第651話 油断などした覚えは無いのに
こちらの話なんて一端も理解していないだろう。
だが奴とその周囲にいた同類、それに眷属が一斉に動き出す。
目標は間違いなく俺だ。
だがその前に
「この地形だと、あの子のスキルは長くもたないけど……良いの?」」
「また何時間も待たされたら、何処まで逃げるか分からん。さっきのもあるが、
「そうね、確かに何度も参加しているわ。ああ、そういう事ね」
「そういう事。
「んんー?
「俺とジオーオ・ソバデは繋がっているからな。それは奴の同類や眷属にも共有されている。まあ細かいのまで全部纏めて一個の個体と見れば良いさ。もっとも、頭を潰せばそれで終わりだけどな」
そんな話をしている間に、眼前が真っ赤に染まる。
話に聞いていた通り、こういった硬い地形は殆ど壊せない。一瞬だけ爆発して、線香花火のようにあえなく消えた。
地形に対してだけはな。
群がった連中はまるで違う。
爆発すると同時に飛び散ったゼリーの破片は、隣の奴に触れると同時に爆発する。
それはこの広い空間を次々と連鎖し、片っ端から――それこそ灰すら残らないレベルまで徹底的に焼き払ってゆく。
時代が違う点が惜しい。
もし
だが彼女が召喚されたのは、クロノスが死んだ後。
本当に残念だ。ただ先代の俺なら刺殺されていた可能性も十分すぎるほどにあり得るが。
言っちゃ悪いが、その前に死んでいてくれてよかった。
別人とはいえ俺には違いない。
蘇生させた時点で、絶対に目の前の炎のように燃え上がっていただろう。色々な意味で。
まあそんな感慨は無意味だ。
炭焼き小屋の様になっていた状態も小一時間ほどで終わり、後には塵一つ残らない
偽の ジオーオ・ソバデも、もはや欠片すら残ってはいない。
硬いとはいえ、銅の様な素材もかなり削られているしな。
それに熱気が凄そうだが、そんな事を気にしても仕方がない。
というか、その間に追いついてきた敵の死骸で後ろが塞がっているのもすげえ。
「それで、この後も
彼女は本来とは戦えない以上、確かに進行先を決めさせるのは無駄にも思える。
だが全知によって進んでいるんだ。
「戦えないという状況を見ないと何ともいえないな。予想通りなら理由は――」
「そうね。ならもう行きましょう。
「あいよ」
空気の壁が外された瞬間、金属とゴムが焼ける匂いとかなりの熱風が吹き込んでくる。
だがそんな事はお構いなしに、
何と言うか、躾の成っていない大型犬? もはやそんなイメージだ。
だが幾つもの出入り口があるのに、進む方向は確か。
うん、一応警察犬くらいに格上げしておこう。
「俺達も追うぞ」
「言われるまでもないな」
「その為に来たのですから」
まあそりゃそうだよね。
今更確認する必要なんて無かったわ。
それにしても、あれで足止めになると思ったのだろうか?
まあ間違いなくそう考えていたはずだ。
粉塵が広がる中、アイツは確かに衝撃波を何度も使って粉塵を跳ね飛ばしていた。
即スキルの性質を見抜く点はさすがだと思うが、それでも最後は消滅するまで爆発を続け、消えた。
つまりは奴の衝撃波は無限ではない。
そして今の俺は、
それにここに来るまでの皆の気遣いにより、非の打ちどころのない位に完璧だ。
我慢比べ結構。何度くらっても確実に仕留めてやる。
しかしさすがにここは向こうのテリトリーだ。
無数の枝道から次々と敵が湧きだしてくる。
それこそ雲霞のごとくだ。
俺たちの間にあった隙間も次々と敵に埋められ、僅かの間に完全に分断させられた。
「痛!」
「大丈夫か、
「何かが刺さったけど、もうそんなに痛くはないわ」
見ると、左手の上腕を押さえているが大きな出血とかは無いようだ。
「それより、心配してくれるなんて嬉しい。やっぱり貴方は運命の人。先に待っているわ。愛してる」
寂しく微笑むその顔は今まで見た活発な彼女ではなく、また一つ心を持っていかれたような気がした。
「
抑えていたはずの左手がボトリと落ちる。まるで抑えていたところから溶けたようだ。
そして彼女はゆっくりと倒れ、光に包まれて消えた。
最初の瞬間、背中は骨が見えるほどに溶けていた。
「クソがぁ!」
ハズレで周囲の存在を外す。だが残った奴がいる。
見た目はゼリーのウサギだが、大きさだけが危険度を現すものではない。
今までの戦闘から、彼女を優先して狙って来る事は考えるべきだった。
むしろそれを利用して迎撃の支度を整えるべきだったのに。
いや、違うだろ。落ち着け俺。
彼女だけじゃない。俺も含めて、全員が死地の中にいるんだ。
助けられなかった言い訳なんて考えるな!
今やるべき事は後悔なんかじゃないだろ!
ウサギは一目散に逃げ出すが、同時に幾つもの痛みが体を走る。
なるほど、これか。
体毛か、それとも毛の下に針を飛ばす機能でもあるのか、とにかくそれでやられたわけか。
溶けつつある体を捨て、ウサギの前まで距離を外す。
「お前達を侮っていたわけじゃないんだけどな」
Uターンする事も許さず、剣でゼリー状のウサギを真っ二つにする。
それでも針を飛ばしてきたが、分かった以上は外すだけだ。
だが見えないほど小さいわりに、威力はライフル弾並だ。外すと言ってもギリギリだったな。
叩き斬ったゼリーウサギはもう動かない。
大型と違って、確かに小型は倒しやすい。
通常の攻撃力も、やはり質量が無い分だけ軽い。
だがそんな単純なものではない事なんて、頭では分かっていたはずなのにな。
奴等の攻撃は激しさを増すが、ここで使わなければ俺がいる意味はない。
出来る限り広範囲は温存したかったが、1キロメートルほどの敵の存在を全て外す。
さすがに残ったのは数体だ。これなら合流できる。
「全員無事か?」
「
他はかすり傷一つ負っていない。
大量のどうでも良い中に、一撃必殺の小物を紛れ込ませていたのか。
そして生き残った奴もまた、更にやってきた雑魚の中に紛れこむ。
うぜえ。
しかしこう狭いと、
だがたとえ
やはり俺しかないな。
「
「こちらは脇道から来る連中の相手でありますなあ。大変ではありますが、この場合どちらが良いともいえません」
「どちらにせよ、私たちがどうなろうが関係ない。だが失敗は許されないぞ」
「そんな気は毛頭ないね。それに、こんな所で
「だがよ、俺は残った方が良いんじゃないのか?」
言いたい事も危険な事も分かるが――、
「今は一人でも戦力が必要だ。来い!」
「じゃあまあ、頑張らせてもらいましょうか」
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