第二章 街にはまだ行けないんですか?
第6話 期待とは裏腹に
「うわぁぁぁああああぁあぁ!!」
『あばばばばば!』
『寒いですね』
拝啓、お父さん、お母さんお変わりなくお過ごしでしょうか? 僕は元気です。
「なんでッ?! なんで転移したらここからなのッ?!」
『座標間違えたんだよッ! 言っとくが詠唱唱えた姉者のせいだからな!!』
『すみません。久しぶりに唱えたので間違えました』
元気ですが、それもあと少しみたいです。
だって僕、
「どこをどう間違えてスカイダイビングしなくちゃいけないのぉぉおおお!!」
高度約三千メートルの空中に居ますもん。
しかもパラシュート無しで。
*****
『かかッ。これは普通に死ぬな! あばよッ!』
「いや魔法でどうにかしてよッ!!」
『魔力の残量は0です。魔法は諦めてください』
いやいやいやいや!! 諦めるってなに言ってんの?!
諦めたら
『まぁ、落ち着け。姉者のことだからなんかしら考えてある』
「だよねッ!! 良かった!」
『.....。』
『姉者?』
「姉者様ッ!!」
『.....てへぺろ』
死ねッ!!
『『「あ」』』
ズドン。異世界の地に完熟トマトが落下した音である。
*****
「げほっ。ハァハァハァ.....うえぇ、おえっ」
『スリル満点だったな!』
『ふふ。計算通りです』
気が付けば、すでに二人は僕より先に目覚めていて、僕の服はボロボロだった。周りを見ると緑が生い茂っていて、木々が日差しを遮っている。
どうやらどっかの森の中らしい。時間は日の高さを見るとたぶん昼くらい。
......身体は無傷だ。どういうこと?
二人はいつも通り僕の両手に居るし。
「なんだ、魔力無いとか言ってた割にはちゃんと、着地できたみたいじゃないか。服は無事じゃないけど」
『いえ、私たちの魔力は空でしたので、魔法は使ってません』
「は?」
『ぶはははは! あたしのおかげだよ!』
「いや、無傷だよ? 魔法じゃなかったら死んでたよ?」
『苗床さんが生きているのは【固有錬成】と呼ばれる、所謂スキルのおかげです。良い機会ですし、さっそく説明に入りましょう』
“固有錬成”?! なにそれッ?!
『まず【固有錬成】とは、この世界で生きとし生ける者全てに与えられたスキルではありません。持っている者とそうでない者を比べるなら圧倒的に持っている者の方が少ないです』
「希少なものってことか」
『そうだ。先天的、後天的、血筋、種族、努力の有無問わず奇跡的に自身に取得されんだ』
「へぇー」
『で、その【固有錬成】を私たち姉妹はそれぞれ一つずつ有しています』
「すご.....いことなんだよね。あんまピンとこないけど」
つまりそのスキルのおかげ僕はあんな高さから落下しても助かったのか。
でも変だな。身体は無傷だけど、服はボロボロ。口の中は少し血の味がするし、僕が落下した辺りは血が飛び散っている。.........これ、もしかして僕の血?
『ま、いきなり【固有錬成】の凄さを説いたってわかんねーよな。ちなみにあたしの【固有―――』
『―錬成】は回復です』
「回復ッ?!」
『.....。』
『ええ。その回復効果であなたは助かりました。この回復は蘇生効果も含まれます。ですので瀕死、即死問いません』
「蘇生ッ?!」
待って待って! その回復スキルで僕の身体を回復させたってこと?! 蘇生効果もあるってことは僕はこの悲惨な状況からして一回死んで生き返ったのか!
というか妹者さん、自分のことなのにだんまりだ。姉に自慢どころを奪われて拗ねたのかな。
「ん? でも魔力は0って言ってたよね? なんでそんな神スキル使えるのさ」
『そこが【固有錬成】の特権だ。このスキルは基本的に魔力を消費しない、使いたい放題のスキルなんだよ』
「すごッ!!」
『だろー。だからお前が死んだ後、魔力無しで蘇生させたんだよ』
「あれ、僕が死んだら君らも死ぬんじゃないの?」
『すぐ死ぬ訳じゃありません。私たちの核がダメージを負わなければしばらくは平気です。そうですね、今のところ十分くらいなら平気です』
「なるほど。よくあの高さで傷つかなかったね」
『頑丈にできてっからな。イメージ的にそこら辺に生えてる雑草みたいなもんよ。引っこ抜いたからといって、すぐ枯れるわけじゃないだろ?』
だからって自分たちの
そっか、じゃあ僕はこれから怪我しようが死のうが妹者さんが生きてさえいれば、その場で即復活できるんだ。
「っというか、何が『計算通りです』なの?! 僕死んでんじゃん!」
『いえ、思惑通りです。ほら』
そう言って、僕の左手は近くにあった白い木に指を差した。その白い木は葉がもこもこしていて、たんぽぽの綿毛みたいだ。
『落下直前に苗床さんの荷物をあの綿の木の上に放り投げました』
「“綿の木”?」
『ええ。その名の通り葉が綿のようでしょう? 荷物にはちょうどいいクッションです。ちなみに全身真っ白なところからわかるように光合成はしません。大地に流れる魔力だけで生きています』
こんなの地球じゃ見ないな。そう考えると、この真っ白な巨木が目の前にある時点でマジで異世界なんだなって実感してしまう。
『おい! ぼさっとしてねーで早く取って来いよ!』
「あ、うん」
僕が異世界に来てまずしたことは不慣れな木登りである。
*****
「ステータスッ!」
『『.....。』』
「エク〇ペクト・パト〇ーナムッ!」
『『........。』』
「皆ッ! オラに元気をぉおおおぉぉおお!!」
『..........。』
『気が済んだか? なんで異世界に来たばかりのお前に元気を分けなきゃいけねーんだよ』
僕は絶賛絶望中である。
「だって異世界に来たら普通はするじゃん!......プロパティッ!!」
『やめろ。怒られんぞ。せめてスパンおけ』
誰に?
『苗床さん、そろそろ現実と向き合いましょう。そんな設定無いです』
「じゃあ僕は自分の今のレベルを確認することも、成長したときの数値も見れないのぉ」
『紛うことなき0だ。0に何掛けても0だ』
ちょっとは慰めてよ。この鬼ぃ。
『それでは今後の方針を説明します』
『あたしたちの目的はまずは身体を取り戻すことだ。この世界のどっかにある。が、それまでにしなくちゃならねーことが山程ある』
「そう言えば、妹者さんの【固有錬成】は回復なんでしょ? だったら自分の核に行使すれば復活するんじゃないの?」
『できたら苦労しません』
『スキルの発動条件の一つとして、まず肉体が消滅でもしない限り、核から離れた状態にある肉体が一部でも残っていたら、その核から肉体ごと回復できねーんだ』
「なるほど」
『その肉体の回収か破壊が第一目標となります』
「じゃあそれが達成出来たら、僕の身体から出られるんだ」
『ところがそう上手く事は運ばねぇー』
え、まだあんの。
というか、なんで二人はそもそも身体が無いのさ。魔族ってことだから人間と戦争でもして失ったのかな。
それなら僕は人類の敵になるじゃないか。
『0から全身の肉体を回復、つまり生み出すことに等しい行いにはその対象物の情報が一定量無いといけねーんだ』
「自分の身体でしょ?」
『ったりめーよ。自分の身体は自分がよく知ってる。Gスポとかな』
真面目な話の最中に下品なワードを出さないでほしい。
「じゃあなんで――」
『情報は肉体所有者の名前を含む。言ったろ? あたしたちはてめぇーに寄生する前からネームロスの呪いを食らったって』
そういえばそういうこと言ってたね。だから“妹者”さんか。
その肉体の情報が必要だから2か月も前から僕の中に寄生して、記憶から情報を得ていたのか。
「でも僕も名前を失ったけど、
『てめぇーの蘇生は落下してから、そう遠くに肉片が飛び散った訳じゃねーからな。まだ
だからその肉体の一部を回収か破壊、その後、呪いをかけた奴を見つけて呪いを解いてもらうってことか。そして最後に復活と......。
「なるほどね。姉者さんも同じ条件?」
『いえ、私の場合は少し違います』
「少し?」
『目的としては妹者の肉体の回収か破壊のように、私もこの世界のどこかにある自身の肉体を処理しなければなりません』
「それでネームロスの呪いを解いて、妹者さんに復活させてもらえばいいんじゃないの?」
『私は妹者に蘇生してもらう必要がありません。ですので最悪、私個人のことで言えば、ネームロスはどうでもいいです』
蘇生しないってことはこのまま僕の中に居るってこと? なにそれ。強制シェアハウスならぬシェアボディじゃん。
『私自身の【固有錬成】を使えば、ネームロスの呪いは関係無く肉体を作れるので』
「あ、なんだ、別の手段があるんだ。というか姉者さんの【固有錬成】って何?」
『姉者はすげぇーぞ! あたしなんかより数百倍すげぇーからな!』
マジか! 魔力無しで全回復し放題の【固有錬成】でもヤバいのに、それ以上かもしれないのか!
一体なんだろ。三姉妹のうち長女である姉者さんのことだから他の二人よりきっとすごいスキル持っているんだろーな。
『実際に見せた方が早いですね』
「おおー!!」
そう言って姉者さんは僕の意思関係無く、前方に左手を伸ばした。
『うッ』
「“う”?!」
ビームか?! 火球か?! 風穴か?!
『うぉぉおおええぇぇええ!!』
「え゛」
見ると左手から“鎖”が姉者さんの嘔吐という辛そうな声と共に、勢いよくジャラジャラと出てきた。
ガチンッ!
そして流れるように出ていた鎖はそんな音を最後に放出を止めた。
「え、ちょ、え、んー.......え?」
『ハァハァ.....。コレがわたしの【固有錬成】です』
「.....え?」
僕は前方に伸ばした手を戻して確認した。
そこには口から涎のように‟鎖”がはみ出ている、見るからに苦しそうな姉者さんが居た。
.....さっきの『ガチンッ!』って、まさか噛み千切ったの? 鎖を?
『ま、まぁ、姉者の凄さはいずれわかる』
「.....。」
いや、僕にはその“いずれわかる”が永遠に来そうにないです。
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