第647話 では戦いを始めよう
こうして全員で外に出た。
何度も戦っているというのに、門番の兵士が敬礼をしている。
まあ最初は警戒して当然か。俺だって、クロノス時代の事はついさっきの出来事のように感じている。
だけど、彼らも一緒に守ってやろうじゃないか。
今はそんな気がする。
「それで目的地は?」
「ここから西南西に22キロメートルだ」
周囲の地形から考えればそれ程困難な道のりではないが、本格的な戦闘となれば長期戦は必須か。
まあどうせ1日で決着が付くとは思っていない。
特にクロノス時代にソロで稼いでいた頃は、そんな状態なんて日常茶飯事だった。
他が付いて来られるかだが、まあ問題はあるまい。
「では行こうか」
□ 〇 □
途中で一度休憩を挟み、到着したのは夜だった。
朝まで待っても良かったが、正直時間が惜しい。
周囲には木が密集して広大な森を形成しており、その中から確かに奴等の気配を感じる。
だけど本体……じゃなかった、ジオーオ・ソバデは感じない。
もう移動した?
確かに手段としては悪くはない。
こちらが北にいる以上、南かラーセットと合流するのは早ければ早いほどいい。
一方で、ここに援軍で来ている以上は俺たち――というか俺以外は離れるわけにはいかない。
とまあ、普段ならここでそんな風に悩むところなんだけどね。
全知スキル万歳。もういる事はわかっているんだよ。
他力本願なのは今更だ。
「では殲滅しよう。周囲を一掃してから地下への入り口を探す。本当にセーフゾーンが無いのなら、何処かに穴が開いているはずだ」
その穴を見れば、奴のハズレスキルに関しての情報も増える。
「それでは先陣は任せてもらおうか」
いや、相手は広範囲に散開していて、逆にこちらの人数は限られている。大量の兵士を引き連れている訳でもないのだから、先陣も何もないだろう。
でもまあ、クロノス時代にどうやっていたのかを俺は知らない。
案外、戦いの合図というか、儀式的なものがあるのかもしれない。
ここは任せても良いだろう。
「構わないぞ。好きにやってくれ」
普段の様子から日本刀や日本風の槍を使いそうな雰囲気だったが、これは少々意外だった。
鎧は、上が青く塗装した胸元だけを隠すカップ型の金属鎧。下がビキニ型の金属鎧。因みにこちらも色は青。一応あの下着も身に付けてはいるが、だからどうしてという感じだ。
……ビキニアーマーだこれ。
移動中はあの下着と言って良いのかどうか悩む衣装の上から毛皮のコートを着ていたので鎧は付けていなかった。
武器も見当たらなかったのでてっきり
それにしても、頭はもちろん、ショルダーアーマーにも雪が降り積もっている。防寒機能は皆無の様だ。
見ているこちらが寒くなって来るが、本人はいたって平然としている。
本人のスキルはポピュラーな肉体強化と聞いているし、この位の寒さは大丈夫なのだろう。
実際、俺もこれだけ雪が降っていてもあまり寒さを感じない。
かつて雨の中での戦いではかなりきつかった事を考えると、やはり召喚者としての成長が――、
ダン!
思考を強制的に停止する、突然起きた音の暴力。
実際痛いほどどころか木々が揺れ、鳥や虫が一斉に空を舞う。
地面がえぐれるほどに力強く、
同時に森がざわめきだす。
生きてはいない者達の息吹を感じる。
白と闇が交錯する中に現れた透き通る水色。
死がゼリー状の姿をして、僅かな隙間から見え始めた。
その瞬間、大地が炸裂した。
たった今まで
最初の踏み込みは、今までの感覚通りに動けるかを改めて試したのか。
そして巻き起こった雪と砂塵がまだ上に向かって飛んでいる時、彼女は群れの中に飛び込んでいた。
というか、スキルの発動と共に体の芯に響くほどに強大な力を感じる。
スキル無しなら
「でりゃあああああ!」
雄たけびと共に、再び大地を踏みしめる。
音が、振動が、衝撃が、周囲にいた同類たちの動きを止める。
あれはもう、それ自体が攻撃だ。
そして炸裂する大地。
跳ねた軌道は一直線。だが見えない。
分かるのは、軌道上にいた敵――どう見ても相当に強いであろう眷族までが、なすすべもなく切り裂かれている事だ。
ついでに木もな。
飛び散るゼリー状の
俺たちは、その様子をただ見ている事しかできなかった。だって巻き込まれたくないもの。
持っている剣は柄まで含めて160センチほど、両手剣としても大きな部類だ。
だがその剣圧が10メートル四方を切り裂いている。
そういや各自武器なんかもヤバい物を持っているって話だったな。
速さは
というか、短距離での不規則な動きは人間の目では追えないだろう。
ただ一番の違いは、近寄りがたい暴力を伴っている事だ。
「どうやらこの辺りは
「だが奴らはこんなものじゃないだろ」
もしこの程度の相手ばかりなら、とっくに倒している。
ジオーオ・ソバデも強いが、やはり障害になるのは強力な眷族共だ。
と思っていたら、多分繋げれば4メートルはあったのではないかというモグラ型眷族の上半身が降って来た。
本当に一人で殲滅しそうな勢いたが――、
「
「うん、変わっていないよ。今はちゃんと、到達する流れに乗っているんだ」
なら今のままで良さそうだが、全知は自分の死まで分かるが、一方で途中に何が有るかまでは分からない。
つまりは味方の死も、ある意味構築した未来のために必要な可能性がある。
可能な限り、それは避けたいところだ。
「さすがにそろそろ援護に入るべきか」
「その必要は無いわね。彼女の最大のウリは燃費の良さよ。元々強化系は半日でも戦えるけど、彼女は3日くらいもつわ。それよりも、アンタはやる事があるでしょう」
そうだな。
自分を中心に、ダメな可能性を外す。
それを広げ――広げ――広げ――見えた。
「地下へ通じる穴が2あるな。一つは自然に開いた穴だが、もう片方はハズレスキルで開けたような感じだ」
「なんかまだわからんけども、どっちが正解なんか?」
「ちょっと複雑でこれ以上は難しいが――」
「わざわざあけた穴があるって事は、そっちっしょ」
「罠の可能性は否定できまい。奴はそういう奴だ」
どちらも正しいが――、
「ここは素直に
「どっちもいい感じだけど、じゃあそのスキル開けた穴って方に行こう」
どっちでもいいなら、多分もう片方のルートの方が楽なんだろうなあ。
決めさせた以上は別の道とも言えないけど。
ウキウキと槍を持ったまま突っ走っていくバトルマニアの後姿を見ながら、ふとそんな事を考えていた。
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