第652話 分かってはいたさ
やはり残るのもいるが、それはかなり強い奴だろう――が、このスキル自体がものすごく強いという訳ではない。特に距離があるとさすがにダメだな。
特にジオーオ・ソバデにとってはそよ風みたいなものだろう。
こいつの真価は、やはり以前の奴を倒した時の様に接触してこそだ。
だが――、
鱗粉を撒き散らす1メートル程の蛾を叩き斬る。
ハズレスキルで死ななかったとはいえ、今の俺なら剣でも倒せる。
鱗粉も触れれば相当にヤバいのだろうが、さっきのウサギの棘に比べれば無いも同じだ。
全部外せばいい。
後ろではぞろぞろと脇道から出てきた奴を
だけど多勢に無勢。今は優勢でも、どれほど危険な奴が混ざっているか分からない。
それに長期戦になれば、休息を取れないこちらが不利だ。
かつての
だからこそこの人海戦術の前では、今までは召喚者ですら成す術が無かったわけだ。
更にまだまだ山ほどいる強力な眷族。
そりゃ厳しかっただろう。今だって厳しい。
そろそろスキルで跳ぶべきか。
なんとなく奴を感じる。少しずつだが、追いついているんだ。
ここは俺たちでも少し手狭だ。2メートルだった頃の奴なら丁度問題無いトンネルだが、5メートルにまでなってしまった奴は移動ルートが限られている。
それに対し、俺たちはショートカットしている状態なわけだな。
それに――再び湧き出て来た集団をスキルで一掃する。
あまり多用はしたくないが、今が最高の使い処だ。
ただスキルなしなら
召喚者としての身体能力はこちらが上だ。段々と追いついてきた。
「あ、来たね。他のみんなは?」
「俺たちを進ませるために残ったよ。今頃は派手に戦っている頃だ」
「それで後ろから敵が来ている訳ね」
「まあそんな所だ」
追いかけ始めてからもう5時間ほど。
当然ながら、その間にいた連中は後ろから追って来ている。
こちらも一掃したい所だが、今は前だけに集中だ。後ろは追いつかれた時に、改めて一掃すればいい。
「それと、
「
「あたしが言っちゃなんだけど、覚悟の上だったんでしょ?」
「何を今更。俺が気にしているのは、後ろが壊滅した時の問題だよ」
「確かに挟まれると、もうジオーオ・ソバデを追えないわ。また別けるの?」
「いや、その心配はないな。もう追いついた」
スキルを使って、前方に大穴をあける。
距離はせいぜい300メートルほど。だがそれで十分だ。
もうその先に、奴の一団が見える。
ようやくここまで来たぞ!
「行け!
「残念ながら、あたしが構築した未来はここまでだよ」
まるで硬く透明な壁があるように、
これは――、
「す、すま……ねえ……」
やはり近すぎると影響が出てしまうか。
「
「すま……ねえな、
「万が一の時は覚悟の上だよ。それに奴を見つけるが
「さすが……だぜ、惚れ惚れ……する……ね」
「……
「了解!」
俺は奥へ跳べばいい。幸い、この壁は俺の
「
跳ぼうとする俺を、
確かに、今奴は見えている。だがほんの数秒で見えなくなるだろう。
しかし神罰の威力なら
倒してはいけないが、そもそも倒せないだろう。
だが大きな牽制にはなる。
膨大な量の思考が頭を巡り、周りがゆっくりに感じる。
当然、その隙は逃せない。俺は改めて距離を外す為にスキルの準備を始める。
しかし何かが……何かが引っかかる。
俺の脇を逆走して、後ろにいる
間違ってはいない。これで良い。
それまで神罰で傷ついた奴を、俺が足止めすればいい。
万が一ハズレスキルを使って奴が逃げたら、その時点で作戦の1段階目は成功だ。
ここにいる奴の主力を全力で一掃すればいい。
これで良いはずだ。
その瞬間、まるで走馬灯のようにクロノス時代が頭を過った。
「
「え!?」
「俺だけで行く。お前は待機だ!」
反論を聞く時間も惜しい。
だがそもそも、その必要も無いだろう。
今の
だが同時に意思と思考が残っている。
なら考える事は、命令でやった事では無く、あいつ自身がやれる事だ。
クロノス時代のアイツはどうだった?
少しヤンキーっぽい所があったが、基本的には陰キャ。
必ずしも秀才と呼べるようなタイプではないが、とにかく機転が利き、気配りができるタイプだった。
それに応用力も高く、その点からも教官組にした。
こちらの世界では? やはり本質は変わっていない。
ならあいつは、持てる限りの全てを尽くしたはずだ。
当然、こちらの戦力を把握した上で……なら!
その先には、先ほどまで見えていたジオーオ・ソバデは居なかった。
やはりとしか言いようがない。
おそらく穴が開いた時点で、もう本体に操られていたのだろう。
そして空気の壁を張った。
最初は先へと行かせない防御の壁。そしてそれ以外は、空気を屈折させ蜃気楼のように違う景色を見せるための物。
あのまま神罰を撃たせていたら、見当違いの場所を撃つだけでなく、作戦自体が失敗するところだったよ。
だがこれで俺は届いた。
さすがに光を屈折させるといっても、ここは入り組んだ穴の中。蜃気楼とは根本的に違う。
奴がいるのは精々100メール程度。それもここから道が通じている場所だ。
意識が思うままに、ハズレで壁に穴を開ける。
さすがにさっき開けた穴から追いかけるのは面倒だったからね。
そしてすぐそこには、多数の眷属を連れたジオーオ・ソバデが居た。
今度は――本物だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます