第619話 掴みどころが無いな

「まあその子を呼び出すのは確定として、どうにも皆の様子が引っかかる」


 というか、ヨルエナ以外の最初からいた4人は困った顔をしいる。

 実際4年前に戦って倒しているわけだし、その辺りは分からないでもない。

 壬生梨々香みぶりりかの時もそうだった。岩瀬純一いわせじゅんいちの時はそうでもなかったが、あれはもう壬生みぶとセットで考えていたと考えて良いだろう。

 何せこの二人が反乱の首謀者だしな。

 だけど藤井つぐみふじいつぐみはうやむやの内に巻き込まれただけという。

 なら彼女に関しては問題無いと思っていたが、最悪の三人という言葉が引っかかる。

 人を見かけで判断するわけではないが、正直そう言えそうなのは岩瀬純一いわせじゅんいちしか思いつかんぞ。

 壬生みぶは話とか色々した限りでは、ちょっと妖艶な女王様気質が見受けられた以外は普通だったし。


「言いたい事があるのなら今のうちに言っておいた方がいいぞ。そちらの方が事情に詳しいんだ。もし問題ありというのなら、この話は無かった事にする。だが明確な反対が無いのなら藤井つぐみふじいつぐみの蘇生は確定事項だ」


 異論は出ないが、共に戦ったはずの壬生梨々香みぶりりかも苦笑している。

 今更だが岩瀬純一いわせじゅんいちはよだれを垂らしながら天井を眺めている。彼が文句をいう事は無さそうだ。

 ……本当に人間なのかはまた今度確認しよう。


「強い事は確かよ。性格面も多分問題は無いと思う。だけど、首輪はちゃんと付けてほしいかしら。梨々香りりかもたまに絡まれて困るんだ」


「そこがよく分からないんだ。問題があるのか無いのかどっちなんだ」


「性格はまあ普通よりも明るい子でしたなあ。結構自由奔放な所がありましたが、どんな強敵にも臆することなく戦いますし、引くときは引く分別もありました」


「それで6回も本体戦に参加しているんだろ? 理想的な戦力だが、渋っている点は?」


「そうですね。さすがは褒める事に長けた黒瀬川くろせがわさんだと感心しました。とても藤井ふじい教官の事とは思えませんでした!」


 フランソワの目がキラキラしている所を見ると、嫌味を言っているようには見えない。

 しかしますます謎に満ちて来たな。


「大月歴の211年事件の事は話していないの?」


「事件が多すぎて、いちいち説明しきれていないわよ」


 呆れたような感じの壬生梨々香みぶりりかに対して、少し突き放し気味の風見かざみ

 こいつら一応、上司と部下の関係だったんだよな。

 反乱でその関係は断ち切れたとはいえ、こうして見ていると対等な関係に見える。

 なんとも不思議なものだが、実力こそが全てだと考えれば納得もする。


「それで211年の事件ってのは? 藤井つぐみふじいつぐみが召喚されたのは206年だから、僅か5年後の話か」


 ちなみに先代のクロノス――俺でありダークネスさんがこの世から消えたのが198年。

 その前年に木谷敬きたにけいが召喚されている。

 壬生梨々香みぶりりかが召喚されたのは大月歴の185年。

 時期は違うが、フランソワの数か月後輩である事は確認した。

 この時に、孤児院の仲間も召喚されている。梨々香りりかを残して全滅するまでに2年もかからなかったが。

 そして幼馴染の加藤甚内かとうじんないさんが召喚されたのが大月歴の201年。

 こちらは学校関係者と一緒に召喚されたとある。

 幼馴染の関係より、孤児院と学校というグループ分けがされたわけだ。

 まあクロノス時代に奈々ななだけが召喚されたりもしたわけだし、深く考えても仕方がないか。

 そして先代クロノスがダークネスさんとして復帰したのが大月歴の246年。

 その4年後に大規模反乱がおき、今は更にその4年後だな。

 まあそれはともかく――、


「その時に何が有ったんだ?」


「その頃、まだ私たち140年代や150年代の人間が何人も生きていたのよ」


「事件が211年か……当然その頃には、その古参メンバーが中心になっていたんだろ?」


「そうよ。一応教官と言える人は3人いたけど、彼女らが地上で新人教育をしている間、こちらは迷宮ダンジョンに潜ってアイテムを集めつつ、奴を倒す為の戦いに明け暮れていたわ。当時はまだ古参も多かったけど、やっぱりどんなに強くても本体には勝てなかった。次第に古参の数も減って、その頃には主要メンバー12人の合議制になっていたの」


「古参もそこまで減ったのか」


 いや、むしろ良く残った方か。


「いえ、まだ何人かいらっしゃいましたが、体制には関わらなかったもので。緑川みどりかわさんもそうでした」


 確かに、俺がクロノスの時も教官になるのは少し渋っていたしな。

 今もそうだが、あまり人に命令するのは苦手な性格なのだろう。

 しかし本体と戦いながらも残っていたメンバーか。

 そこまで行くと、新人とベテランとの間の力の差は埋めようもない。

 戦闘のたびに新人が死んでいく……しかもその方針こそがみやの真意だ。


「でもそこで、やはりみやさんのやり方に反感が出てましてなあ。お恥ずかしながら、ウチもその一人ですわ。もうアイツにクロノスをさせるわけにはいかないと降ろしに掛かったのですわ」


 いやその話、ヨルエナの前で言って良いのか?

 かなり事情は知っている様だったが、それでもまだ今のクロノスがみやであることは知らないんだろ?

 と思ったら、一ツ橋ひとつばしがヨルエナの両耳にヘッドホンを付けている。耳栓替わりか?

 というか、ヨルエナもこういう時に余計な好奇心は出さない様だ。大人しく座っていてくれていて助かる。


「しかしその話と、召喚されてわずか5年のペーペーに何の関係があるんだ?」


みやが言ったのよ。私と緑川みどりかわそれに当時のメンバーにね。『おそらく勝てないだろう。いつかはけじめをつける、その時が来ただけだ。目的を果たせなかった事は心残りではあるが、これもまた一つの結果なのだから仕方あるまい。だがこのままでは間違いなく全てが終わる。心苦しいが、君たちは何とか残った人間で上手く誘導をしてくれ』って。その時に彼女がいたのよね。そして突然元気よく手を上げて『はいはーい、それじゃあ、あたしやっちゃっていいよね? もう訂正きかないよ。じゃあねー』と言って、9人を殺してきたわ」


「ウチは素直に降伏しましたら、『いいよー』と笑顔で応えましたなあ。根はいい子なんですわ」


「いや待て、少し整理させてくれ」


 召喚者はスキルを使うごとに強くなっていく。常識だ。

 当然制御アイテムを手放すなどの荒業で急激な成長も見込めるが、それは表裏一体どころか自殺行為に等しい。

 成功しても、もう元のままではいられない。

 まあ無くしても“スキルを使わない”という選択で何とかなるし、実際に木谷きたにはスキルを使わずに地上まで帰り着いた。

 あの時点で召喚されて57年。

 もう一人でスキル無しで迷宮ダンジョンを踏破するだけの力が身に付いていた訳だ。


 それは俺にも言えるし、100年以上生きている黒瀬川くろせがわ風見かざみなども当然そうだ。

 そこまでいくと、もし初めて召喚された時の龍平りゅうへいがスキル全開で襲い掛かったとしても、召喚者としての自力だけで返り討ちにするだけの力がある。

 さすがに二人とも力をひけらかすタイプではない――というより皆そうだが、全力は見せないようにしているから彼女らが普通に戦う事はまずないけどな。


 そう考えると、今よりたった33年前まで生き残っていたベテランを、召喚されて5年の新人が倒す事は理論上不可能だ。

 可能にするとしたら、やはり“全知”というスキルが破格だったという事か。

 だがそこまで生き残ってきた連中のスキルだって相当なものだろう?


「その子のスキルはどんな効果なんだ?」


「単純に言えば“知る”スキルでありますなあ。相手のスキル、力、持っているアイテム。そんなものですわ。当然ながら人の考えも読めますが、召喚者には効きやしませんわ」


「確かに強そうではあるが……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る