3枚目 出発と個別指導
*****
私たち3人は平原と町を繋ぐ門の近く、城下町の外れに来ていた。右手側に並んで歩いてるのが格闘家のキアちゃん。左手側が魔法使いのリンちゃん、3人でパーティならぬ冒険団を組んでいる。大通りに出て、露天商がいくつか並ぶのアットホームな街並みが続くなか、少し古ぼけた扉を開いてお店に入る。ここは武具屋さん、武器や防具、回復アイテムなどが売ってある。
「ごめんくださーい」
「いらっしゃい」
中に入ると、ずらっと並ぶ装備品や瓶の数に圧倒される。今日は遺跡調査に備えて回復用の
「どのくらい必要になるかな?」
「んー、キアも遺跡は行ったことないけど持てるだけ持ってった方がいいんじゃない」
「でも私たくさん持てるような格好してないな」
「大丈夫……です。わ、私が全部持ちます!」
「いいっていいって、全部持たせるとか私たち感じ悪いよ」
笑い交じりに答えを返す。
「姫に持たせるわけにはいかないじゃんー」
「でも……」
リンちゃんが口籠ってしまった。彼女はハイロン家っていうお金持ちの家のお嬢様なのだ。本名にして、リンフォニシア・ハイロン。もう響きが高貴。
「キア達強いし案外ちょちょいと終わっちゃうかもだしね」
「そんな上手くいくかなぁ、でも地図を見たら途中に抜け穴もあるみたいだしいつもより少し多めくらいでいいんじゃないかな」
「わ、わかった……」
「店員さーん」
キアちゃんが物を持って早速会計の方に向かって行ってしまった。いつもながら思うけど、行動力あるなぁ。
いつもより2個ほど多めに回復用の
これはこっちに来てから調べたことなんですが、物に色が宿る
門をくぐり平原に出て森の遺跡を目指す。私たちの移動は、基本的に徒歩なのが悲しいところだ。実際こっちは、都市と都市が繋がっておらず点在していて、上から見たら水玉模様みたいな形をしていた。図書館で本を読んで知識をつけたので結構詳しいです私。
「リンちゃん、地図任せっきりで大丈夫?」
「はい! ……戦闘ではあまりお役に立てないので…」
地図を力強く見ながら前を歩くリンちゃんが可愛くみえてつい話題を振ったが、元気に答えてくれたかと思えば、シュンとなってしまった。いや、この子本当に可愛いんですって。クラスにいたら一番。いや、学年でも余裕で一番で先輩とかが見に来るレベル。すらりと胸当たりまで伸びた黒髪、控えめな性格なのに控えめじゃないモデルみたいな体型。顔立ちは端正なのに、どこか幼さを残したクリっとした目が…ってなんかキモイですね私。でも、かわいい子は正義なので仕方ない。
「いやいやー基本ゴリ押しのキアよりもよっぽどだよ」
「キアさんは戦闘慣れしていてすごいです」
「ふふ、なんか照れるな~」
目の前で拳をシュッシュと見せて照れ隠しをしている。そんな彼女の両手にはちょっとごついグローブが付いてる。これも色彩武具の一つで自分の力を増してくれるため、さっきリンちゃんが言ったようにゴリ押しスタイルだ。私は横で、色瓶を持ちながら空にかざして眺めていた。
「燕さん、どうされました」
「これって回復用の
「そうなるねー」
「じゃあ、相手が草色使いだったらヤバイんじゃないかな」
「確かに!森の遺跡ってくらいだからいてもおかしくないじゃん」
「でも、回復用のものは薬草などから出る色を調合して作られているって聞いたことがあるので攻撃に転じるのは難しいんじゃないでしょうか……」
「同じ色とか、系統が同じでもできることが全然違うってことになるのか」
「私も水色を使いますが攻撃面は……」
そのまま3人で色がどうのこうの、の話になる。詳しいと言いましたが、まだまだあまちゃんでした。こっちに来て半年も経っていないので、仕方ないところもありますが、もっと勉強しなければ。どうも色彩は道具を持っていろいろやってみないとわからない部分が多いのかもしれない。異世界への入場者特典で、風色が無条件で使えるようなった私は現地の人からするとズルをしているように映るかもしれない。
平原を歩いていると何度か
「もう遺跡近いですよね、みんなで……これ着ましょう!」
フンッと取り出したのは薄い色で迷彩柄の薄い布のようなものだった。
「何その布切れみたいなのー」
「
「え、凄いそれ、リンちゃん!」
思わず前のめりで反応してしまう。興味なさそうだったキアちゃんも心なしか前のめりだ。
「時間制限あるし、強い
「それでもすごいよ、私たちはあくまで遺跡調査に来てるんだからね。無駄な戦闘は避けるべきだよ」
「なんかしゃらくさいけどその通りだね」
3人ともマントのように布を羽織る。顔だけニョキっと見えててちょっと面白い。
「ところで、こんな凄いのどこでゲットしちゃったわけ?」
「えっと、姉と父が持って行けってうるさくて…」
「さすが姫やなー」
「うぅ……恥ずかしいです」
うん。さすがお嬢様だ。多分お高いアイテムなんだろう、汚さないように早く遺跡についてしまおう。
「よし、それじゃ行こうか」
小声で言うと、同じようなトーンでおーが返ってきた。
*****
場所は戻ってキャンバス平原、アロンの家より少し離れたところ。
「到ー着」
歩いている間に俺が今何をやってるかをマント少年に話したら少し怪訝な顔をしたが、納得したのか付いて来てくれた。素性もわかってくれたみたいだし、今営業モードだから優しく見えてるはずだ。根拠はないけど。
「本題に入ろうか」
「……はい」
「俺が君の手伝いができるのはレベル上げてあげること、わかりやすく言うと俺が
「それだと、経験値をハイエナしてるだけなんじゃ」
「あー、さすがにお金もらうよ。群生種の
「なるほど」
「でも、それだとレベルが上がるだけで僕自身は何も変わらないんじゃ」
いいところを突く疑問だ。
「普通の人間ならな、でも君は異界の冒険者じゃないか」
「武器の扱いを覚えながら脚兵を倒して
マント君の顔色が変わる。何かを察したみたいだ。
「じゃあ、僕たちはレベルを上げて色をぶっ放してるだけでいいんですか」
「朝の戦闘で力が及んでいないことを痛感しました、あなた言ったじゃないですか!足りないものがあるって……」
この少年は今までの異界人と違って目が死んでいなかった。自分の生に対して楽観を捨てた目に変わっているように見えた。
「君は戦う意思があるんだね」
「はい……!」
力強い返事の後。しっかりと目を見据えて。
「僕に戦いを教えてください、先生。」
とても気持ちいい響きが聞こえてきた。え、先生とか初めて呼ばれたんだけど、なんか背筋の辺りがぞわぞわしてくる。俺も今までの優しさのある声音から普段通りのものに戻す。
「わかった。……お前名前は」
「ヤマト、いえ
「やっぱ、そっちの名前の響きはかっこいいな」
「先生はなぜそんなにも詳しいのですか」
「色々あってな、おいヤマトそんなことより構えろ。何でここに来たかわかるぞ」
大地が少し揺れる。影が遠方からこちらに向かって近づいてくるのが見える。
「……ブブですか」
「いつもなら負かされた相手をボコさせて自信をつけるんだが」
「俺も指示をする。だから自分で考えて動いてみろ」
「わかり……ました」
そうだよな、さすがに怖いよな。人に教えるのって本当に難しい。なにせ今は客じゃなくて、生徒なんだしな。え、むずがゆっ。
「ヤマト、武器使うなら何がいい」
「剣とか、弓みたいなことですか」
「ああそうだ、素手は怖いだろうから作ってやるよ」
「えー……っと」
揺れが強くなる。ブブの集団が近づいて来ている、数は7匹といったところか。この平原にいる脚兵は同種族他種族関係なく縄張り争いが頻発している。
「なんでもいい、来ちまうぞ」
「じゃ、じゃあ剣で」
腰につけてるの戦闘用小型バックパックから鉱石を取り出して色を付帯させる。
「
「はじめにこっちに気づいたやつの腹の辺りを斬れ」
刀をヤマトに渡して指示をする。こちらを疑問の表情で見るが敵もすぐ近いので向こうに視線を戻す。
「やぁぁぁぁああ」
声とともにブブの腹部が斬られる。だが、まだ息があるようで立ち上がろうとする。
「集団が止まった」
「集中しろ、色を刀に乗せるイメージだ」
「ブブの
「はい!」
その後、ヤマトは4匹倒したが残り3匹に連携を取られてしまい、俺が残りを処理をした。
「先生、剣を急に使わせるなんて無茶ですよ」
「いや悪いな、でも俺の師匠が異界人は例外なく真剣を躊躇なく振れるって言ってたぞ」
「そんなのフィクションですよ、剣道してたからって真剣が降れるわけないじゃないですか」
「よくわからんが、なんかすまんな」
「でも、色の有効的な使い方少しはわかっただろ」
「はい、少しは」
「あの先生、これからも稽古なんかつけてくれると、そのありがたいんですけど」
控えめにいうヤマト。んー、これじゃあレベル上げ代行ってより本当に先生になっちまうな。代行は頼まれれば、倒させる
「いいんだけどよ、慈善事業でやってるわけじゃないからさ、いくらくらい取ればいいかわからなくてな」
「僕、受験の時に塾に通っていたので参考程度に。えっと、1ドロを1円とすると…」
家の方に戻りながら、ヤマトから塾の話や業務内容とかを聞いた。想像より値段高かったし、俺今までもっと金取れたのでは、とか思ってしまう。
俺もう立派な汚い大人っ! でもお金は必要なのだ。1授業1万5千ドロは気が引けたので協議の結果、1授業1万ドロになった。いやそれでも高いって。
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