第626話 見た目からは想像もつかなかった
「変な事を考えていたからでしょうが。それに普段のアンタなら、この程度を避けるのは
無理を言うな。
アイツは収納袋から武器だの岩だのを取り出すが、手首のスナップだけで投げる。
殆ど気が付かないほどのノーモーションで、獲物を取り出してから到達するまで精々コンマ数秒だ。
確かに全ての注意を向けていれば避けられない訳ではないのだけれど……他の事に意識を持っていかれた時はさすがに不可能だわ。
「とにかく蘇生されたのは分かったけど、最初に見たのが
「そんなんじゃないから! 大体、生きてなかったでしょう!」
「へへー、変わらないねえ」
破顔すると途端に子供っぽくなるな。
それに
高校生でも十分に通用するな。
「それでさ、何年位経ったの? 今の状況は?」
「82年よ」
「それは大変だねえ。ちょっと聞かなくちゃいけない事が多くて頭が痛くなりそうだよ。とりあえず
大学生といっても僅か数年差。
歳は近いとはいえ、やはり教官をやっていただけあって落ち着いたものだ。
「よっこらしょっと。じゃあ行こうか」
あ、なんか急に加齢を感じた。
いやいや、まだまだ十分に若いのは分かっているんだけどね。
こうして二人は召喚の間――正しくは目覚めの間の方へ行ったのだが――、
「なんか順調すぎて拍子抜けしたな。けど本当に二人っきりにして大丈夫か?」
「まあ
「急にじゃないだろ。あれだけ戦わされれば嫌でも理解するわ」
「でもまあ大丈夫ですわ。彼女のスキルの説明はしたでありましょう?」
「“集団”だな」
敵味方共に数が多くなり、また強くなればそれだけ強くなる。
だがその名の通り集団でなくては意味が無い。
しかも他人のスキルが使えるようになるわけではないから、神罰を持っている今の
彼女の強みは、やはり本体戦だろうな。
それじゃあ、お次は誰にするんだ?
「
最悪の三人とはさすがに違うって事か。
でもまあ、あの三人も反乱を起こしたって事以外は普通の……だめだ、まだ
だが今は考えない様にしよう。
「それじゃあ、大層な名前の
こちらも確認はしてある。
名前は大層なものだが、見た所子供っぽさが残る。
おそらく高校1年生くらいだろうが、自分で考えると苦笑してしまうな。
本来なら多分同い年だ。
こちらも無事成功したが……今までのメンバーは全員寝そべりながら様子を伺っていたが、彼女の場合は立ったまま現れた。
まるで復活する事を知っていたかのようだが、当然全知ではない。
そもそもそのスキルを持っていた
というか、召喚したら空中に現れる。
だから落ちて寝た姿勢になるわけだが、彼女の場合は普通に着地した。
まだ意識もはっきりしていないだろうに大したものだ。
身長は158センチほど。特別低いという訳ではないが、高い方でもない。
黒髪にツインテール。ゴムは黒で、飾りっけは無い。
あまり膨らみの無いボディな所を見ると案外中学生くらいかもしれないが、召喚者に歳という概念は意味が無いのか記載されていないんだよな。
おかげで
服装はごく普通のセーラー服。そこからではやはり年齢は分からないか。
スキルは“身体強化”。
ハッキリ言って、非常に多いポピュラーなスキルと言える。
召喚されたのは大月歴の147年。
そして死んだのは185年。
フランソワが召喚され、僅か1か月ほどで命を落とした。
死因は本体戦というから、ある意味仕方が無かったのだろう。
奴を倒したのは、今の所は俺とあの頃の
「お久しぶりですね。皆さんお元気でしたか?」
「何とかまだまだ、この世界にしがみ付いておりますわ」
「お久しぶりです、
「フランソワも元気そうで何より。それでそちらのお二人は?」
「ひ、
「うん、まだ組織として活動できている様だな。そこが心配だったけど、そちらは?」
「
「そうか……君が。クロノスから何度も聞かされた。こうして会えて嬉しいよ」
そう言いながら近づいてくると右手を差し出す。
なんだろう、見た目と口調とのギャップが凄い。
まるで子供の様に高く澄んだ声質なのだが、言葉はまるで何十年も生きているかのような重みと厳粛な雰囲気がある。
――という表現はちょっとおかしいな。
俺たちはもう何十年も生きている。
だけど本来の自分に引っ張られているのか、何年経ってもあまり齢を重ねた実感は無いし、口調が変わったりもしない。
これは俺がクロノス時代に感じた事だ。
ケーシュやロフレは齢を重ねる事で年相応の口調や態度へと変わっていったが、召喚者で変わったものはいなかったからな。
となると、彼女は昔からあの口調だったのだろうか?
まあ俺の時とは召喚した数が違う。
案外、誰かに影響されただけかもしれないな。
そんな事を考えながら取り敢えず握手をするが――、
ボキッという音がして握手した腕を砕かれた。
そして表情一つ変えぬまま――そして俺に何の衝撃も与えない勢いで握った右腕を肩から引き千切って壁に叩きつけた。
ビタンと壁に叩きつけられ、ほんの少しだけズルズルと下がったかと思ったら、ぽとりと床に落ちる俺の右手。
あまりの事に呆然としてしまった。
普通は引っ張られれば体が動く。だけどそんな衝撃は無かった。
新幹線に触れるとこんな感じで弾き飛ばされると聞いた事はあるが、人間に――それも友好的だと思うった奴にやられるとは思ってもいなかった。
「何のつもりだ?」
ただどう表現したらいいのかだが、こんな怪我自体は毎度の事だ。今更驚くには値しない。
この体は“ここではないし何処でもない時空の彼方”へと外し、代わりの肉体と交換する。
その瞬間――、
「クロノス――」
今度はそう言って俺を優しく抱きしめた。
ほんの一瞬、今度は全身の骨を砕かれるかと思ったのは内緒だ。
「いや、すまなかったな。実際にクロノスの若い頃だとは聞いていたし面影もあったが、こういった事は自分で試さないと気が済まない性分なんだ」
「これで治らなかったらどうしたんだよ」
「周りに薬を持った者がいるだろう? それに――」
今までとは明らかに目つきが変わる。
「クロノス――ではないが、
「分からないでもないが、同姓同名だったらどうするんだよ」
「そんな人間が全体の指揮を執っている事など有り得まい。それで、クロノスはどうなったんだ? 立派な最期であったか?」
いや勝手に殺すなと言いたいが、まあ死んでないだけで同じ事か。
それにクロノスが健在なら、俺が指揮を執る事などありはしないしな。
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