5枚目 戦闘開始
ギリギリのところで棍棒を弾き返す。時間が無かったため、即席で作った刀に似た棒は折れてしまう。まさか、ドン・ブブを倒してキング個体を呼び寄せているなんて思いもしなかった。つか、なんでこの子たち遺跡に入っているのにピーちゃんが見つけられなかったのだろうか。
「そこに転がってるやつらは君たちが」
へたりとその場に座り込んでしまった冒険者に尋ねる。
「は……い」
呆然としている。助けた後の人間は大体こんな感じだ。というか、今まではタイミングを見計らって助けに入っていたが、何のめぐりあわせか、本当に人がピンチの時には間に合うかギリギリなんだもんな。まっこと数奇なもんじゃけぇ。
少女が立ち上がる。意外にタフだ。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「図々しい頼みかもしれませんがこの二人を連れて……」
言葉が咆哮にかき消される。
「グルァアァアアアァ!!!」
攻撃を往なされて怒っているのだろう。その場で猛り狂っているのが見て取れる。
いやいや、何でお前が怒ってんだよ。キレたいのは俺の方だ。全力疾走させやがって、疲れるだろうが。
「仕方ないな、倒しちまうか」
あんなに敵意剥き出しなんだ、やっつけるしかないだろう。放置したままこの子たちを逃がすのも結構至難の業だ。奴の奥の方に抜け穴があるしな。
「
腰のポーチから鉱石を取り出し色を付与して、刀を携える。すると、キング・ブブのヘイトがこちらに向く。
「攻撃当たると危ないから、後ろに隠れてな」
後ろの3人に声をかける。あれ、3人いたよな。1人減ってる。
「燕ちゃんごめん。助け呼ぶから」
スパっと告げる。俺にヘイトが向いた瞬間の隙をついて、倒れていた少女のうちの短髪の子が抜け穴めがけて走り去っていった。
「……キア……ちゃん」
「なんだあの動き、あいつがドンを倒したのか」
呆気に取られる。残った少女たちに視線を落とす。
「ん-、2人ならどうにか担いで脱出できないかな」
その考えも虚しくキング・ブブはめっちゃこっちを見てる。あんなでも理性はまだ残ってるんだな。………って冷静に分析してしまった、気を引き締めるために刀を今一度強く握りしめる。
「行くぜ牛野郎」
2人の少女を背に奴の方へ突っ込む。刀は両手で持ち、剣先を下に向け脇構えを取る。
奴は唸り声を上げながら倒れている樹木から棍棒を生成し始める。
「なんだありゃ色や種族が同じでも個体によって使う技が違うもんなんだな」
前に戦ったキング個体は木から栄養を吸い取って力を蓄えてたな。俺が倒したから、新たなリーダーが台頭したんだろう。こいつらが縄張り争い続けてるってことは、まだ
あー、そういえば再調査だったなここの依頼は!
「ルァア!」
武器を作り終えて向こうも勢いを増す。間合いが近づき棍棒を振り下ろしてくる。
俺は体に急ブレーキをかけて止まる。右足を斜め後ろに下げる。そして刀を構えている右半身を捻りながら振りかぶり棍棒を避ける。そのまま刀身を斜めに振り下ろす。
「体さばき」
棍棒を真っ二つに斬り落とす。
「大きく動きすぎだ、隙だらけだぜ」
下を向いた刃を表に返し、キング・ブブの胸部を切りつける。
「ァァァァ」
棍棒の柄の部分で受けられ、刀による切れ込みは軽傷に止まる。
「まだ理性が残ってやがるか」
あの勢いのまま突っ込んで来たら確実にダマを破壊できていただろう。奴が前のめりになっていた体を引きこちらを見る。浅い一撃で倒せるような相手ではないからこちらも一息つく。
ってあいつ本当にこっち見てるのか。いや違う。俺の奥にいる2人を見据えていた。
「変な理性働かせやがって」
先ほどのものとは大きさの違う小さな棍棒を生成し、俺の奥のほうへと投げ始めた。
「クッソめんどくさいことしやがって」
人を庇いながら戦うのなんて初めてだから勝手がわからない。走って追いついてもすべてを切り落とせるか微妙だ。怪我負わせたんじゃ仕事としてケチがつくだろう。
「破砕、磁性付与」
手に持っていた刀に、再び色を与えてバラバラにする。磁性を持った複数の鉄屑は俺の手首から二の腕の周りを浮遊した。右手の指を2本突き出し銃の形を作る。
「
投げつけられた棍棒を次々と撃ち落とした。俺は少女たちの方へ向かう。
「離れると守りきれねぇ、傍にいてくれ」
告げる。
「私も一緒に戦います」
白みがかった銀髪をした方の女の子が言葉を返す。この子ほんとに逞しいな。自分にとっての強敵を前にしても前に出ようとする精神がある。
「じゃあ君は今みたいな遠距離攻撃が来たら倒れている子を見ていてくれるな」
「はい……!」
気持ち彼女に自衛を任せてみる。
「弾丸結合」
両手を胸の前に構えて銃の形を作る。
「特大のやつくらわせてやるよ」
ズドンッ。
射出する。高速の弾頭が木々の中にいた奴を掠める。
「あぁ………」
そんな声出さんでくださいよ、当たれば良かったけど銃の腕は極めて良いわけではないのです。外れた弾は倒れていない木にめり込んでいった。
「やっぱこっちの方が性に合う」
鉱石を取り出し唱える。
「
「今回のは、ちと切れ味が違うぜ」
今までよりも時間をかけて刀を生成する。刀身は黒みを帯びている。そこらの木々を一瞬にして切り倒す。そしてキング・ブブのほうを向き刀を軽く振り挑発する。
「グルァァアアオ」
挑発に乗ってきた。俺も慎重に数歩前に出る。
棍棒がさっきよりでかい、引っ込んでいるうちにでかいの作ってやがったな。
「あれを上から振り下ろされるとみんな下敷きだな……」
「プラン変更だ、絡めてでいくか」
俺の動きを見ながら突っ込んでくる。嫌なくらい冷静だ。
「でも木じゃ鋼は倒せない……ぜっ!」
バギンッ。振りかぶった棍棒と刀がぶつかり合う。競り勝つ。刀を振りぬいて勢いのままキング・ブブを吹っ飛ばす。飛んで行った方向にすぐさま追いかける。奴は木々になだれ込むように倒れる。
「すごい……」
少女が息を漏らしながら呟く。
「お……らぁ!」
密着して刀を胴体に突き立てる。握っている刀にさらに色を付与する。
「材質変化、磁性付与」
唱えるとその場を離れて2人の方に戻る。
先ほど射出して木にめり込んだ弾丸が刀と反応して吸い付く。
「
薄緑色の巨体に刺さった刀が膨張反応を起こして針の玉のようになり、体躯を貫いた。
「思いのほか時間かかったな」
平原には、なかなかキング個体は現れんからな。平原で修行してたことを懐かしむ。
「あの、ありがとうございました。本当に助かりました」
礼を言われる。いつもと違って疲労感が溜まってる。結構色を使ったし、動いたから単純に体力を消費したんだろう。
「あぁええっと、なんて言えばいいんだ」
状況が違いすぎて言葉が出てこない。遺跡での詰みポイントはドン・ブブかその手前にいる群生地域だからな。え、じゃあ、この子ら強いだろうしレベル上げいらなくねーか。素直に話すか。
「俺の名前はアロン。で、いつもはさ……」
俺は銀髪少女にレベル上げ代行をしていることを話した。相槌しながらうんうん聞いてくれた。いい子だ。
「なる……ほど」
「じゃあ、アロンさんは私たちみたいな異世界から来た人間をカモにしてるってわけですか」
カモって。
「ご、ごめんなさい!言い方良くなかったです」
「救助? 疑似的な。えっと、その……レベル上げを手伝ってくれるいい人だと思います」
一応、金取ってますけどね。
「ちょっと訂正させてくれ。最近は先生なんかもやってるんだぜ」
なんか言い訳っぽくなっちまったじゃねーか。
「え、意外です!」
意外って。
「またまた言い方が……」
少女がシュンとなってしまった。淡く澄んだ白銀の髪が悲しげに揺れる。
「いやいいんだ。歴も浅いしな」
だってさっき開校したばかりだし。なんなら開いてすらない。あれはその場のノリみたいなものだった感も否めない。え、実質無職か俺。涙ちょちょぎれる。
「実際助けられてますし、アロンさんは私の命の恩人です」
「むず痒くなるからやめてくれ」
今日こんなの多くないか。
「とりあえずここから出ないか」
「はい……でも、リンちゃんがまだ」
倒れている子の方へ視線を向ける。って、この子綺麗だな。びっくりするわ。
「俺が担いでく、外に俺の相棒がいるから安全な場所まで連れてくよ」
黒髪の少女を抱きかかえたところで倒れていたキング・ブブがのっそり立ち上がった。
「グゥ……グルァア!」
ダマが破壊しきれていなかった。クソ、見誤った。個体によって位置が多少違うことが原因だ。
「うそ……」
少女が言葉を漏らす。
束の間。
「
薄緑色の巨体は、たちまち鋭い氷によって貫かれた。そのまま横にぐったりと倒れると技を放った者と対面する。
「貴様……アロンか」
驚きを孕んだその声は透き通るように響く。声の主は氷のような青白い髪を持つ、整いすぎた顔立ちの青年だった。
「イスミ……オブリビア」
目を合わせて、俺はよく知る彼の名を口にした。
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