第614話 これが戦闘の専門家か
見たところ、まだ立てないのか座ったままだ。
だが魂まで射貫くような目力が凄い。
その眼光だけで従ってしまいそうだ――って以前にスキルが発動している。
まあそりゃそうか。
でもこうして先ず会話から入る所はさすが教官組――いやまあ例外もたまにあるが。
「今は大月歴の254年。そして俺は
「そう、あれから4年で事は成したのね。なら後は神罰を撃ち込むだけだろうけど、
死んだ人間は、死んだという事実を理解しているようだった。
それは彼女が言っている事からも分かる。
だけどそれだけに、今の自分の状況よりそちらを先に聞くのは意外だった。
「召喚はした。だが彼女に神罰を使わせる予定はないよ」
「でしょうね」
そう言いながら少し煩わしそうに髪をかきあげると――、
「そこにいる
敵対していたとはいえ、最古の4人に対してあまり敬意は無いな。
……と思ったが、他の連中も無かったわ。
今までも
普段のふてぶてしい態度が嘘のように、内面は常識人だ。賭け事さえ抜かせばだが。
ただそれだけに普通なら部下の素行に胃が痛くなるところだが、最古の4人がそもそも礼儀というものにこだわってはいないか。
つか、やはり認識疎外は効いちゃいないな。
「悪いけど、使わない事になったわ」
「何か心境の変化があったの? あの頃とはまるで別人――ああ、そうか、
全てを見透かすような状況把握。
それに物憂げな様子だが周囲に対しての警戒も欠かさない。
これで抜群のプロポーションだったら――、
ゴッ!
「それ痛てえんだよ! やめろ!」
「アンタが真面目に対処していないからでしょう」
「ちゃんとやっている!」
別に俺が手を出すとか言う話じゃない。
そうだったら他の男ども放ってはおかないだろうなとか、
「それで、今の
え? まさか一人称が自分の名前とは。
なんだか一気に幼く感じてしまったぞ。
しかしこのギャップがまた――、
ゴッ!
痛てえ……今までは丸かったが今度は四角。しかも角が直撃しやがった。
思わず声も出せずに
「ふうん……今の傷、もう無いね。本当に彼が未来のクロノスって事で良いのかしら」
頭の上から声がする。
視線を正面に向けるが、さっきまで座っていた位置に
見上げれば、いつの間にかすぐそばに立っていた。
今はスキルを解除しているが、神秘的で力強い瞳で探る様にこちらを見ている。
敵意は感じないのに、静かな威圧感が俺を包む。
思わす尻餅をつき、ごくりと唾をのんでしまった。
ただ近くにいるというだけで、明らかに空気が違う。
「それで、もう一度聞くわね。
髪をかきわけながらゆっくり離れたが、離れた瞬間が見えなかった。
動きの緩急が激しい。
というよりも、戦闘態勢に入っている人間の動きだ。
相当に対人戦にも慣れているし、武術の心得の相当だな。
しかし最古の4人をストレートに名前で呼ぶのに、フランソワはちゃんとそう呼ぶんだな。
まあ
反乱の時に敵対していた事は確定だが、やはり元同僚として敬意は払っているのだろう。
それに地球ではともかく、ここではフランソワの方が先輩だしな。
「言うまでも無い事ですなあ。今さっきアンタが見ていた
正しくは
今は些末な事はどうでも良いか。
「ふうん」
ちらりとこちらを見るが、鋭さと色香の混ざった本当に不思議な眼差しだ。
瞳に込められた感情がコロコロ変わる。
それだけ、新し情報に対応しているという事か。
「魂とか
――とん。
いつの間にかすぐそばにいて、胸の中心に軽く人差し指を突き立てられる。
年長者に対して不敬な態度だが、嫌な感じはしない。
元々俺は、あまりそういう事は気にしないけどね。
というか、彼女からすれば俺は新人の召喚者に過ぎないよな。
「今度も何も殺さないよ。協力してもらいたくて蘇生させたんだ。その辺は後で聞いてもらうとして、協力は出来ない、日本に帰りたいって言うなら今すぐにでも帰すよ。例の黒い穴じゃなくて本当の意味でね」
「へえ……
そう言って、彼女はまだ立てないでいた俺の顎に人差し指を動かした。
少し首を傾げ、挑発的な視線。なんだかそれだけでゾクソクする。色々な意味でだ。
背の低さという見た目に反して、動きといい色気といい、何とも今までにいなかったタイプの子だ。
というか、この状況で目を離すほど間抜けじゃないつもりだった。
それが3回も見失った。召喚者としてのキャリアは俺の方が長いのにな。
スキルは炸裂だから、この動きとは無関係。
召喚されたばかりでアイテムも持っていない。
これが戦闘系のスキル持ち。しかも本人自体が戦闘系の召喚者の動きか。
同じ教官組の
別方向に強いが、本当にベクトルがまるで違う。
似たような空気を纏っていた召喚者に
「じゃあ、これまでの詳細を話してもらえるかな。その為に呼んだのでしょう? それに――」
耳元でふうと息を吹きかけられる。
「クロノスの若い頃なんでしょ? 恋人も召喚されたってさっき聞いたけど、随分と経験豊富。先代もそうだったけど、どれだけの女をもてあそんだのかしら」
「いや、その物言いは誤解を招く」
「誤解じゃないのでしょう? 良いよ。若いクロノスにも興味はあるから」
囁くような小さな声。だけど有無を言わせない力を感じる。
その背後に
音もなく、まるで一瞬で小麦粉にでもなった様にゆらりと岩の粒子が宙を舞う。
「殺さないんじゃなかった?」
肩越しに振りかえって
始めるなよ!
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