなかったのは、それが理由である。


 『コユーレンセイ、リキテンショウカ!!』


 「くッ?!」


 二十メートルはあった。のろまのくせに一気に僕の所まで【固有錬成】で来やがった。


 そして僕は距離を詰められてコイツの射程圏内に居るから当然、例の棍棒で吹っ飛ばされる。そして即座に妹者さんに回復してもらう。


 「はは。やっぱりだ」


 『ええ。勝機ありです』


 最初は圧倒的にアイツの方が有利な状況だった。


 アイツは嬲り殺せる余裕があるからニタリと下卑た笑みを浮かべていた。


 でも今は違う。


 僕が有利になった。そして.....笑う番だ。


 「姉者さん、僕を凍らせてもいいから、一撃で殺せる魔法ってある?」


 『あるよ』


 『お、あのおっさんの声真似うめーな』


 やめろ。

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