4枚目 振り絞る勇気

 初めての授業もどきが終わった。家に到着するとヤマトが、礼とまた連絡しますを言って去っていった。いつもより伸び伸び仕事ができた気がする。案外教師に向いているのかもしれないが俺の学歴がなぁ、人様に物を教えられるレベルではないので却下だ。まぁなんにせよ今後のことも考えて計画を立てなければな。家の扉を開けて入ろうとするが、そこで翼のはためく音が聞こえてきた。


「あれ、ピーちゃん戻ってきたのか」


「いつもは合図して勢いのまま拾ってくれるのにどうしたんだ」


 そう、いつもであればピーちゃんの胸に付けているペンダントが俺の付けているグローブについているストラップのようなものに反応して合図を送ってくれる。お互いが意思疎通できるようにと師匠が作ってくれたアイテムだ。そんなグローブの上にピーちゃんが乗っかる。猛禽類が乗っても大丈夫なように繊維に金属を織り込んだ特別製なんだとか。シュッとしたフォルムと黒ベースに赤が入ってるデザインも流石だ、男心をくすぐる。


「ピャー」


 何かをこちらに訴えかけてるような鳴き声をする。頭を撫でて聞き返す。


「お腹すいたのかねこの子は」


「ピャ!」


 巣箱のほうに連れて行こうとすると羽をバタバタさせて怒られた。えー、全然意思疎通できてないじゃん俺たち。は嘘だったのかよ、へこむ。


「じゃあ例の冒険者達が見つからなかったのかな、でも眼の効くお前が見つけられないわけないはずだけど、しかも特定の人間をなんて……」


「ピャーーー」


 森の遺跡の方向に向かって鳴いている。 


「なんか嫌な予感がすんな」


 いつもとは様子の違う相棒を見て悪寒が走る、何かが起こってるのか。ただ単にまだ遺跡に行ってなくて見つけられてないだけならいいんだが。でも、あいつら昼も食わずに依頼を受けていたから、その線も消えてくる。


「もう一回飛べるか、相棒」


「ピャーッ」


 元気に返事するなぁ、もふっとしててめっちゃ可愛い。鳴き声と共に俺の手を離れる。グルっと頭の上を飛びながらピーチクの体躯は大きくなり人が乗せれるくらいまでになっていた。もふってる背中に乗り言う。


「目標、森の遺跡。俺たちも再調査だ」


 *****


 遺跡に入ってからは驚きの連続だった。扉を潜った後とは思えない空間が広がっていたからだ。脚兵レギアの統率も平原よりも格段に取れていている事は戦闘を通して、嫌でも理解させられていた。私たちはもうすでに満身創痍で、残りの回復用の瓶も少なくなってきている。


「常にどこかしらから視線を感じるから回復の暇もないね」


「早く抜け穴を見つけましょう……!」


 今いるのは、少し狭い道を通り抜けた先に広がっている、木々の生い茂った渓流のような場所。そこにブブが大量発生したかと思えば、その後ろにさらに大きな個体ドン・ブブがいた。下っ端への戦闘は、リンちゃんが水を発生させ私の風で薙ぎ払う。その攻撃を盾にしてキアちゃんの打撃で残りを打つことで難なく突破できたがボス個体がいたのでは話が違う。ボスを囲うような陣形を取り、こちらの攻撃を受けた後に技の後の隙を突いて反撃を返してくるなんて、頭を使った戦法だった。


 そんな攻防を何度か繰り返すうちに、ドン・ブブは棍棒を使い振りかぶって直接攻撃を仕掛けてきた。だが、キアちゃんが真正面からぶつかり、拳であいこに持っていった。その反動で後ろにのけぞった所を私がありったけの力で風をぶつけ、辛くも生命活動の核ともなるダマを破壊し勝利した。


 そして、先ほど戦ったドン・ブブの亡骸が横に転がっている。


 抜け穴の場所を見つけるために遺跡の奥へと進む。森の遺跡は進めば進むほど、木々が生い茂り周囲の景色すら隠してしまう位で、迷い込んだような感覚に陥る。実際に木はたくさんあるし森の遺跡ってだけはある。って冷静に分析している場合じゃなかった、結構ピンチかもしれない。ちょうどこの近くの抜け穴から脱出できるみたいだし、はやく撤退してしまおう。


 ざわざわと葉っぱ同士が重なり、揺れ動き、生物特有の気配を近くに感じさせる。


「もしかしなくても私たちピンチかな」


「まだまだぁ、ここでさっきより大型とかが出てきたらヤバいけど」


 完全にフラグが立ってしまった。


「グルァァァアアアッッ!!!」


 ドン・ブブの鳴き声もうるっさかったけどそれより遥かに上だ。木々をなぎ倒しこちらに迫ってくる。周囲にいた複数の気配が遠くへ行くのがわかった。他種族の脚兵レギアが弱った私達を狙っていたんだろうが大型脚兵レギアの登場に恐れたのだろう。


「なに……こいつ」


「さっきのブブより全然大きいじゃん……」


 想像以上、先ほど倒したドン・ブブよりも1回りも大きいブブが出てきた。


「さっきのがボスじゃなかったってことですか……」


 3人とも愕然と立ち尽くす。ドン・ブブでもあんなに苦戦したのにそれより大きい奴なんて勝ち目があるのかもわからない。私の恐怖の要因は、まだあった。こいつをもし倒せたとしても、他種族に同じくらいのがいたら絶対に負けることがわかったからだ。


「……つばめちゃんどうする」


 言葉に詰まる。ここを上手く切り抜ける策なんて思いつかない。でもこの団のリーダーは私なんだ。


「できるだけ重い一撃を当てて向こうが怯んでいるうちに逃げよう」


「わたりました……」


「よっしゃ、承知っ」


 私の声に2人が返事するが、怯えと空元気が声音から簡単にわかる。


「リンちゃん、いつものちょうだい!」


「はい……! 攻水色シャワー

 唱えるとリンちゃんの持つ杖から水が生成され大型脚兵レギアの方に降り注ぐ形で攻撃される。私は両手を胸の前に構えて先ほどの水めがけて風を撃ち放つ。


「特大の風っ!」


 水は風の勢いを借りて斬撃のように巨大ブブに襲い掛かる。水は、そのままでは攻撃手段としては薄い。だが、このように風で圧力を付与することで衝撃波の様相を呈する。


「おりゃぁあああ」


 キアちゃんが水の斬撃の後ろから突進する。無謀に突っ込んでいるように見えるかもしれないが、水風の合わせ技には利点がもう1つある。

 ザッパーンと斬撃が相手にぶつかるとその水は勢いに任せて周囲に飛び散る。これが狙いなのだ。勢いを与えることで敵に当たった際、疑似的に霧ような物を発生させ、敵の視界をくらますことができる。その後、瞬時に飛び掛かったキアちゃんの拳がゴンッと敵に命中した。


「みんな、早く離脱しよう!」


 呼びかける。


「は、はい……!」


 リンちゃんの声が水滴と土埃の中から聞こえる。


 バンッ。


 自分の背後から物と物がぶつかる音が聞こえた。嫌な音だった。慌てて振り返り2人で音のした方へ駆け寄る。


「キアちゃん!」


 投げ飛ばされたのか、岩にぶつかりぐったりと倒れていた。


「キ、キアさん……」


 リンちゃんが悲痛の声を漏らす。仲間がやられたショックでか、リンちゃんも気を失ってその場に倒れてしまった。


「はは、2人を担いで逃げられるかな」


 正直無理だ。リンちゃんが起きていたとしても、抜け穴もまだ見つかっていない。何より一撃で近接特化のキアちゃんをやっつける奴から逃げられる気がしない。


「そろそろ霧が晴れちゃうな……」


 力を振り絞り、立ち上がって倒れている2人の前に出る。泣くな、何か方法があるはずだ。


「ルァアアッッ!!」


 奴が、かすれた霧を振り払いこちらに視線を向ける。持っていたはずの棍棒が折られており武器は持っていなかった。


「武器を犠牲にして……」


 だが、私の小さな安堵すら潰すように、奴は色を使い倒れた木々から新しい棍棒を生成し携えた。


 泣くな。何か方法が……。わからない。誰か。よそ者の私はいいんです、この2人だけでも助けてください。願う。


「グルァァア!」


 願いもむなしく棍棒は無慈悲に3人襲う。思いっきり目をつぶる。


「……」


 刹那。遠くでドンっと音が鳴る。私はつぶっていた目をおそるおそる開く。

 私の目の前には、見知らぬ男の姿があった。男は振り返って、私にこう言った。


「間に合った。大丈夫か、勇気ある冒険者さん」


 *****

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