閑話 [妹者]右手担当の妹者さんだ!

 『予定は今日なんだよな?』


 『ええ。今日でこの地球とはおさらばです』


 あたしたちが寄生した男はまだ起きていないな。まだ目覚める時間じゃないからか。


 名前わかんねぇーとなんかなぁー。まぁ、ネームロスの呪いを食らってるから考えるだけ無駄か。


 『いいですか。できるだけ効率的に事を進めたいので、くれぐれも“苗床”を怖がらせないように』


 『あーい』


 『本当にわかってるんですか......』


 わーってるよ。こいつが朝目覚めて、あたしたちに気づいて発狂したら、こっちまで大変な目に遭うからな。


 つうか、“苗床”って。名前がわかんねーからって、その呼び方はあんまりじゃね? ちっとばかしこの男に同情するわ。


 『では最後に確認をします』


 『要らねーよ』


 『.....。』


 『じょ、冗談だよ。偶には気を抜かないとしわが増えるぜ?』


 『余計なお世話です』


 こ、怖ぇー。姉者って黙って睨んでくることがあるからなー。


 『まず寄生したときから決めたように、苗床には今日一日自由にさせること』


 『おう。この星で過ごす最後の日だもんな』


 『ええ。一日だけというのはどうかと思いますが、私たちの存在は地球においてリスクを負うだけですから』


 『ああー、なんでこうなっちまったんだか』


 『今更何を言っているんですか』


 地球に来る前の世界では、あたしたち三姉妹の生活はそれなりに充実していた。していたはずなんだけどなぁ.....。


 『ですが苗床が私たちを拒絶した場合、強制的に異世界あちらへ転移します。できれば満月と日付が変わるタイミングが望ましいですが』


 『拒絶はしないだろ。記憶見た感じだとこういうファンタジー要素が大好物みたいじゃん、このアニオタ野郎』


 『ある日突然両手に魔族が住み着いたことをファンタジー要素で片付けるんですか』


 『ダイジョブダイジョブ~』


 『まぁ、それはそれで私たちにとって好都合です』


 『優しく接しとけば平気だろ』


 『あなたがそれを言いますか.....』


 あーし、充分優しくね? 美人で強くて優しいとか一目惚れ案件だろ。


 『あと【固有錬成】の事ですが.......』


 『わーってるよ。隠せば良いんだろ』


 『ええ。私も嘘の【固有錬成】の情報を言います』


 『んな、嘘つかなくても平気じゃね? こいつなら――』


 『苗床の記憶を覗いただけで“個”として判断するは早計です。大事なのはこれからどう変わっていくのか』


 『.......。』


 ああ、思い出したくもねー。元気にしてっかなー、あのクソ野郎。次会ったら殺すけど。


 『あなたも充分痛い思いしたでしょう? 力を持った者の末路を』


 『....コイツとアイツは違ぇー。と言いたいが、次は慎重にって散々話し合ったもんな』


 『ええ。まずは様子見です。事情を話すのは異世界に行ってから。そうすればもう後戻り出来ませんし、苗床は私たち以外頼れるツテがありません』


 『性格わりぃー』


 『姉としてはあなたたち二人の安全が最優先です。憎まれ口くらいが心地良いですね』


 『......わるい』


 『ふふ。謝るくらいなら言わないでくださいよ』


 そうだ。これからすることは姉者だけで決めたことじゃねー。私たち三姉妹が決めたことなんだ。


 .......いや、あたしの妹は猛反対してたな。


 『とりま、とことん楽しもーぜ?』


 『馬鹿ですか? 状況的に楽しめる訳ないでしょう』


 いーじゃんいーじゃん! せっかくの転移なんだからさ!


 『ピピッ! ピピッ! ピピッ!』


 『うおっ?! なんだ目覚まし時計が鳴っているのか』


 『おや、もうそんな時間ですか。さ、気を引き締めていきますよ』


 『ピピッ! ピピッ! ピピッ!』


 『......。』


 『妹者?』


 『ピピッ! ピピッ! ピピッ!』


 『ピピッ! ピピッ! ピピッ!』


 『.....はぁ』


 おいおい。そんな呆れ顔で妹を見んなよ。


 なぁに、ちょっくら発声練習がてら驚かすだけだからよ。


 かかッ。楽しませてくれよ?

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