6枚目 予期せぬ遭遇

 距離が離れているのにしっかりと目が合い、お互いのことを認識している。なんなら名前呼び合っちゃってる。


「なぜここ……」


 言葉を遮る。


「逃げるぞ、異世界少女」


「それって私の事ですか!」


 銀髪少女に告げると勢いよく走りだす。

 だが、抜け穴は氷使いの青年イスミの後方にある。


「待つんだ、自分は格闘家の少女に頼まれて来たんだ」


 距離が近くなると声がはっきりと聞こえた。


「きっとキアちゃんですよ、アロンさん!」


 2人して立ち止まる。横にはダマを破壊されたキング・ブブが倒れている


「なんだ個人的に来たのか」


「そうだ、危険性も含めて上には報告するつもりであるがな」


「事情は分かった、まさかお前に合うとは思わなかったわ」


「それはこちらのセリフだ。急に行方を晦ましたかと思えば冒険者をしていたとはな。正直驚きを隠せないでいる」


 いや、冷静じゃん。喋り方とか。


「じゃ行く。異世界少女、お前どうする?」


 何事もなかったかのように通り過ぎる。


つばめです! 追風燕おいかぜ つばめです!」


「ん……燕どうする?」


「リンちゃん心配ですし付いていきますよ!」


 あ、すっかり忘れてた。お姫様抱っこしっぱなしである。


「無駄足だったか。まぁ帝國民が無事なら良いだろう」


 なんかイスミも帰る流れになってるし、まずったな。この子たち強いだろうし、押し付けてやればよかった。


 3人は抜け穴を通って外に出た。森の遺跡の入り口から少し離れたところ、出たり入ったり自由だが調査となると入り口からがベターとなっている。


「来ーい」


 黒髪の少女を燕に預け、右手を上にあげ振る。グローブに付いてるストラップが2、3度揺れると羽音が聞こえてきた。


「ピャー!」


 ピーちゃんが来た。羽をばたばたさせて俺の頭上を回り始める。


「イスミ君っ!!」


 グローブにピーちゃんが乗ったので頭を撫でていると後方から声が聞こえてきた。


「誰だ」


 警戒する。俺よりも少し背丈の高い男がこちらに向かってくる。


「オルパス分団長ぶんだんちょうっ」


「人命の救助はできたのか」


「いえ、こいつが……ってどこに行った!?」


 面倒事を避けるために燕から女の子を受け取り、なるべく音をたてないようにその場を離れる。

 ピーちゃんとアイコンタクトをして大きくなってもらい、3人で乗っかる。3人乗りサイズなのでさっきよりでかくなっている。


「おい! 待てアロン。貴様には聞きたいことがまだ」


「あいつらはなんだねイスミ君っ」


 下で2人が話している。


「じゃあな~イスミちゃん~」


「アロンさん何で煽るんですか!」


 そのまま自宅のあるほうに飛んでいく。


「彼女らが救助を求めた冒険者なのか」


「は、はい。ですが奴が今連れて行きました」


「……のようだな。一応記録として残しておこう」


 オルパスがこちらに紙をかざして写真を撮っている。それを止める術もないので飛び去る。



 自宅に着く。ピーちゃんは疲れたのか家に着くなり小さくなって巣箱に戻っていった。そりゃ1日に何回も拡縮して飛び回って大変だっただろう。後で高級な餌をあげよう。


「ここって……アロンさんのお家ですか」


「あぁ、そうだ。

 ……って別になんもしねーぞ!

 この子回復させたらもう帝國に戻んな」


 黒髪の少女をソファに寝かせる。回復瓶を振りかけて治癒を図る。


「そのうち起きるだろう」


「アロンさん、少し聞いてもいいですか」


「ああ」


「なんでそんなに向こうのことに詳しいんですか?」


「少し出るぞ」


 そう言って家の外に出る。後ろから燕が付いてくる。起きられて話を聞かれるのも都合が悪くなる。あと燕は初めて会った感じがしない、どこか懐かしい雰囲気がある。


「で、なにが聞きたい?」


「アロンさんって名前からしての人なのにやけに詳しいですよね」


「疑問に思うよな」


 本日2度目だな。ヤマトには結局話さず終いだったけど、適当で言い流せる雰囲気でも無さそうだ。というかこの子は真面目なのだ。


「簡単に言うと俺の師匠が異界、日本だっけか。そこ出身なんだよ」


「お師匠さん?」


「師匠であり、恩人がいてな。

 俺の色も強さも基本的に彼女由来なんだ、ってまだ生きてるからそんな顔するなよ」


 なんか泣きそうな顔してたから言葉を補いながら続ける。


「今はもう冒険家業やめちまって田舎の安全なところに住んでるんだと。

 で、ここは師匠から譲って貰った家、俺の拠点。」

 

 一通り言い終えて燕の様子を伺う。ってなんで俺が顔色伺わなきゃいけないんだよ、取引先ってわけでもねぇだろうが。


「理解できました! アロンさんの強さは師匠さんからのものだったんですね」


「いや、待て。 鍛えてもらったがそれ以降の努力の賜物もある」


 胸を張って言う。何張り合ってんだ俺は。


「ご、ごめんなさい! それもわかってます、必殺技とかカッコよかった

 ですもん。 グラファイト! みたいな」

 

 燕が拳をギュってやってブブを倒した時の真似をしてる。恥ずかしいからやめて欲しいっす。


「ちょっ、しっかり見てんじゃねーよ」


「私もっと強くなりたくって……必殺技とかも作ってみたいんです!」


「そういえば燕は何色を使うんだ?」


 露骨に話を逸らす。


「風です、手からこうブワって出す感じです」


 ジェスチャーを交えながら説明してくれる。でも要領をえない、勉強頑張ってるけど成績伸びないテンプレみたいな子だなぁ。


「必殺技とまではいかないけど風を出すだけじゃなくて、どうやって色を

 操るのが得意かまず見直す。

 実際に冒険者が使ってる色彩武器は基本技以外にも特別できることがあるだろう? それに則って異界人にも得意な動きみたいなもんがあるんだよ」


「ふむふむ」


「俺の場合、鋼色を材質変化って部分で伸ばしたわけだ、そもそも色ってのはエネルギーって考えればいいらしいからどんな形に出力したいかをイメージするのが大事になってくる」


「エネルギー……出力……イメージ」


 うんうん唸ってる。

 ヤバイ。一気に喋り過ぎた。人に教えるのに慣れてないのが丸分かりだ。師匠の受け売り感も否めない。


「要は、基本と応用って話だよ。異界人は最初から武器無しで出来るから難しい部分ではある」


 異界人は体に色彩が備わっている。どういう原理かは分からないけど、この世界に来たら使えるようになるものだと師匠は言っていた。


(「色の形は人それぞれだ、うまく使ってくれよ少年」)


 冒険者のなかには、色彩武器から自らの形を作るものもいるがそんなのは上級者だけだ。なぜなら、武器を伝播して自らの力とするには経験やセンス、技量が重要になってくる。

 ただし、元から備わっている彼女らに至っては話は別だ。異界人にはどんな形にするかのイメージが重要になってくるわけだ。


 って上手く説明できればいいんだけど……如何せん具体性に欠ける。あと言葉にするのは難しい。いや、マジで。文章書くのとかも難しい。ましてや連載なんて。


「ピャ~」


 どう伝えるか思案してると、緩い鳴き声が聞こえてきた。


「おーご飯か、ピーちゃんよ」


「すいません! なんか疑問ってよりも戦闘の話になっちゃってました!」


「いいんだ……っよ」


 巣箱の方に向かい餌をあげながら答える。高級なやつだから心なしか嬉しそうである。


「私は、まだ強くなれるってことですか」


 戻ってくるなり懇願したような目で見つめながら聞いてくる。何が彼女を動かすんだろうか、今でもそれなりに強いはずなのにその行動には焦りさえ感じられる。


「なれる、比べ物にならないくらいにな」


 フワァっと全身が震えてる燕。目がキラキラしている。若さって眩しい、いくつかわかんないけど。俺が21だから見た目的に、それより低いはずだ。


「ありがとうございます! 助けてくれたことも教えてくれたことも!

 でも私もっと戦えるようになりたいんです、もっと教えてほしいです!」


「えっとじゃあ言葉は難しいから実践っぽくいくか」


 燕から少し距離を取る。


「あ、今すぐとかじゃ……」


 何か聞こえたような気がするが、集中してしまってしっかり聞き取れなかった。グローブのストラップを引っ張って構えに入る。


「アロンさん! 一つ疑問が残ってました!」


 手をメガホンみたいにして、大きな声で伝えてくる。


「なんだー」


「アロンさんは、なんでがあるんですか」


「お、それはな……」


 になる寸前で、家の扉が開くのが見えた。


「つ、燕ちゃん……!」


 黒髪の少女が出てくる。


「リンちゃん! 気が付いたんだね!」


「うん、ここ……どこですか?」


「えっと、助けてくれたアロンさんって方のお家で」


 燕がワタワタと説明を始めた。俺も動きを中断して家の方に戻る。


「おはよう、大丈夫かい? 俺はアロン・ディーパーっていうんだ。気が付いてよかったよ」


 営業スマイルが不意に出る。初対面なのでついやってしまった。


「あ、ありがとうございました。その、すごく助かりました」


 控えめに言葉が返ってくる。燕とは対照的に目が合わない子だ、ただビジュアルがとっても良いのでなんか許せる。我ながら美人には弱い。


「目が覚めたならちょうどいいか、帝國まで送ってくよ」


「アロンさん続きは……」


「そうだったな、これ」


 紙を差し出して連絡先を交換する。


「俺のことを先生って呼ぶ奴もいるし、また今度ゆっくりな」


「はい!」


 餌を食べ終えたピーちゃんがタイミングよく出てくる。俺たち3人は背中に乗って帝國に向かったのだった。


______________________________


「アロン・ディーパーだな、関所まで来てもらおうか」


 少女たちを送り届けて門から自宅に戻ろうとするところで数人の男に止められた。


「なんだよお前たちは」


「我々は護衛団オルパス部隊の防衛士だ」


 その恰好みりゃわかるわ、俺が聞きたいのはそこじゃない。


「ふん、これを見ろ」


 紙が付き出される。


「ん……?」


 俺たちが遺跡から出ていく所が撮られたものだ。


「貴様には窃盗の疑いがかけられている。今すぐその鳥をこちらに引き渡せ、銀冠ルバーグを返すんだな」


 えー、知らないうちに、職業無し窃盗の容疑で犯罪者になっちゃってました。

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MnCr-marble 篝火 @kagariB

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