第602話 こいつは本当に先代を尊敬していたんだな
誰がヨルエナを呼びに聖堂庁へ行くのかは指定しなかったが、まああのメンバーなら自分で決めるだろう。
それにフランソワと
その間に、俺は召喚庁へと跳んだ。
当然ながら、今までの召喚者のリストを取りに行くためだ。
場所は召喚庁トップの部屋だ。
「入るぞ」
特に変な事をしている訳もないので、今回は素直に入った。
どうせいつもの執務中だろうと思ったのだが……。
「これは珍しい。
そこにいたのは
相変わらず腹筋と二の腕が出た、露出の高い現地人の服だ。
長い髪を後ろで束ね、前髪も長く顔はかなり隠れている。
しかも背が高い割に少し猫背なせいで、なかなか顔色がうかがえない。
まあスキルで外せば一発なのだが、召喚者にスキルを使うと事の意味を考えたらやらない方が良いだろう。
と言うか顔は見た事がある。意外と整っていて驚きだった。
ついでになんちゃってヤンキーで、根は優等生だが仕草や口調に変な癖が入る。
何処で身に付いたものなのやらだが、召喚した時からそうだったな。
普段はそことなく飄々としたところがあるが、心に一本、鋼の芯が入っている奴だ。
「珍しいな。
「南のイェルクリオが大掛かりな軍事行動を起こしてね。それの対処に向かった」
南北に敵を抱えるからこうなると言いたいが、これは今更言っても仕方がない。
「本来なら
なんだか誤解を招きそうな表現だ。
「だから代わりに
「俺も書類を取りに来ただけだから、本当に偶然だよ。ただ折角だ。ちょっと聞きたい事があってな」
「どうせこの事だろう」
そういうと、自らの腹に4本の指を突き立て、横一線にえぐる。
だが出て来たのは血ではない。奴らと同じ、青白いゼリー体だ。
「やはりか。こんな時、気の利いた言葉が言えなくてすまない。だが大丈夫なのか?」
「むしろそうでこそクロノスだな。俺の体を心配しての言葉じゃない事はニュアンスで分かったよ。敵に操られていないか……そうだろう?」
「本当にすまないな」
「何も問題はないさ。目的が全て……先代もそうだった。普通だったら嫌な奴だが、スケールも覚悟も俺なんて比較にならなかった。自分がいかに小さな世界で生きているのかを思い知らされたよ。だから憧れているんだ。今もね。ああ、そんな事はどうでも良いよな。確かに今の俺は、もう相当に侵食されている。だけど幸いだな。俺はどうやら、奴の支配を受けない程度には成長していたらしい。まあ体はこんなんだから笑っちまうよな」
そう聞いた時から幾つかの可能性と対処法を考えた。
だがこれは、当時は考えもつかなかったレベルで最悪だな。
今から日本へ帰すべきか?
精神さえ無事なら、こちらの肉体がどれだけ汚染されていても関係はない。
だが肉体がある以上、こちらに無事な肉体を新たに召喚することは出来ない。
やるとしたら、日本に帰してからの再召喚だ。
今やろうとしている事を考えればできるかもしれない。
だけど無理だな。俺の意識がハッキリとそう言っている。
「いつまでもつんだ?」
「精神は浸食されちゃいない。まあ奴を倒すまでは余裕で持つよ。どうせ5年だの10年だのはかけないつもりなんだろう?」
「まあな。1年だってかける予定はない。奴の猶予が分からない以上、1秒だって早く決着をつけないといけない。そうでなければ、ダメだった時の対処が出来ないからな」
「ここまで準備しておいて、ダメだった時の事を考えているのはやっぱりさすがだよ。そういえば聞いたが、
「不満か? いや、それは無いな。最初から、お前に
そう。実際にこいつには、
そもそも、本気でダークネスさんの件に決着をつけたいのであれば、狙う相手が違う。
だけど正しくなら、
今は両方の意識が混在しているが、とにかくさっさと神罰を撃って消えてしまいたいという一心であれだけ準備をして来たんだ。
だけど人の心は変わる。だからこそ、
とはいえ、
「神罰を使う事が先代の予定でしたからね。だけど今となっては必要が無い。ただし――」
「俺が消滅したら状況は変わる――か」
「だから撤回する気はありませんので、その辺りよろしく」
「分かっているさ」
だが、もし
その時に
本当に
それとも
どちらにせよ、その時はもう俺にはどうしようもない。生きて日本に帰す手段もない。
再び殺伐とした殺し合いの世界だ。
そして
その状態になったら、もう
その時は
だけど俺はもういない。
後の事は、
「もし……の話なんだが」
「死者を召喚する話は聞いているよ。本当に突拍子も無い事を考える。さすがは本当のクロノスだと感心するね」
分かっているか。
なら、もう何かしらの覚悟は決めているんだろう。
「それにしても、マジでこの状況でこの体を見ても日本に帰すとは言わないねえ」
「言って欲しかったのか?」
「言ったら幻滅していたさ。ただ先代よりも甘く見えていたので、もしかしたらとは思ってはいたかな」
だけど良いさ。当時の俺と今の俺は違って当然だ。
何と言っても、先代の俺と
「どうせ完全に乗っ取られても、魂にして日本に帰すさ。もし即時召喚が出来るなら、殺すと同時に新しい肉体を召喚して普通の体にする。今更、一人で日本に帰すなんて選択肢はないから安心しろ」
「本当にさすがだよ。アンタは俺の憧れだ。やって欲しい事があったら何でも言ってくれ。囮でも盾でも女の調達でもやってやるよ」
「それは頼もしい。だけど最後の奴は忘れような。まあお前は主力中の主力だ。無駄には死なせないさ」
「実に良いねえ。たとえ日本に帰せなくなっても、同じ事を言うんだろう?」
「当然だな。悪いが命をかけてもらうさ。さて、話が出来て良かったよ。ただもう一つ聞いておきたい事があるのだが」
「それは必要ないだろうさ。どうせ聞いても何にもしないでしょう? なら今まで通りで問題なんて無い。それで良いじゃないか」
「いざという時に、敵対する事は無いと?」
「そんな奴じゃないさ。ただ真面目過ぎたってだけだよ。それに――決着は自分で付けられる奴さ」
「そうだな。分かっているなら、もう良いんだ」
今度機会があったら、本人とちゃんと話すべきだろうか?
そうも考えるが、
今は構わないし、もしかしたら最後まで構わないかもな。
やるべきことは山積みだ。
当人同士が納得している以上、関わっても仕方ないさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます