第587話 運の悪さはさすがに俺だな
「多分出会ったんだわ。死にかけの本体と、彼にね」
「その時の状況は、よく分かっていないのか?」
「ええ。もう全員散り散りで、その時どこに誰がいるかは把握できていなかったの」
「口を挟んで申し訳ないですが、
「知っている」
「あらまあ、そんな事まで知っておりましたか。それは意外でした」
実際には知らないよ、そんな事。
当然ながら見た事すらない。
だけど
状況が目に浮かぶよ。
だが彼か――、
「一緒にいたのは
「本当に知っておったんですなあ。まるで掌の上で踊るお猿さんのような気分ですわあ」
だから知らないんだけどな。
だた予想が付いただけだ。
「クロノスからの最後の通信は、ほぼ壊れていて殆ど聞き取れなかったわ。だけど少しだけ……言いたい事はわかったの。『やった、
幾つかのパターンは考えていたが、最悪だな。
いや、この状況だ。最初からどんな答えが来ても最悪だと言って良い状態だった。
そう考えれば、まだ幸いだ。
この内容なら、俺たちにはまた話し合う余地が残されている。
「……ねえ、本当に
そう言って、彼女は泣き崩れてしまった。
状況から考えて、
俺がクロノスの頃、彼女は
泣いた跡は微かに見えたが、感じた感情は怒りの方が強かった。
そして戻ってからはそれどころではなく、最後は俺に抱かれる事で気持ちに整理を付けた。
だけどこちらでは違う。
初めての指揮。思い通りにならない味方。乱戦の中、ただ何も出来ずに――でも立ち尽くしなどせず、最後まで指揮を執ったのだろう。
「説明、これ以上要りますか?」
「少し待ってくれ」
状況がこれで合致する。
やっとパズルのピースが嵌った感じだ。
言うまでもないだろうが、本体を瀕死にまで追い込んだのは
もし双子ならそんな状況にはならない。
というか不利にすらならない。
幾らでも分裂してボコボコに殴り潰すだろう。クロノス時代のようにな。
他に召喚者がいた可能性はあるが、これはあまり意味はない。
正しくは気になる点はあるのだが、ここで論じてもおそらく意味はない。
確実なのは、その時点で
そして援軍に来た先代クロノス――ダークネスさんに止めを刺した。
当然一発で倒されえるわけがない。
だけど、俺の力は無限じゃない。
この戦闘、そしてその前までの戦闘。
ダークネスさんの話から、相当にダメな状態になっていたと事は分かっていた。
というか双子を襲うようになったら本格的に人としてダメだわ、色々な意味で。
冗談はともかく、もうダークネスさんは限界だった。
だけどもしかしたら倒せていたかもしれない。
その可能性は決して低くはないはずだ。
だけど、援護に入ったダークネスさんを、
結果的に、あと一歩まで追い詰めながらも同士討ちによる敗北という形か。
そして奴は死ななかったから、時は戻らなかった。
誰とも繋がらなかった。
だが結果として、クロノスとしての体は奴に取り込まれた。
それは双子たちの言葉が正しいだろう。
「……罪か」
「あの時の話ですなあ」
あの時点で、
今までの事からすれば有り得ない。暴走しても、次第に記憶も元に戻る訳だし。
だが嘘を言っているようには見えなかった。
かつて、奴の同類にされた仲間たちを思い出す。
あまり考えたくはないが、
だとしたら、既に危険な状態じゃないのか?
「
「何も覚えてはおりません。ですが今回クロノスが死んだ最大の原因は
そっちじゃないんだが、ここで迂闊な事は言えないか。
「なぜ真実を教えない」
「アイツはクロノスに対して絶対の忠誠心を持っている。敬愛などという次元ではない。長く共に戦ってきた戦友であり、同時に両方の世界を救おうとしていた絶対的な英雄なんだよ。その根底が復讐心だったとしても、目的と覚悟は本物だ。最後は悲劇しかないとしても、決してあきらめる事は無かった。そんな彼にだからこそ、どんなに女癖が悪かろうとも我らは従った」
余計な一言を入れるな。
「だから……私は死ぬの。
こんな姿を見せられるとは思わなかったし、心がチクチクと痛む。
何でもっと、分かりやすく悪意に満ちた嘘をついてくれなかったんだよ。
これじゃ俺の方が悪人だ。
「少し補足させていただきますと、あれは間違いなく全員の罪ですわ。今は
召喚者なら当たり前のようにある不安定さだ。
「それで、先代のクロノスをダークネスさんとして呼びもどした
「その辺に嘘はありませんなあ。あの時も、まだ彼女は召喚されておりませんでしたし。ただその頃には、もう
「だがダークネスさんはそれに反対だった」
「もうお分かりですか。まあ資料を見れば分かりますわなあ。あの戦いで消えたクロノスさんが、
「初心に戻るとは?」
「本体を倒し、世界に平和をもたらす為ですなあ。その為には、本体を倒す事こそ重視するべきであって、召喚者を育てず、早急に
「両立は出来ないのか?」
「聞きます?」
「いや、いい」
出来るわけがない。時期的に、とっくに俺は召喚されているはずだった。
だがいつまで経っても現れない中、
当然召喚者は育たない。奴に勝てるわけもない。この世界の終わりは確定だ……ん?
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