【 動き出した本体 】
第636話 想定すべき事だった
距離を外さず普通に移動したが、ぞろぞろだらだらと移動したわけではない。
屋根を伝い、ビルの壁を蹴り、跳ねるように移動する。
さて何人付いて来られるかと思ったが、その辺りはさすがに杞憂だったな。
ただやっぱり自力の差というものはある。
フランソワは当然の様に付いて来る。
彼女はメインが研究というだけで、自力もスキルも戦闘系に匹敵する。
ただ専門家ではないというだけだが、やはりその差が戦場では大きいからな。
予想はしていたし、この位は出来てもらわないとリスクを負った意味がない。
特にこの3人は純粋な戦闘を担当してもらう。
この程度で付いて来られないようでは期待外れだ。
過去の教官組として召喚した中では、
とにかく動きに迷いもぶれもない。
そしてかなりの年月を生き抜いてきた
そういや重力操作だっけ。流石にあれに追い付くのは無理だな。
実際には飛んでいるというか、前方に向けて落下しているのだろう。
スキルが集団である
改めてスキルの性質が分かるな。
多分彼女一人で来させていたら、今頃何処かでふうふう言いながら休んでいるだろう。
それ程、動き自体は危なっかしい。
というか、あの服装で跳び回るからもう下半身がなんとも。
何処からか謎の光が飛んできてもおかしくはない。
そして最後の一人の
「
一人遅れて呼んでいるが――、
「ふふ、あの子は変わらないわね」
「忠告しておくが、あの手を取ったら墓の中まで付いて来るぞ」
「そこに入れるのもあの子だと思うけどねー」
なんとも危険すぎる。
というか、明らかに手を抜いているのが分かる。
まあこういう時は――、
「
「あああああああああああああ」
「結構です!」
やはり面食いか。
今まで疲れていたのが嘘のように元気に付いてきた。
これで大体分かったが、やはりこのメンバーは普通に戦えるだろう。
だけど普通じゃ届かない。これを束ねる必要がある。
そんな事を考えていると、
さすがに早いな。というか――、
「
「そうもいかないでしょ。ほら、さっさと行かないと置いて行くわよ」
「へいへい」
実際、長く生きていただけあって二人とも早い。
というより、一番安定しているな。
戦闘系のメンバーばかりを蘇生させたので忘れがちだが、こいつらも普通に戦ったら相当に強いんだよね。
■ ■ ■
こうして召喚庁に到着したが、脱落者は無し。良い予行練習が出来た。
後は持久力だが、その辺りを確認している余裕は無いな。
多少は驚くだろうなと思って執務室に入ったが、
もうちょっと驚けよと思ったが、部屋には
考えてみれば、何をしていたかはとっくに知っていたわけだ。
それでもひしお達には少しくらい驚いたって良いだろうに。つまらん。
というか、中にいたのはそれだけだ。
「他の教官組は出払っているそうだが、
「ああ。少し予想外の事態になってな。アイツには北のマージサウルに急行してもらった」
他の教官組は南のイェルクリオからまだ戻って来ていないって話だったが、今度は北か。
「何があった?」
「感染体と眷属の群れが、南北それぞれの地域に出現した。特に南に関しては以前お前から聞いた通り、首都のハスマタン周辺に出現したそうだ」
……あの時か。
初めてこの世界に来た時、俺にとって最後の戦場があそこだった。
無数に連なる青い大河が壁を登り、街を蹂躙し、もう手の施しようが無かった。
それでも何か出来ないかと思っていた時に、俺は日本に戻されたんだ。
最初にラーセットを襲った時は、それよりもずっと少なかった。その辺りはこの時間軸でも変わらないだろう。同じループだしな。
そして2度目となる前回は、その時よりも更に数が少なかった。
あの時は気付かれずに移動させたからあの数なのだろうと予測したが、じゃあ他はどうしたという考えに至らなかった。
時期的に、奴はあの時点から同類や眷属を南北に分散して動かしていた訳か。
完全なミスだ。もっと時間を取って、周囲の警戒をすべきだった。
南北との融和も、成功失敗に関わらずもっと早く進めてもよかった。
しかし今それを言っても仕方がない。
「詳しい事を教えてくれ。今の所、南北とは未だ小競り合いが続いているのだろう?」
そういえば初めてこの世界に来た時、ラーセットはハスマタンに援軍を出した。
状況は今と同じはずだが、あれはそもそもどちらからの提案だったのだろう?
それに俺達召喚者を見ても、敵対する様子は無かった。
「まだ正式に要請は来ていない。だが相手は世界を滅ぼすという、今を生きる伝説の
「そいつらの危険性は分かるが、そう単純に事は進むものかね」
「そうだな。俺たちの世界にはこんなモンスターはいなかった。だがこの世界には、太古の昔から存在し、多くの国が滅んできたという現実がある。当然最初の頃は決めごとだけして従わなかった国も多かったと伝承には残っている。だが全て滅んだ。そして、そこが滅べば次は自分だ。しかも約束を守らなかった国は、次に攻められた時に防波堤として使われる。要は援護をしないという事だな」
「そんな風になっているのか」
確かに自分たちだけで倒す自信があるのなら――そして攻められている国が友好的でなければ放置もありうる。
だけどそれは本当に初期の頃だな。
今や奴は伝説の存在。そしてこれまで倒せた国は無い。ただ一方的に蹂躙され、滅びを重ねて来た。次は自分になりたくなければ、襲われた国に戦力を集中させて迎撃するしかないという訳だ。
以前廃墟となった国を見たが、あの先にはやはり滅んだ国があるのだろう……ん?
「ラーセットが襲われた時、南北の国はどうしたんだよ」
「当然約定に従い、双方軍を送っていた。だがここはどちらの国からも離れた緩衝地帯。国は一つで都市も一つ。そして都市のセーフゾーンも一か所だけという、辺境中の辺境だ。当然元々交流は細く、交易路なども整備されていない」
あー、あれは苦労したな。
実際外の世界は見事なほどの大自然。
クロノスになってからハスマタンとの間に交易路を整備したが、一大事業だった。
しかもラーセットの復興が優先だったから、実際に交易路を整備したのはハスマタン。
こちらの出すべき費用は
だがそのおかげで交易は順調。
借金も無事返済し、流れた物資は周辺国を潤し、一獲千金を狙う多くの流民を受け入れる事も出来た。
だが、それはここには無い。
というかそれ以前に――、
「それで軍がラーセットに到着する前にクロノスが現れ撃退したわけか」
「そうだ。本来なら喜ぶべき事ではある。だが逆に考えれば、それを成した召喚者というものは世界を滅ぼす
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