第683話 これが永遠の別れだ
「クロノス様、名残惜しいですが」
「俺たちもそろそろ戻ります」
「今までありがとうございました」
「あっちでも、こっちでもね」
魔の14期生。
クロノス時代も、こちらでも世話になった数少ないメンバーだ。
別れるには惜しいが、いつか必ず別れが来る。というより来なくちゃいけない。
「俺もどれほど助けられたか分からないよ。向こうに戻ったらラーセットの事は全て忘れるが、それでも今この瞬間は覚えているよ」
「あたしも……寂しい……でも、でも……」
「ほら、ちゃんとしましょう。もう何日も話し合ったんだから」
「そうそう。もうこちらでやる事もないしな」
「確かにまた他人には戻ってしまうが、案外また出会うかもしれないしさ」
感極まったのか
本当に良いメンバーだった。
「じゃあ、帰すか」
「こっちもよろしくな」
「まあ、私たちは戻っても変わらないんだけどね」
最初の最初、いきなり追放された時、初めて殺してしまった同胞だ。
こちらに来てから聞いたが、元々向こうでも付き合っていたそうだ。
本当に、あの事が無くなってよかった。
他にも俺たちと一緒に召喚された杉駒東高のメンバーも帰る事になった。
知らなかったとはいえ、傍から見れば逆恨みだ。
そして
俺はずっと神殿籠りなので、ある意味死なない。
つまりは他の召喚者たちも死ぬ事は無い。
そんな訳で二人は
それに実際にはいつ帰ったって何も変わらないと言っても、帰れるとなると故郷が恋しくなるものだ。
そんな訳で、特殊な地位にいる人間以外は全員帰る事になった訳だよ。
ひたちさんや
ここで別れたら、向こうで出会ってもただの他人。
お互いに何の接点も無い人間関係に逆戻りだ。
ある意味、
だけど、それで良いじゃないか。
名残惜しいが、どうせいつまでもこちらの世界にいるわけにはいかないんだ。
〇 ■ 〇
こうして多くの召喚者が帰った後も、黙々と死者の魂を地球へと帰していった。
その間にヨルエナも体力の限界が来て引退。
更に次、また次と大神官の代替わりを続けながらも、本当に黙々と送還を続けた。
100年、200年、300年……その間に、教官組もフランソワと
第一印象では考えられない程、責任感が強い奴だった。
長い時の流れ。理解していた非情な現実。やらなければいけない汚れ仕事と果たしてはならない正義。
そんな複雑な状況が、本当のこいつを潰していたのだろう。
まあクロノス時代に分かってはいたけどね。
根っこは真っすぐで、善良で……そして優しい奴だ。
全てを忘れたら、元の
初めて召喚されてきた時の姿を考えると多少不安はあるが……。
他のメンバー――特に
だけどこちらの
それに、話したかった事はクロノス時代に大抵自分で体験し、心の中で消化してしまったよ。
だからこれで良いんだ。
だけどクロノス時代はいきなり死なせてしまい、今の時代はあまり交流が無かった。
共に過ごした時間は短かったが、それでも
だけど今は最後の防衛線でも活躍し、今日までラーセットを支えてくれた。
遺恨なんて欠片も無い。本当に感謝しているよ。
因みにヨルエナもセポナも大往生だった。
特にセポナは俺たち召喚者の橋渡し役という大任を任された。
もう奴隷か生贄かなんて立場じゃない。立派な公務員だ。
そして現地人と結婚し、6人もの子供を作った。
残念ながら4人は
それでも最後は沢山の孫やひ孫に囲まれて幸せに逝った。
最後の数日は意識も無かったが、夜中にコッソリ忍び込んで髪を撫でた時、確かに微笑んだ気がした。
なんだかそれだけで思い出が溢れて泣いてしまったが、別に恥ずかしいとは思わない。
もう消えてしまったケーシュやロフレとの約束が頭を過る。
こんな最期を迎えさせてあげたかった。
ヨルエナもまた子孫を残し、その血統は大神官を代々引き継いでいる。
これは今後もずっと続いて行くのだろう。
ただここまで来ると、重なり過ぎた記憶で気が狂いそうになる。
全部が過去で、全部が今だ。
ジオーオ・ソバデを倒したのも、ついさっきの様な気がする。
実際はそんな訳はないのにな。
「なあ、そろそろみんな帰って大丈夫だぞ。というより、帰るべきだ。皆精神的に限界だろう」
「そう簡単に限界とか決めないで欲しいわね」
「何だかんだで楽しんでいるよ。まだまだ毎日が新鮮だしね。それにクロノス様が復活させてくれるから、限界まで奥まで行けるし」
カラ元気……という訳ではなく、
「自分はアンタが帰る時に帰るよ。もう最後まで付き合うって決めたんだ。今更そんな話は無しっしょ」
「ウチもまだまだこの国を見届けたいですなあ」
「私も最後まで残る。それが責任の取り方というものだろう。だが
「自分は
「あちきも同じです」
「だめだ。お前たちはそろそろ限界を超えかけている。自覚はあるだろう」
「それでも最後までお付き合いします」
「そう決めたわけですし、最後までお供します」
「却下だ」
「
あの二人の忠誠心は分かるが、俺から見てももう限界だ。
それに、
「それじゃあ、俺から命令をだす。
「ひゃあ、何でこっちに飛び火するんかねえ」
まるで人ごとの様に
元々口調がちょっとおばあちゃん的な所があったが、最近では記憶の混濁が酷すぎる。
冗談抜きで「飯はまだかのう」、「さっき食べたでしょ、おばあちゃん」状態だ。
そんな訳で惜しまれながら帰還した。
またすこし寂しくはなったが朗報もある。
ここまでの間に塔の改良はひたすら進み、今はバージョン137号になっている。
当初は1日30人程度。予想だと、6800年以上かかると試算された。
色々な意味で、もう一度ジオーオ・ソバデを殺しに行きたくなったね。
まあもう大変動の度に復活するんだけどね。
ただそこからひたすら塔の改良は進み、337年が経過した時……、
「もういないな。何処を探しても、彷徨っている魂は無い」
フランソワや
ただ疲労と安堵だけが場を支配していたんだ。
本当に、ただただ長かった。
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