第680話 これは想定外の反撃だ
地下にいたジオーオ・ソバデの核は、元々はブラッディ・オブ・ザ・ダークネスとの戦いの最中、秘かにゆっくりと地中へと退避していた。今の姿は、まるで地下茎だ。
その後は1体ずつ取り込んだ眷族の力を使っての消耗戦。
様子を見ながら、最適な相手を出していけばいい。
常に安全を求める性格は、どんな状況でも変わりはしないのだ。
最初に来た謎の物体と、セーフゾーンの主が作った分身体には驚かされたし苦戦させられたが、分身体は所詮異物になったモノ。
そして今戦っている召喚者には戦える時間に制限がある。
まとめて眷属をぶつければ双方多大な損害を出しつつもすぐに決着がついてしまうが、こうして絶え間なく戦わせれば自然と勝利が飛び込んでくるはずだった。
だがこれはどうした事だ!
衝撃波で吹き飛ばすが、それは壁に触れると新たな爆発となって襲い掛かって来る。
広がって消そうにも、ここには消しきれるような硬いものが無い。
壁の素材や空気の壁、金属、そういったものは爆発しない。だが土は爆発する。
押し付けても、数倍の威力となってはじき返してくる。
しかも出られない。燃える――燃える――燃える――!
地下から何度も衝撃波が来ては、まるで沸騰した窯のように石畳が持ち上がり、火炎を吹いては元に戻る。
かなり衝撃波の頻度が高くなって来た。そろそろ大詰めか。
「そろそろ注意してくれよ」
「ふむ、注意と言っても衝撃波を連発されてしまったらどうにもなるまい。その時はどうするのだ?」
「まあこうだな」
さすがに相手は人語を理化する奴だ。
それどころでは無さそうだが、耳が独立した器官になっていてもおかしくはない。
そんな訳で、ここからはハンドサインだ。
「なる程、タイミングはシビアだがそれが確実か」
「シビア過ぎて泣きたいがな」
ほんの少しの見極めをミスれば終わり。
速すぎでも遅すぎてもダメだ。
「だがそれがベストだろう。期待しているが、なに、失敗した所でまだこちらがいる」
「そうだな」
こちらの考えは
「
「う、うん」
震えている。無理もないか。
いきなり決戦に連れて来られ、しかもキーマンだ。
俺だって
まあそもそも迂闊な事は言えないし。
噴き出す炎も多くなってきた。まるで活火山だ。
そろそろ頃合いか。
ハンドサインで、目標地点を示す。
あとは神罰を撃ち込むタイミングだ。
奴が我慢比べに負けて地上へと最大の衝撃波を放った時。つまりは上の物を全て吹き飛ばして出てくる時だな。
だがその時に、必ず奴は無防備になる。動きながらでは放てない。
そこで2本の神罰をクロスで打ち込む。そうなれば、必ずしばらくは動けない。
神罰でのトドメは厳禁だが、瀕死にしてくれれば俺がやる。
長い戦いもここまでだ。
あとはタイミングを計るだけ……奴から次々と眷族が失われていく感覚が伝わってくる。もうすぐだ。
5……4……3……2……、
その瞬間、本来の姿の全身に太い棘を生やした――まるで金平糖の様なジオーオ・ソバデがいきなり目の前に現れた。
――しまった! 距離を外された!
ここでこんなショートカットを使うとは全く予想していなかった。
同時に放たれるであろう衝撃波。
全員――特に
ここで放たれたら万事休すだ!
こちらも距離を外して攻撃――いや、俺が相打ちになっても周りへの攻撃は防げない。
奴の姿を見る限り、もう取り込んだ眷族の殆どは使い切っている。
飛び出そうとする瞬間を狙ったのが
万事休す。ここまで来て失敗してしまったのか。
たった一つの選択ミスで、全てが水泡に帰すのか。
ここで負けたらそれまでなんだぞ。もう次は無いんだぞ。なのに――、
などと嘆いていても仕方がない。奴への距離を外して攻撃するしかない。
一瞬でも奴の攻撃を遅らせる。今までの経験上不可能だ。だけどやるしかないんだ。
時間にしたら、コンマ数秒……もしくはもう一つゼロが付く刹那の時間。
上空に出現したジオーオ・ソバデと重なるように、そこにはなぜか
――なぜ?
彼女は飛べない。そもそもどこからどうやって――。
そんな思考すら間に合わない速さで、彼女のさすまたとジオーオ・ソバデが交錯した。
まるで自らさすまたに飛び込むように。
同時に槍から伸びる青い光。それはまさに光の槍。
あれは――あの小さい奴なら何度も見た。汚部屋から彼女の部屋に入ろうとした虫を悉く殲滅した彼女のスキル“魂操作”。流石にあれを虫のように一撃で滅する事は出来ないが、魂自体への直接攻撃は相当に効くだろう。
その光が貫くと同時に、ジオーオ・ソバデの外郭を覆っていた最後の殻が崩れ落ちた。
ああ、今消えた。そうか、そういう事か。
しかし感慨にふけるよりも早く、2つの攻撃がジオーオ・ソバデを貫いた。
一つは北で奴を攻撃した光の神罰。しかしそれでも――魂を貫かれても避ける。とは言え完全ではない。その閃光はレーザーのように球体の一部を貫き、更にそこから横へと薙いで一部を焼き切った。
しかし不完全。ほんの僅かだ。当然か、奴が最も警戒していたのがこの攻撃なのだから。
そしてもう一本。天を貫き天井から
そう、これも神罰。俺もくらった事がある別の形態だ。
炎に爆発、雷、風、光。おおよそ神の御業と呼ばれる攻撃の全てを
それはコピーしている
初めて対峙した時は、それはもう酷かった。
だけど、俺たちはあえて光以外を封印した。
それしか使わないようにしたのは、この時間帯で
どこで知られるか分かない。情報の秘匿は絶対条件だった。いつか生きる布石となる事を願って。
光の攻撃は完全には当たらなかったが、天を貫く雷撃がやつの全身を貫いた。
たまったものではないだろう。しかしまだ死なない。死なれても困るが、これでは奴は倒せない。
そして奴は考え、実行した。
放たれたのは
だが奴は狡猾だ。それだけでは済まなかった。
最大出力を
至近距離にいた
先輩もまた
本当なら、ここで終わっていたのかもしれない。最悪のパターンで。
しかし希望は繋がれていた。
それらは砕かれたり弾かれたりしたが、勢いを削がれた衝撃波は
大丈夫。軽症だし意識もある。
全ては勝つために!
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