第613話 ちょっとドキッとしたね

 味方はたったの12人。人望の無さがうかがえる。


「別に残った全員が敵になったわけじゃないわよ。ちゃんと中立もいたわ」


 まあね。確かに樋室ひむろさんとかは中立だったわけだし。


「それで首謀者は?」


壬生梨々香みぶりりか岩瀬純一いわせじゅんいちよ。ただやっぱり、全体のリーダーとしては壬生梨々香みぶりりかの方ね。駒井つぐみこまいつぐみは旗色を鮮明にしていなかった間に巻き込まれた感じだわ」


「ああ、それは少し聞いているな」


 やはりこの辺りはひたちさんに聞いた話と一致するか。

 しかし反乱の首謀者を最初に紹介する当たり、一ツ橋ひとつばしも相当な胆力だ。

 だが――そうだな。可能であればそれが正しい。さすがは一ツ橋ひとつばしと言った所か。

 他のメンバーはその人物を知り過ぎていて、提案できなかったって所だろうな。


 ただ首謀者は2人と聞いていただけに最悪の三人組と言われた時は疑問だったが、これで納得だ。

 ただ中立が何人もいたにも拘らず、その反乱によって残った召喚者は大幅に減った。


 体制側としては最古の4人に教官組が6人。いわゆる地上の10人だな。

 一方で別方向からのアプローチという事でダークネスさん、室紗耶華ひむろさやかさん、坪ヶ崎雅臣つぼがさきまさおみ君が離反するという形で残された。

 ――というか、この時点で既に俺を早急に召喚して、追放して、彼らにかくまわれるという名目で修行の日々をする事が決まっていた訳だ。

 この反乱も、みやがわざと起こさせたと見て良いのかもしれない。

 となると、この結果は偶然ではない。


「反乱を機会に一掃したのか」


「はい……」


「そういう事になります」


 一ツ橋ひとつばしとフランソワは申し訳なさそうだが、この二人が決定に関与したとは思えない。


「まあ当然ね。決めたのはみやよ」


「それまでの事情を知っている人間を一掃して、ゼロから再構築した訳だろ。それは聞いているし、もし俺がアイツの立場なら同じ事をしたかもしれない」


 もう本体を倒す事を諦め、俺を召喚し、鍛え、帰す事だけに集中した事は聞いている。

 となれば、今までの目的を知っている人間は邪魔でしかないわけだ。

 何せそのために頑張って来たのをひっくり返されたのだからな。

 何処から新たな火種が起こるか分かったものではない。


 ただ反乱の理由は“召喚された日を思い出したからだ”とひたちさんから聞いていたが、実際は違った。

 まあ聞いた当時はそうかーと思い、クロノス時代は少しおかしいとは思っていたが、実際の理由を聞けば納得もする。

 というか真実を今後に伝えない為に一掃した訳で、真実を知っていたら生かしておくわけがないよな。


 方向性の違いからの権力闘争。

 いや、互いに権力などに固執した訳ではないだろうから、その呼び方はおかしいか。

 だが勝つという事は、ラーセットの舵取りをするという事だ。それは権力に違いない。


 そしてその反乱に乗じて、単純に権力欲に取り付かれた者、狼藉をはたらいた者も出ただろう。

 ラーセットが燃え上がった事は間違いないだろうな。

 甚内じんないさんがアルバトロスと名乗った時の話が、ますます重く感じる。

 どんな気持ちで一緒に行動していた幼馴染と戦ったのだろう。

 燃えるラーセットを見て、何を感じたのだろう。

 だが結果として、彼はラーセットを選んだ。

 どれほど重い選択だったのか、俺には想像もつかない。

 しかしそうか……それなら――、


「よし、一ツ橋ひとつばしの提案に乗ろう」


「正気とは思えませんなあ。彼らが死んだのは対人戦の最中。それも相当の猛者であります。確かに一人相手に後れを取る事はありませんが、このビルくらいが消滅する覚悟は必要ですわあ。ましてや、あの時の三人の教官は生粋の武闘派でありますし……」


「当初の目的を忘れるなよ。俺が欲しいのはそういう人材だ。正直に言えば、俺たち全員が束になってかかっても危ない位に強い人間が欲しい。烏合の衆なんて集めても、今の奴には届かないからな」


 それもただ単純に強いだけではダメだ。

 協力的で状況を理解する理性があって、尚且つ強い。

 もしくは、情報系の強力なスキルだが、それに関しては今までの本体戦の話を聞いていればまるで期待できない事はわかる。

 だが椎名愛しいなあいのスキルを生かし切れていなかったしな。

 組み合わせ次第で、眠っている逸材の存在も捨てがたい。

 だがやはり、先ずは生き残る強さが無ければだめな事に変わりはない。


 そんな中、元教官組というだけで人格面は……いや、ちょっと考えさせてくれ。

 だけど多くの召喚者をまとめあげた統率力が……まあそれももう一度考え直してみよう。

 それでも召喚者から慕われている事は……これは考えるだけ虚しくなるな。

 とにかくだ、教官組に選出されたというだけで他よりずっとマシなんだよ!


「なんか失礼な事を色々と考えていたようだけど、やるの?」


「ああ。ここでつまづいていたらもう候補なんて見つからない。元教官組ってだけで十分だが、反乱理由も最高だ」


「最高……ですか?」


「今はもう俺がいる。召喚者を使い捨てにはしない。それどころか、死んだら日本に帰る体制も構築した。彼らの求めた体制になっているという事だろう? 最初に召喚する強者としては最適だ」


「ではやりましょうか。成功するにしろ失敗するにしろ、先ず結果を出す事が何より重要でありますからなあ。ただ話が通じるかは、全くの別問題でありますよ」


「手伝いはするけど、説得は自力でやりなさいよ」


 それは分かっている。

 かつて敵対した最高権力者が何を言った所で虚しいだけだろう。


「では始めよう」


「予定通りで良いわけ?」


「そりゃあ壬生梨々香みぶりりかが最適だしな」


 記録によると、スキルは”破砕”。

 物を壊すだけではなく、スキルで作った形の無いものでも壊せるという。

 射程は100メートルほど。攻防一体で、防御にも使用できる。

 だた俺のスキルとは根本的な特性が違うので、相手のスキルを破壊したからといってカウンターが発生することは無い。


 性格は温厚だが戦闘では先陣を切るタイプで、反乱でも多くの召喚者が彼女に賛同したそうだ。

 理由は既に聞いた通り。端から見れば、正義は彼女の方にこそあっただろう。

 だが甚内じんないさんは彼女の手を取らなかった。

 その時の状況を詳しくは知らない。

 だからどんな経緯があったのかは分からないが、甚内じんないさんはみやが作るラーセットを取った。


 単純に考えればそうだが、実際は違うかもしれない。

 使命感に強い人だと感じたし、自分を曲げない様子でもあった。

 その時点で、もうみやはクロノスだ。

 一方で、ダークネスさんは参加すらしていない。

 彼の性格だ。みや――ではないな。クロノスへの忠義を優先させたのかもしれない。


 ふと、頭の中で確認していた資料にある備考の欄が目に留まる。


 ”クロノスのお手付き”


 ダークネスさん……もう全ての女性に手を出したと言われても驚かないわ。

 今度真面目にじっくり話す必要がある様な気がしますよ。


「考えるのはここまでだ。では始めよう」


「はい」


 ヨルエナと手と繋ぎ、召喚を開始する。

 彼女は肉体を。俺は魂を。

 これまでやってきた事そのままだ。

 そして魂が融合され――、


「けほっ」


 現れた小柄な体が小さく咳をする。

 記録には写真もあったから本人である事は一目で分かるが、実際にこうしてみるとかなり小柄で華奢だな。


 身長はフランソワより5センチほど小さい。

 大体145センチくらいかな。まだ小学生で通じそうだ。

 年齢は加藤甚内かとうじんないの幼馴染だし17歳だろう。

 いや本当か? などと思うが、着ているのはどう見ても高校生の制服だ。


「な、何か失敗がありましたか?」


「確かに壬生梨々香みぶりりかで間違いはありませんが」


「いや、大丈夫だよ」


 あの中2だった千鳥ちどりゆうよりも7センチも小さいのだから、ちょっと考えてしまうのも無理はない。

 ただ記録写真は上半身だけだったからな。普通に童顔なだけかと思っていたよ。

 というか、甚内じんないさんの幼馴染でダークネスさんが手を出したのがこの子か……色々と複雑だ。


 低身長巨乳ということは無く、出るところは出ておらず、引っ込むところもストレート。

 少しセミロングな艶のある髪で、細く毛量が多い。そして身長に対して少し大人びた顔つきだ。

 なんというか、そちらの趣味が無くとも一目見てドキッとしてしまうタイプの美少女と言って良いな。

 育ったら魔性の女になりそうだが、残念ながもう成長は打ち止めな年齢か。

 だが逆にランドセルを背負わせたら、そっち系の人間はホイホイと引っ掛かり――、


 ゴッ! という音と共に俺の頭よりでかい岩が後頭部に投げ込まれたのと、


「状況を説明して」


 そう、見た目通りの可愛らしくも凛とした声が響いたのは全くの同時だった。

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