第609話 もう限界だぞ
食事後、最初に召喚されたのは、
もっとも、名前を知ったのは後になってからだが。
「やはりこういう事もありますなあ」
おかしい。今までの召喚者は、全員
魂から召喚された連中は、全員等しく同じ地球の服。こいつの場合は高校の制服だな。
他に現地のアイテムは持っていない。だから何かのアイテムで対処する事も出来ない。
再生して殺して日本に帰すだけの単純作業だったはずだ。
彼の周囲からはひりつくような危険を感じる。毒は確実に撒かれている。
「いきなりだな。だが妙だ……俺は死んだはずなんだけどな」
少し太い声。がっしりとした体格に良く合っている。
と言うか、暗闇で声だけ聴いても、体格が想像できるくらいマッチしていると言って良いか。
それにいきなり? 死んだはず? その辺りを理解しているという事は――、
そんな観察の隙を衝くように、瞬きする間に目の前まで迫っていた。
中々の速さだ。それに躊躇が無い。
「先ずお前は死んどけ」
素手か? なら――、
と思った瞬間には、俺の腹に深々と拳がめり込んでいた。
その名の通り、筋肉を突き抜けて中にまで。
更に噴き出す黒い霧――じゃない。これは摩擦の高い粒子。いわば煙程にまで細かくなった砂状のヤスリ。
俺の筋肉も、内臓も、骨までも一瞬にしてペースト状になって床に広がった。
当然、外しているけどね。
そして当然、純粋な打撃以上にスキルは外した時にストレートに返るんだわ。
俺が新しい体になって出て来た時、攻撃した男は光に包まれていた。
まあちゃんと帰したけどね。ただ――、
「今の狂犬は何だ!」
「
おいおい。
まだ中間くらいだぞ。
「在年期間はどのくらいだったんだ?」
「22年よ」
あれで魔の14期を生き抜いた4人の半分ほどか。
「毒が利かなかったようだが、あれは何だ? スキルは1つだけのはずだろう?」
「うーん、常識的過ぎて返答に困りますなあ」
「召喚者同士の戦闘では様々な毒や罠を張るのは常識よ。召喚された時点で戦闘の意思があったみたいだし、すぐに呼吸を止めるか、可能なら周囲をスキルでガードするでしょう。むしろ何で知らないの?」
アイツが最初に毒の中でも喋れたのは、あのスキルの応用か。確かにフィルターにもなりそうだ。
「と言うか、知っている方が異常なんだよ」
という言葉は言っていて虚しい。
俺がクロノスの時は召喚者同士の戦闘は禁止していた。
だがこちらは違う。22年間の間に、どれだけ同じ召喚者と戦ったのか。
対人戦の練度は桁違いって訳か。
「それでいきなり攻撃してきたのは?」
「あのくらいまで育ちますと、もう死の意味を知っています。死んだと思ったら生きていて、目の前に召喚者がいる。攻撃するには十分な理由では無かったのでしょうか」
「逆だろ普通。助けてくれたとかの方向に思考を動かせよ」
「それは……難しいと思います。死んだと思ったら生かされていたとなれば、どんな目に合うか分かりません。彼もまた、宝を隠し持っていたのだと思います」
最低だな。
そんなのを、これからどんどんランクアップさせて再生していくのか?
正直身が持たんし、広範囲攻撃を持っていたらヨルエナが巻き込まれる可能性がある。
「そちらの様子はどうだ?」
「様子も何も、まだ召喚跡の位置を確認して照合するだけです」
「申し訳ありません。今出来るのはそれだけで……」
「いや、いい。その点は仕方が無いな」
最初から塔が彼らに解放されていれば、いきなり全員の位置を特定して次の段階に入っていただろう。
だがそれは同時に危険すぎる。
この二人だけが安全だと決められる人間はいない。迂闊に広く開放すれば、
俺が反乱を起こされた時もそうだった。
秘匿した事は正しい。それだけにもどかしい。
その後はヨルエナの安全を最優先として復活と送還を続けた。
万が一塔が壊されても、これは複製品だ。
だがヨルエナと杖はそうはいかない。
ポジションも俺が少し召喚場所に近くなり、フランソワは護衛に専念してもらった。
そんな支度が不要になればいいんだけどな。
しかし世の中そんなに甘くない。
というか、お前ら猜疑心が強すぎだろと悪態をつきたくなる。
復活させた人数は21人。
内、素直に話に応じてくれたのは2人だけ。
それと毒で死んだのが4人しか居なかったので、他15人とは全部戦闘になった。
何と言うか、本気で警戒心高すぎね? 対人経験豊富過ぎね?
特に
いきなり真っ赤な絆創膏ビキニ。高校生だが、グラビアアイドルもやっていたそうだ。
実際童顔ながらも凄い美人で、プロポーションも何というか同じ人間とは思えない。
まあ
彼女のスキルは自爆。ただし、自分を完全に膜でガードしての自爆と言うある意味イカサマだ。
当然ながら膜に防がれて毒は効かないし、フランソワの攻撃も弾かれた。それだけで、自爆の威力も理解できるというものだ。
厄介だと思いながらも彼女を掴み、俺の後ろへの爆発は全部外した。
全方位攻撃だっただけに、彼女の後ろの壁には大穴が開いたけどな。
ここは高層ビルの中心部に近いから良かったが、下手をすれば高度2200メートルの強風が吹きこんでくるところだった。
そしてカウンターで返した攻撃もまた、膜で防がれるという徹底ぶり。
通常の盾も鎧も、鍛え上げた召喚者の肉体や通常のスキルすら突き抜けるのに、この特性はずるい。
考えるまでもなく、スキル耐性は相当に高いのだろう。
だがそちらに関しては俺にも自信があった。彼女の膜を外す。変な意味ではないぞ。
単純なスキル比べなら、そうそう負ける事は無い。
スキル同士がぶつかった結果、彼女の張っていた防御膜はあっさりと消滅した。
驚いた顔をしながら再度発動しようとするが、その前にフランソワの剣が彼女の額を横から貫いての決着となった。
この時点でもう流石に限界ということで、今日の復活はここで終了だ。
と言うかマジで死ねる。
召喚者同士の戦闘とは、それ程までに消耗するものだった。
「もう限界だ……今日はもう勘弁してくれ」
「甘えている場合? と言いたいところだけど、今はご苦労様としか言えないわね」
いや本当にスキルでの戦いは辛いんだよ。
基本的には
毒、麻痺、睡眠、それに酸素濃度。人間を殺す中でも基本だから仕方がない。
しかも
基本的に、そちらに一時すら注意を向けさせてはいけない。
そして
そんな訳で、語り尽くせないほどの死闘があったわけだよ。
ちょっとフランソワに膝枕して貰って休もう。
と思っていたら
「不潔。ヨルエナさんはこちらね」
「それが良いです。今日はあちらで休みましょう」
なんか酷い事を言いながら
と言うか今日はもう帰るのは無理だな。
一応、その可能性もあると
さっさと脱ぎ始めた
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