第611話 先ずは成功だ
魂をここに召喚することは出来る。
そこにヨルエナが肉体を召喚し、塔の力で魂と肉体を融合させる。
ここまでは良いんだ。
だが逆となると話が変わる。
ここにゴロンと死体を転がして、『さあ魂を入れてください』と言われるとさすがに困ってしまうぞ。
この状態では塔も機能しない。
正確に言うのなら、魂を俺の元へと呼んできて、死体は鍾乳洞へとポイする機能が働いてしまう。
「何とかならないのか?」
「ヘルメットがあるじゃない」
冷静に言い放った
「もっとまともな手段があるから次の段階に進もうって言うんだろ。それをちゃんと話せ」
「今の見立てですと、やっぱりヨルエナ様と
フランソワもまた平然と言うが、多分俺の考えている事とは違う。
ヨルエナも意味が分からないというようだ。
「詳しく説明してくれ」
「改めて説明いたしますと、今までの召喚は魂を大変動のエネルギーから外して持ってきて、その魂が求めた肉体を召喚。それを塔とヨルエナ様の力で融合させるというものでした」
まあそうだな。
だがそれではずっとくじを引き続けるようなものだ。
空くじ無しとはいえ、こうもランダムだと身が持たない。
そもそもこれ以上強い奴を本当に召喚して良いかすら怪しい。
「そこで今回の手順はこうです。先ず強制的に塔を先に起動させ、呼び出したい痕跡の人を召喚させます。これは元々、その為のコードなんです。ただこれは、もちろん遺体です。そこで今度は、召喚された人の魂を
「そこがネックなんだが」
「ヨルエナ様と手を繋いでいれば、召喚した肉体に合わせた魂の感触はつかめると思います。そこで、召喚した魂が再び大変動の奔流に戻ってしまう前に、最初に召喚した遺体をこの場で再召喚するわけです。ここの手順は同じですから、もう成功する事は確認済みです」
簡単に手順を説明されたが、確かに可能ではあるな。
そしてそれには、難しさと簡単さが表裏一体で繋がっている。
一番の問題は時間だ。召喚された魂が帰り、肉体が死体置き場に送られるまでのリミットはおおよそ3秒。
決して簡単ではない。
しかし利点もある。
もう召喚するたびに戦闘に入る様な事は無い。
今までの様に突然死んだはずの所から続きをやるわけではない。
蘇生と言うワンクッションが入る。
不必要だったらそのまま日本へ帰って貰えば良い。ナイフ一本で済むな。
必要な相手ならそんな事はしないが、さすがに目覚めたら状況確認から始めるだろう。
今までの様に、死んだ戦いの続きからやる馬鹿は――あんまりいないだろうさ。
「難易度が高いな。少し成功率が低そうだ」
「それを100パーセントにするのがアンタの役目でしょう。失敗したらわかっているでしょうね!?」
プレッシャーが酷い。
とはいえ、当面は
まあ
ただ個人的に言えば、
そりゃ二人は怒るかもしれない――というか
本当に日本に帰るだけだ。
ただ実際に失敗したら、おそらく
だから俺としては、彼女の怒りよりは貴重な戦力を失う方が怖いわけだよ。
「理論上は分かったし、それじゃあ始めるとするか。先ずは簡単な所から行くんだろ?」
「はい。一番わかりやすくて、
ああ、ある程。確かに最も分かりやすくて最も弱いのがいる。
俺と一緒に召喚された杉駒東高校の人間だ。
とは言っても
それだけに、特定もたやすい。
確かにこれ以上の人選はないだろうさ。
「よし、始めよう」
傷の位置は
残った痕跡から
これは俺の得意分野だ。選び選んで、最後に残ったものが真のハズレ。つまりは当たりだ。
「最後に残ったこれがそうだな」
「ではその肉体を召喚して頂きましょう」
「はい、始めます」
塔が光り、
同時に俺が彼の魂を召喚する。
これも事前に違う魂は候補から外して目星をつけていたから容易い。
確かに、光に包まれてやってきたのはあいつの魂だった。
だが融合しない。これも想定通りだ。
今までの再生と違い、召喚した魂に合わせて肉体を召喚した訳ではない。
最初に死体として召喚されている。これで勝手に魂が入ってくれるなら、そもそも死者などいないわな。
そこでヨルエナが、再召喚を行う。
本来は地球から呼び出すが、今回は目の前からだ。
前例のない事だが、ヨルエナは出来そうだと言っている。とにかくやってみればいいか。
成功すれば、肉体と魂が一つになるわけだ。
問題は時間だったが、幸い3秒という時間は俺たちにとって長い位だった。
特にヨルエナの召喚慣れが大きな成功要因だな。
新人ではこうはいかない。おそらく相当な人数を召喚したに違いない。
「それで、どんな感じなんです?」
魂と肉体。2つを召喚して融合させる事には成功した。
まあ正確に言えば、死体に魂を入れたんだ。
まあ急激な蘇生だからな。
もう少し遅れたら、こちらで心臓マッサージなり人工呼吸なりが必要だった。
「見ての通りだ。遺体に魂が入った事で、急激に蘇生を始めている。こんな事例は現在ではさすがに無いが、細胞が完全に機能を停止する前に『生きている』という認識を入れればこうなる事は予想が付いていたよ」
「難易度はどんな感じでしたか? 気になった点は? 改善が必要な問題などがあったら教えてください」
だけど今回は問題が無かった。無さすぎて拍子抜けするくらいだ。
「取り敢えずこいつは帰還と。
「構いませんが、毒は限りある資源ですからなあ。そこの剣でさっくりやってもらうのが一番なのですが」
確かにそうなんだけどね。これは二重の意味でのテストだ。
「次は俺がやる。先ずはこの状態で抵抗できるかを知りたい。最終的には二人がかりでやって、それでもダメなら総力戦だな」
「さすがにここまで無抵抗だとそういった自体には――と言えないのが召喚者でありましたなあ。でもこんな程度の相手ではあまり意味は無いんと違いますか?」
「見たいのはスキルを発動できるかどうかだな」
「反射で使う人もいますが、まあ試しておいて損はなさそうですなあ」
こうして
それが言うと無駄な行為だが、これは目的の人間を再生させるためのテストだ。
後2~3人やったら本番だな。
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