第612話 反乱の話だけは聞いていたが

 そんなわけで、続いて召喚した二人は俺が剣で心臓を刺して魂に戻って貰った。


「目的の人間を召喚出来ましたね! お見事です!」


「見事なのはそちらだろう。よく特定できるものだ」


 実際には死んでいない。ただ単純に、日本へと還って貰っただけだ。

 本来なら良いことをしていると言っても良い。

 とはいえ、我ながらここまで慣れてしまった事が恐ろしい。


「ここまでに召喚したリストと、そこまでの成長具合。それに亡くなった日と状況が記録されています。ここまで召喚した事で、グループもある程度特定出来ました。ただやっぱり……おおよそと言った所が限界です……」


 フランソワの報告も、最期は段々と声が小さくなってきた。

 まあ分かる。

 グループの特定は出来たし、そこから選んで召喚する事も出来た。

 もうあと一歩だ。

 ここまで長かった。だけど、やっと戦力を召喚出来る。

 だけど、グループってのは大抵一緒に生き、死ぬ時も近いものだ。

 当然、そこには友好的な人間もそうでない人間もいる。

 ここからやる事は、そこからの賭けだ。

 まともな人間を引ければいいが、そうでない人間を引いたら大変だ。

 圧倒的にこちらが有利とはいえ、そこから逆転できるような人間を求めているのだからな。

 だが無駄な戦闘をしたくないのも事実。


「ここまでの記録から、誰か良い候補はいないかな。グループの誰かという形でも良い。とにかくいきなり戦闘にならなくて、なおかつ性格的にも問題無い人間だ」


「そうですね……壬生梨々香みぶりりかさんはどうでしょうか?」


 その名前は知らないな。

 だが提案した一ツ橋ひとつばしはともかく、風見かざみ黒瀬川くろせがわも、フランソワまでもが渋い顔をして沈黙している。

 ……かなりのいわくつきの人物か。

 性格に難が無ければいいが、この様子を見れば確実に一悶着があった人物だ。


「名前を聞く限り女性の様だが、どんな人間だったんだ?」


 やはり3人は困っているな。


「同じ教官組の、加藤甚内かとうじんないさんの幼馴染ですわ。ただ別々に召喚されましたので、グループは違いますなあ」


「ですがそろそろついた順番も予想がつきますので、こちらが指定した辺りから選んで頂ければ敬一けいいちさんなら特定できると思います」


 へえ、甚内じんないさんの関係者か。

 ん?


「在位は何年だ? 死因は?」


「召喚されたのは大月歴の185年。フランソワさんと同じ年ですが、彼女の方が数か月後です。こちらの世界には65年居ました。元々は教官組でしたが、死後は甚内じんないさんが継いでいます。ただ元々二人で行動することが多かったので、二人は教官組と一般召喚者の橋渡しのような立場でした」


「相当なベテランまで一気に飛んだな。それにその経歴なら問題はなさそうに聞こえるのだが」


 今いる教官組の中で、加藤甚内かとうじんないは3番目の古株だ。

 その後、荒木幸次郎あらきこうじろう一ツ橋健哉ひとつばしけんや三浦凪みうらなぎが召喚されて今に至る。

 しかし、教官組も不動ではない。

 まあ対人戦はともかくとして、あの本体と戦っていたんだ。そういう事もあるだろう。

 しかしあの甚内じんないさんの幼馴染か。

 風見かざみ黒瀬川くろせがわにも大切な人がいる。彼にとっては、彼女がそうなのではないだろうか?

 今の話だと、召喚する事は得しか無いように感じるが。


「死因は反乱によるものです」


 なんか急に最悪になったな。

 召喚しても良いものなのか?

 だが他は渋っているが一ツ橋ひとつばしの推薦だ。

 その辺りもひっかかる。


「人柄や死因などを詳しく教えてくれ」


「全員の資料には目を通したんでしょ?」


「流し見しただけだから、記憶から引っ張り出すのが面倒なんだよ。何人いると思っているんだ。それに文字は所詮文字。実際に生で会った感想を聞きたい」


「仕方ないわね。彼女の担当は元々私。仕方ないから説明するとするわ」


 風見かざみは本気で嫌々と言った感じだな。


「さっき反乱で死んだという事は話したけど、もう分かっているんでしょう?」


「その点はね」


 召喚されたのが185年。

 そして在位が65年という事は、その人が参加した反乱とはこの世界最期の反乱。

 つまりは4年前の一掃事件だ。


 俺が聞いた話では、ダークネスさん自身はこの件には無関係。

 それに樋室紗耶華ひむろさやかさんと坪ヶ崎雅臣つぼがさきまさおみ君も参加していなかったと聞いた。

 ただ状況が状況だけに姿を隠したのだと。


 だがその話は、その後に召喚されたひたちさんから聞いた話だ。

 それに今となっては、ダークネスさんとクロノスが繋がっている事も分かっている。


「その時の反乱に関しても詳しく教えてくれ」


「詳しくと言っても、内容自体は単純よ。クロノスがブラッディ・オブ・ザ・ダークネスとして復活した当時は、まだ今よりはしっかりとしていたの。その頃のみやは徹底した召喚の高速化を計っていたわ。その点は知っているでしょ」


「今更だな。それで意見の相違があったのか」


「本当に言うまでもないわね。その通りよ。あと、悩んでいる事には先に応えておくわ。ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスは参加しなかったわよ」


「だが原因は意見の相違と聞いているが、どういう事だ?」


「そこは少し複雑なのよね」


「ダークネスさんは、『みやのやり方に口は出さない。自分はもう抜け殻なのだから』と言っておりましたなあ。ですが今思うと、もう自分がどういう運命を辿るのかを知っていたような気がしますわ」


 確かに、たったの4年だ。

 それだけで、多くの記憶を失ってしまったと言っていた。

 だがダークネスさんには大事な使命が残っている。俺を召喚し、地球に送り帰す事だ。時計の針を使ってな。

 だからみやのやる事に、反対は出来なかったのだろう。

 俺ならどうだろう?

 と言うか俺だしな。考える事は同じだ。

 確かにその状況になったらみやの好きにさせるか。


「ただその戦いは、今までの召喚者同士の戦いで最も苛烈なものになりました。今までの反乱はクロノス様に最古の4人の方々。それに私を含めた教官組が居ました。たまに教官組と戦う事もありましたが、勝負になるようなものではありませんでした」


「だがその時はそうじゃなかったと」


「そう……ですね。私が教官組になったのも、その時の戦いが元です」


 そうか。一ツ橋ひとつばしはそのころはまだ一般の召喚者――な訳は無いな。

 教官組とまでは言わないが、探究者の村の人の様に、何か特別な権限が与えられていたとみるべきか。


「手っ取り早く言えば、みやに賛同しなかったのは当時の教官組だった壬生梨々香みぶりりか岩瀬純一いわせじゅんいち、それに藤井つぐみふじいつぐみ。最悪の三人組ね。それと……ああ、まだるっこしいわね。逆に言った方が早いわ。こちら側は私たち最古の4人。今の教官組の6人。その他は2人よ」


「味方は12人だけかよ」


 人望ないなー。分かるけど。

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