第622話 残り8人を決めないと

「へえ……ふうん……なるほど。それで風見あんたクロノスの恋人役なんてやっていたの……ふふ……ふふふふふふ」


「だからこいつにだけは知られたくなかったのよ! 私にとって、あれは汚点よ! もし児玉こだまに言ったら絶対に殺すわ!」


「ふうん。あんたにそんな事、出来るんだ。梨々香りりかの事、忘れちゃったのかな」


「まあやめときなって。今の風見かざみはそれが出来るよ。ただ出来る事は知れるけどやる事は見えないね」


 そう言いながら藤井つぐみふじいつぐみはニコニコと微笑んでいる。

 手には赤と黒の螺旋模様の付いた槍。愛用の品で、アレが無いと落ち着かないそうだ。

 フランソワの武器コレクションにあったので、出してもらった。出し方は相変わらず物騒であったが。

 特別な名品という訳ではないが、手に馴染むのだろう。


 それはともかく面白い見え方をしているようだが、確かにその通りだ。

 小出しにした神罰で壬生梨々香みぶりりかと戦えるかと言えば、相当に厳しいだろう。

 あれは元々一発勝負の為にコピーしてある。それに全身全霊を掛けて最大の一発を撃ち込むのが前提で、奈々ななの様に器用には使えない。

 中途半端に数発撃って息切れでは、梨々香りりかの足元にも及ばないだろう。

 むしろ武器で戦った方がマシですらある。

 目の前で児玉こだまが消滅でもさせられない限り、風見かざみは神罰を使えない訳だ。


「それで、そのくだらない質問に何の意味がある訳? 無いならもう2~3本刺さっておく?」


「割と真面目に言えば無いんだが――おっと、ナイフは投げるなよ。実際児玉こだまへの執着を見れば、アレが本気だったとしてもその程度だと分かる」


「本気なわけが無いでしょう。必要だからよ。あいつが男として役に立たないのは知っているでしょ」


 酷い言われようだ。

 単にストイックなだけなのだが、風見かざみからすればスキルの悪影響を解消できるかが掛かっているからな。


「要はそんな感じで、お前が我を曲げてでも必要とするような人間はいないか? 確かに色々あった事は聞いているが、全部が全部そうじゃないだろう?」


「それなら梨々香りりかにも聞いて欲しい所。その為の仲介役なのでしょう?」


「そうだな。当初の余裕は13人。その内、5人は今召喚した。それに児玉里莉こだまさとり椎名愛しいなあいは確定だ。それで黒瀬川くろせがわ谷山留美たにやまるみはどうする?」


 丁度戻って来た黒瀬川くろせがわに聞いてみた。

 磯野いそのはいないとはいえ、ずっと3人組だったしな。


「どうすると言っても、ウチは彼女とはそれ程に親交があったわけでもありません」


 あれ? と思ったが、考ええみればそもそもあの3人組は全員学年違いだ。

 同時に召喚されて生き残ったから長く組むことになって、その過程で親交も育まれた、

 けれどこちらではそれが無いって事か。


「そうか。やはり時代が変わると色々変化があるものだな。俺の時は、お前たちは親友だったよ」


「まあ確かに同期としてやってはいましたが、彼女は早々に逝ってしまわれましたからなあ。もっと長く一緒にいれば、きっと楽しい事が色々あったのでしょう」


「まあ最後には呼び出して日本へ帰す。必要な人間の特定と蘇生さえ完了したら、後は流れ作業で日本へ帰していけばいい。ただ問題は……いや、これは最後で良いだろう」


「何の事です? そんな風に言われると、逆に気になりますわあ」


「記憶を持ち帰る塔の件よ」


「今は古い方を使っていますね」


「何か問題があったのですか?」


「何々? 梨々香りりかにも教えて欲しいのだけど」


「要するにだな、このままだと確実に修羅――」


「ああそうでしたわあ! 蘇生するのであれば、外せない人間がおりますわ。ウチとしたことが、大事な人を忘れておりました!」


「確かに戦ってみたかった人は何人もいたよねえ」


 いや戦われても困る。


「誰か特別な人間がいるのか? まさか藤井ふじいが倒したって言う9人か? 残念ながらそれは定員オーバーだぞ」


「確かに強かったけど、その9人より藤井ふじい一人の方が強いのよ。さすがに候補には入らないと思うわ」


 相当なベテランだったと聞いたが評価が酷い。あまり仲は良くなかった……というか殺しに来たんだっけ。

 まああっさりと藤井ふじいに倒されたわけだが。

 だけどその時に敵対した黒瀬川くろせがわも勝負にはならず、早々に降伏した。

 その黒瀬川くろせがわと俺が戦って勝てるかと言えば、まあ何とかなる。

 すさまじい回数のスキルを使う事になるから、決して楽勝とはいかないがな。

 他の9人も同格くらいだとして、それらを一蹴するレベルの人材がまだいるのか。


「確実に名前が上がるとしたら大和武蔵だいわむさし東雲充しののめみつる海野ひしおうんのひしおの3人ですなあ」


「懐かしい名前ね」


「わたしは大和武蔵だいわむさし教官と東雲充しののめみつる教官は知っています」


「私が知っているのは東雲しののめ教官だけです。


 フランソワが召喚された時点で二人いたが、一ツ橋ひとつばしの頃には大和武蔵だいわむさしという人物は亡くなっていたのか。

 そしてそれより前に召喚され、亡くなったのが海野ひしおうんのひしおと。


「あ、それなら小久保夢路こくぼゆめじ教官と木畠英明きばたえいめい君も入れてあげたら?」


木畠英明きばたえいめい梨々香りりかを嫌っているからダメ」


「いっぺんに言われると整理に困る。順番に教えてくれ」


「そうですなあ。先ずは海野ひしおうんのひしおですか」


「そうね。こちらにいた期間は短かったけど、実力と性格は確かよ。初代教官だもの」


「へえ。その辺りの組織図とか聞いていなかったな」


「適当でいい加減。時代によっても変わるから、聞くだけ無駄よ。言ったでしょ最古の4人だの地上の10人だのは、4年前の反乱からだって」


 ああ、言っていたわ。

 そうなると、それまでは当時のクロノスを中心にした単純な組織図か。

 確かに俺も風見かざみ児玉こだまに一部の仕事を割り振ったが、基本的には俺が殆どやっていた。

 本格的に教官組という組織を作ったのも、14期生が本体と出会った事件からだしな。

 あの時に、本格的に召喚者を育てなければいけないという気持ちが生まれた。

 それまでは、どこか心に油断があったんだよな。

 まあ先代の俺も似たようなものだったろう。自分の性格だからよく分かるよ。

 きっちりした組織作りは、どうせみやがクロノスになってからだし。


「彼女は大月歴の155年に召喚されて、172年に亡くなっておりますなあ。それ以前に召喚された人もいますけれども、今は彼女の話で良いでしょう」


 155年……みやの召喚が156年だから、アイツより以前に召喚された人間か。

 だが生存期間はたった17年。戦力として数えるには不安だが、5年でベテラン連中を倒したという藤井つぐみふじいつぐみの件があるしな。


「それで人物的には?」


「初代教官と言える人物ね。呑み込みが早くて面倒見が良くて、期間は短かったけど、多くの召喚者を育てたわ。ただ珍しいスキルだった事もあって、地上で教えるというよりも迷宮めいきゅうに他の連中を連れて行って色々と教えるって感じかしらね。そこから分岐したチームが後に主力として活動する事になるのよ」


「なる程ね。育て方が上手かったんだろうな」

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