第5話 そして異世界へ
『ほぉー。記憶でも見たが、結構立派な浴室なんじゃね?』
『コレが泡が出る入浴剤ですか。とても興味深いですね』
「はは、ここだと声がよく響くから抑えてね」
今は誰得の僕の入浴タイムだ。
ちなみに両手に彼女らが居るため、使い捨てのビニール手袋を着用した。じゃないと彼女たちの口にシャンプーやボディソープが入っちゃうかもしれないからね。
『うおううおううおう! もうちょっとゆっくり洗えよ! 酔うだろーが!』
『私ももう少し抑えていただけると助かります』
「え、あ、うん。ごめんね」
いつものように髪を洗ってただけなんだけど速すぎたみたい。なんなら引っ込んでてくれればいいのに。
一通り洗い終わった僕は湯船に浸かった。
「んんーぎもちぃぃいいい!」
『キモッ.....いけど気持ちはわかる! 五臓六腑に染みわたるぜぇー』
『んっ! 久しぶりに浸かると身に染みますね』
ちょっと姉者さんの声がエロくてムラムラしたのは黙っておこう。自分の手だぞ。落ち着け。
「ああー、なんか急に異世界行きたくなくなったぁ」
『かかッ。あっちにはお前が愛して止まないエルフやケモ耳美少女が居んぞ』
「くっ。でもヤれるかわからない!」
『ヤリ目かよ』
そりゃあこっちでは諦めていた童貞卒業を異世界なら卒業できるかもしれないじゃないか。
『あの、私たちも居るんですよ?』
「っ?! 僕は一体どうすれば.....」
『すんな。つーか、もうちょん切っちまえ』
痛い痛い。ち〇こ切るんだったら両手切ってやる。
僕らは話しながら、しばらく湯船に浸かった。
「異世界.....かぁ」
『行ってみねーと実感わかねーよな』
「というか、気になってた事があるんだけどいい?」
『なんでしょうか?』
「三大美女.....
『あたしらと同じでてめぇーの中に居んぞ』
「マジか。まだ一回も会話したこと無いんだけど」
『あの子は.....目覚めてません。だから当分の間は私たち二人だけです』
じゃあそのうち三人の魔族が僕の身体で活動するってこと? なにそれ。ホラーじゃん。今も充分ホラーだけど。
もう両手塞がってるよ。せめてローテしてほしいな。
「ふーん?」
『おい、のぼせてきてんぞ。転移する前に眠くなったらどーすんだ』
「あ、ごめん」
『緊張感ねぇーな』
だってまだ実感わかないんだもん。そりゃあ両手がこんなんだから異世界はマジであるって信じてるけどさ。
.....早く目で確かめたいな。
半信半疑な僕は少ししてから風呂場を後にした。
*****
「歯ブラシOK、食料OK、ナイフOK」
『オ〇ホOK、〇ぺOK、コン〇ームOKって最後は要らないか! 使う日なんかこねーし!』
『いえ、オ〇ホに使ってもらいます。衛生面を考えれば必要ですから』
「......。」
ほんっとプライバシーもくそもないよな。
『さ、苗床さん準備は良いですか? 転移開始、十分前です』
「う、うん」
いよいよか。時計を見れば二十三時五十分。日付が関係しているのだろうか。そう言えば今日は満月だな。それも関係しているのかも。
『おら、あたしが引っ込んでてやるからさっさと遺書書け!』
「い、遺書って。縁起でもないな」
『ふふ。目を瞑っててあげますから安心してくださいね?』
いや、そもそも本当に目があるかわからないから、それが一番不安でしかない。
それともあれかな? 目無いだろってツッコミ待ちなのかな?
そして右手を見ると宣言通り、ちゃんと妹者さんは引っ込んでてくれた。うるさかったあの口が無い.....。これが普通なんだ。今までの僕の手なんだ。
だからか、つい左手と比べてしまった。
『手、停まってません?』
「ご、ごめん。すぐ書く」
家族へのメッセージはもう決まっている。ベタだけどそれしか書けないし、変に気遣った内容を書く資格なんて僕に無いからね。
「書き終わったよ」
『はい。それでは転移の詠唱を始めます。荷物を持ってください』
「うん」
書き終わったことを知らせたら姉者さんが詠唱を始めた。ちなみに部屋の明かりは消した。点けっぱは家族と地球に優しくないからね。
うお、すげ。姉者さんが早口で何か言ってるが、何一つわからない。何語? ねぇそれ何語?
というか、僕、
『詠唱が終わりました。転移三十秒前です。一瞬宙に浮きますが、慌てないでくださいね』
「うおぉぉぉおぉおお!!」
その言葉と同時に僕の足元から、無数の文字が羅列している輪のようなものが浮かび上がった。そして何重にもなって僕をその中に閉じ込める。時間経過と共にそれらは明るさを増して光り出した。
「魔法陣だぁぁああぁぁぁああ!!」
『あまり騒がしくすると家族に気づかれ――――』
「おい%&ッ!! うるせーぞ! こっちは暇なお前と違って勉強してんだよッ!!」
「『っ?!』」
偶々廊下を通っていたのだろうか、兄が閉まったままのドアを叩きながら怒鳴ってきた。
やべ。すぐそこに居るとは思わなかったから、つい興奮して大声を出しちゃった。
『てめぇー、そんな騒がしくしたら近所迷惑だろーが』
「君に言われたくないな―――って妹者さん戻ってこれたの?!」
聞き覚えのある声が聞こえてきたと思ったら、右手には妹者さんが復活していた。
『くくッ。[愛してる]だってよ。なにくせぇーこと書いてんだよ』
「んなッ?! 見たの?! 引っ込んでるって約束したじゃん!」
『はぁ。私たちの声、絶対に部屋の外に居る彼に聞こえていますよ』
「あ?! なんで女の声が聞こえんだ?! おい!」
うるさい兄だ。そう言えば、鍵締めてなかったな。開けられたらこの不思議な現象を見られちゃう。
『ったりめーだろ。簡単に魔族を信じんな』
「約束したのにぃ」
『はいはい。あ、それと書置の内容、漢字間違えてましたよ。[検と魔法の世界]ってありましたけど、正しくは[剣と魔法の世界]です』
「もうヤだぁ」
二人とも嘘つきじゃん! これから信用して大丈夫なのぉ。
「#*! 聞いてんのかッ!!」
「あ」
突然部屋のドアが乱暴に開かれた。怒鳴り散らす兄が開けたのだ。
このタイミングでご対面である。相手は驚愕した表情で僕を見つめている。
「えッ?! 光って――え?!」
「え、えーっと、グッバイ!!」
『君の、運命のヒトぉはぼぉくじゃない~♪』
『失礼します』
「ちょッ!―――」
「あ! 妹者さん、なんで中指立てるのッ?!」
『あたしじゃねーよッ!
『ふふ。これくらい良いじゃないで―――』
瞬間、宙に浮く感覚と共に僕の意識は途切れた。
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