第603話 そりゃこうなるか
そんな訳で、今までに召喚された人間の資料を全部回収して召喚の間へと跳んだ。
本当に忙しい。
ただこの資料は、
さすがに出張中は持ち歩きなどしないが、戻って来て無くなっていたら一悶着あるかもしれない。
だから一応、書置きは残しておいた。あいつの性格からして、これで問題はないだろう。
「遅いわよ」
「働いている人間に、開口一発それかよ」
「こちらは待っているの。ずっと!」
「へいへい」
何処か別人のように冷静な
段々と調子も上がってきたみたいだな。
「先ずは資料を持ってきた。多くはなかったとはいえ、反応のあった箇所と日本に帰した連中の確認だな。それと――」
「はい、お呼びという事でしたので急いで参りました」
一か所完全に修復されたところには、ヨルエナが申し訳なさそうに座っていた。
向こうからすればこちらが格上。一応は召喚者様という立場だからな。
だけど俺も含めて、誰もそんな事を思っていない事が分かる。
彼女は聖堂庁の長官にして大神官であり、そして客人だ。
ただお茶が出されている。それだけが不安要素だ。
「それでどのような御用件なのでしょう? いえ、詳しい事は聞いておりますが、何をどうして良いのかが分からないのです」
そりゃそうだろうな。俺も実は分からない。
今考えれば、最初に
でも最初にニコニコしていたら、多分期待に応えようと普通にやって失敗した。
その後は想像するだけでも怖いな。
居るだけで緊張感を与えてくれる
でもそれはともかく、出来る限りの説明をしないとな。
「今まではヨルエナらの大神官が俺たちの世界から召喚していたけど、その魂が今も
「はい。ゴーストと呼ばれる
誰だ、ヨルエナに説明をしたのは!
まあ考えるまでもないか。
お仕置きしてやりたいが、全く動じないだろうな。
「まあちょっと違うがそれでいいや」
もう訂正するのもメンドイ。
「ただそのままだと肉体が無い。地球へと帰すことは出来るが、俺が求めているのはその先だ」
「わたくしがその彷徨えるゴーストに肉体を与え、再び召喚者にするのですよね。その辺りは聞いておりますが、大丈夫なのでしょうか?」
その大丈夫に2つの意味があるは分かっている。
一つは実際に可能かという事。もう一つはバケモノが出来上がるのではないかという事だ。
「それは構いませんが、
「あ、それでしたら――」
フランソワが手を上げるが、
「……あんたたち。塵一つ残らず魂まで消すわよ」
はい、ふざけすぎですね。
と言うか、神罰なら実際可能かもしれない。これで
「聞いているの!?
俺かよ!
思いっきり否定したいが、フランソワに被害が及ぶのは避けたいし、そもそも
くっそう、無意味だ。
仕方がない。もうさっさと本題に入ってしまおう。
「それで出来そうなのか?」
「理論は出来ていると言っただろう。ただ選別するという余計な手間が追加されたから面倒なんだ」
「だから失敗するといった。
「知った事か」
以前の塔のバックアップを作っていた二人がいなかったら、あそこで全部頓挫していたな。
うん、つくづく
「それで現在の進捗は?」
と言っても今日の今日。
一応ヨルエナがここまで来るくらいの時間はかかったが、まだまだこれからだな。
折角呼んだがもうじき日も暮れる。ここは壁のせいで夜も早いしな。
仕方ない、今日は解散だ。彼女は俺が聖堂庁まで送って行こう。
「よし、出来た」
「出来たのかよ!」
「召喚に使っている杖があるそうだからな。それと塔のデータを繋げた。後はアンタが魂を召喚すれば塔が反応する。それが杖とリンクするから、それで何とかなるだろう」
驚いた以外に何を言えば良いのだろう。
俺がいない間にそこまで出来たのか!?
だけど試す価値は十分にある。
どうせ失敗しても地球に帰すだけだ。
それにもう召喚者と奴が召喚した人間との区別はつくようになった。
と言うより、根本的に少ないんだよな。俺が地球で知っている死者よりも遥かに。
これは3年間という時間のせいじゃない。考えろ、奴が何を食事にしているか。
そう、奴は魂を食べている。
だからこそ他のセーフゾーンの主が、わざわざ異物になった奴の討伐に手を貸すのだ。
同じ異物である人間なんかにな。
というか、俺たち召喚者は人間とすら認識されていないか。
今ある日本人以外や塔の範囲外の魂は、奴が同類にした事で死んだ奴だ。
そして、奴は生きている相手からしか魂を食えない。
そうでなければ大変動のエネルギーを貪り食い、この星全てのセーフゾーンの主が退治に向かって終わりだ。
そう考えると、やはり全員を助けるという事は無理だ。
だが元々ゼロだったのだ。こうして機会を得ただけでも感謝せねばなるまいさ。
「じゃあそろそろ」
「……杖が……代々受け継がれてきた神聖な杖が……」
召還を始めようかと思ったらが、ヨルエナがうわごとのように呟きながら倒れていた。
倒れながらもしっかりと杖を抱きしめている。
そしてそこから延びるコード。
うん、無理からぬ。
「確認しておくが、杖のバックアップは取ったか?」
「そんな時間があったと思うのか? 一度頭の中身も入れ替えてもらえ」
すぐさま3本の槍が3方から
それが分かっているから、フランソワもあそこまで容赦なくできるんだろうな。
だよね? 信じて良いよね?
それはともかく、杖には何ヶ所も穴が開き、同じ様に穴を開けられた塔と何本ものコードで繋がれていた。
「一応聞くが、これでダメだったらどうするつもりだったんだ」
「この世界に唯一無二なんてものは……ああ。あったな。この杖に関してはしらないが」
「ええと、一応は削る時に内部構造は確認しています。上部は複雑で再現は難しいですが、柄の部分は本当にただの持ち手だと思います」
「さすがに重要な部分に穴を開けるほど馬鹿じゃない。要は繋がっていればいいんだよ」
「物にそれだけ配慮するなら、人の心にも配慮しようね。命令したのは俺だけど」
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