第648話 予想以上に凶悪だった

「とっつげき―!」


 外で大暴れしている大和武蔵だいわむさしを後目に藤井ふじいが突撃しようとするが――、


「首輪は敬一けいいちさんが付けてくださいとお願いしたはずですがなあ」


 そう言うと、黒瀬川くろせがわが首根っこを掴んでポイとこちらに投げる。

 まるでアライグマの扱いだ。

 何はともあれお姫様抱っこでキャッチするが、むくれているのは一目でわかる。

 俺は行かせてもいいと思ったが、やはり他のメンツは慎重だな。

 それよりも、なんかクロノス時代や普段の姿しか見ていないから、こういった黒瀬川くろせがわの姿は新鮮に見える。

 思ったよりもちゃんと周りに気を配っているし、今も俺より先に藤井ふじいに追い付いていた。

 速度というより、動き出しが圧倒的に早い。行動を熟知していなければ出来ない動きと判断力だ。

 伊達に最古の4人なんてやっていないという事だな。


「ひしおさん、どう思います?」


「奥から力が流れてくるねえ。これは相当にいるよ」


 ああ、そうだ。海野うんおひしお。彼女のスキルは“集団”。

 敵であろうが味方であろうが、周囲にいるモノの力の一部を自分の力にするスキルだ。

 1対1ではほぼ無いに等しいスキルだが、100人のバトルロイヤルをやれば途中までは最強だ。

 そんなわけで、彼女は自分に流れてくる力から敵の数や力具合などの様子が分かる訳か。


 それにしても、召喚者はスキルによって得意とする戦い方や相手がまるで変る。

 だから装備がまるで統一されていないのは今更だ。

 ただそのせいだろうか、黒瀬川くろせがわはクロノス時代の喪服とは違うが、黒留袖くろとめそでを花魁風に着ている。

 和服である点は全く同じだ。


 風見かざみも黒ビキニに黒マント、黒い魔女帽子とこれまた一緒。

 これまでの生き方も戦い方も手に入れたアイテムも全部違うだろうに、二人とも自分のスキルに合わせて突き詰めていくとこれが最適となるのだろう。

 それに薄着といっても、ここまで生きて来た召喚者は頑丈だ。

 むしろ普通の鎧など、脆いだけで重くて邪魔まである。

 たださすがにそれは寒くないのか風見かざみ


 俺もまあ、それこそ初めての成瀬敬一なるせけいいち時代から基本的には綿のシャツにズボン、それに革鎧と変わらない。

 武器も勇者の剣と同じくらいの長さの剣と、これまたダークネスさんに貰ったのと同じほどの短剣をベルトに3本装着している。それだけだ。

 防寒具などは殆どないが、全員が毛布1枚で雪の中で眠れるほど強靭なんだよな。

 というか、魔女帽子に積もった雪が重そうだぞ風見かざみ


「さっきからうるさい」


 うん以後は気にしないようにしよう。


 話が逸れたが、ひしおの装備はフルプレート。

 頭の天辺てっぺんから足の先まで、真っ白い甲冑に覆われている。

 しかも丸みを帯びているので……というか太い。

 普通に見ただけでは中が男性か女性かも分からないだろう。

 まあ彼女の場合、召喚者として十分に育つ前に亡くなってしまったし、何より周りに力具合が左右されるからな。

 武器はかなり重そうな、銅色をした両手持ちのハンマーピック。

 面白い事に、腰に同じ物を左4本、右に3本、計7本をぶら下げている。

 それもまるで何かの工具の様に、形は同じなのに微妙に大きさが違う。今手に持っているのは、3番目に大きなサイズだ。

 おそらく周囲の強さに応じて使う獲物の大きさを変えるのだろう。

 あのカバのハンバーガーシャツにミニのスパイダースカートなんてパンクな服を着ていた人間からは想像もつかないな。


「いるのは最初から分かっているんだ。行くしかないだろう」


「ふふ、それは行くけどね」


「でもここはゆめの出番でしょ?」


 そう言って夢路ゆめじは俺の前に躍り出ると、楽しそうにくるりと回る。

 黒と紺のシスター風の服。但し足元は股下1センチくらいの超ミニスカート。

 というかアレをスカートと呼んで良いのか?

 一応上と一体型なのでワンピースとも言えるが。

 ちなみに背中は多きく開き、健康的な肩甲骨が艶めかしい。

 天性の美少女があんな格好をしていると、確かに引っ掛かる奴は多そうだ。

 武器は持っていないように見えるが、まあ収納しているのだろう。

 あの物騒な名前付きのナイフを手放すとは思えないからな。


「ではちゃっちゃとやって頂きましょう」


「確かに今の形状は小久保こくぼ向けだよな。派手にやっちまえよ」


「あー、でもお、それは良いですけどお、まだ人っているんですよねえ。ゆめ、ちょっと気が引けるかな」


 周りの目が一斉に“嘘つき”と言っているが、気にしない事にしよう。


 今の迷宮ダンジョンはボロボロの土くれの形状だ。ほんの少し前までは、懐かしの白亜の神殿の様な感じだったんだけどな。

 しかしこの形状の何処が彼女向けなんだろう。

 というかスキルがどんなものかは知らないが、さすがにそんなに近くに生きている人間はいないと思うぞ?


夢路ゆめじのスキルってどんなのだっけ?」


「ふふ、ちょっと呆れる。それが分かった上で、あんな危険人物を蘇生させたんじゃないの?」


「爆破粉塵って変な名前だったな。最初は粉塵爆破の間違いかと思ったけど、召喚者のスキルを間違えるとも思えないし」


 そういえば、その気になればビルが吹き飛ぶとか言っていたな。

 爆裂系に間違いは無いのだろうが……。


「彼女は梨々香きみと違って周りからの推薦でね。なんか嵌められた気がしたが、強さに関しては確かだと聞いている。ただそれだけだよ。性格とかそういうのは全く聞かなかったな」


「なら、ちょっと面白い物が見られるかな。梨々香りりかとしては、スキルが偏っていたのは気になっていたの。基本的に、みんな単体に対しては強い系でしょ? だからあえてあの子を入れたのだと思っていたわ」


 あの子って……一番の年下は――いや、忘れろ! 自衛のためだ!


 確かに戦闘系で固めたが、偏りか……。

 ひしおは集団系ではあるが、それは“集団”というスキルであって戦い自体は単独だ。

 ある意味大和だいわは範囲攻撃だが、アレは単純に暴れている結果だしな。

 他にというと東雲しののめの重力操作。なんとなく範囲攻撃っぽいが、そんなに広くはないそうだ。

 もうちょっと夢路ゆめじのスキルを詳しく聞いておけばよかったか。

 でも迂闊に接触すると後が怖いし。


 などと考えていたら、突如として穴の中に向けて爆発が起きた。

 だが穴から出たのは僅かな煙と轟音だけ。火花すら出ては来ない。

 穴の前に立つ夢路ゆめじ自身には効果が無いって事か。だがこの音は――!


 炸裂音が奥へ奥へと伸びていく。相当な火力なのは音だけでも分かる。そして、数多くの同類や眷族が炎に包まれ動けなくなるのも感じる。

 しかも、その炸裂は止まる様子が無い。

 あの中で巻き込まれたら間違いなく逃げるしかない。だけどあれは何だ!?


「しばらくはあの子の独壇場よ。今入ったら死ぬもの」


「オレは何とかなるが、それこそ何とか生きていられるってだけだな。触らぬ神に祟りなしだ」


「あれはどういったスキルなんだ?」


「小さな爆発を起こすスキルよ。但し、舞い上がった粉塵は何かに触れると新たな爆発を起こすの」


「そしてそこから出た粉塵も爆破属性を持っておりますからなあ。硬い迷宮ダンジョンだとすぐに終わってしまいますが、こういった土くれの迷宮ダンジョンだと、当分は止まりません。しかも巻き込んだ相手も爆発物になりますし、ああも多いといつ終わるのやらですわ」


「距離は変わっていなければ……そうね、この地形なら10キロメートル程よ。分岐は多そうな迷宮ダンジョンだけど、爆発は小久保夢二こくぼゆめじを中心とした範囲。その中でずっと爆発の連鎖が続くから……今の状態だと、多分2時間は止まらないかしら」


「人がいたとしても、骨も残らねえな……」


「そうね。基本的に無差別攻撃だから……ふふ、面白い物が見られたでしょう?」


「かなり怖い物が見られたよ」


 見たというか聞こえたと感じただが。

 というか、一度入ったらあいつのスキルは封印だな。

 間違いなくこちらが壊滅するわ。

 とはいえあれだけ強力なスキル。そうそう連発は出来ないだろうし、よほどの事態にならなければさせるわけにもいかないか。

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