第585話 最初から信じてなどいなかったさ
「なぜ戻って来た。お前はイェルクリオ方面を見に行ったはずだ」
「その予定でしたが、建設中の砦が一つあっただけでしてなあ。まあウチだけで片が付いた所で、連絡が入ったんですわ。
「……それで戻って来たのか」
「そう睨まんでくださいな。これでも、命の恩人になったかもしれんのですから」
周囲に神経を集中すれば、スキルの残滓のような気配がする。
コイツのスキルが今どうなっているかはセーフゾーンでの戦いを聞いて知っている。
おそらく何かを撒いた。ただ吸わせてはいない。脅しか、それとも準備段階で止めたのか。
だが基本的に寝なくてもいい俺達召喚者に睡眠薬は効かない。
神経系? それとも意識障害や昏倒させる猛毒……しかしそれも外せばいい。
そもそも俺を殺す事で得がない。
それ以前に、残念ながら
それより連絡か……内容からすれば、どう考えても召喚者の村からだ。なるほど、ひたちさんが言っていた協力員とは
道理で全部が異常なまでに正確だったわけだ。
一般人や末端の召喚者ではないと思ってはいたが、確かにこれ程の大物ならどんな情報も完全に筒抜けだろうさ。
「それで、何をした」
「もしも二人が危害を加えられそうになったら、
袖から取り出してふらふらと揺らして見せてのは、空の瓶だった。
ご丁寧に、髑髏マークまで付いている。
「毒か」
やっぱりという感じだが、今更そんなものは効かんよ。
「取り敢えず、ウチが持っている中で一番強い毒でしてなあ。地球で撒けば、これ一瓶でアフリカゾウが1万頭は即死ですわ」
――周囲の毒素を全外し!
冗談じゃねえ! そんなものを強制的に吸わされたら、状況に気付くまで死亡ループだ。何度あのメッセージを聞くか分からないぞ。
というか、最悪消えるぞ!
「お前、俺を殺す気か?」
「場合によっては、二人を殺すつもりだったのと違いますか」
「俺が生きている限り、召喚者は死ぬ事は無いよ。そんな事くらい知っているだろう」
「塔を確認してはおりませんでしたからなあ。今その機能が動いているかは保証がありませんわ。わざわざ止めてから来た可能性、否定できませんなあ」
確かにその通りだ。
だがそれはそれで、魂の状況という新たな事実を知った。
フランソワと
だが――、
「つまりは、二人が危険に晒されるなら俺と敵対する道を選ぶという事だな」
「そう拗ねないでもらいたいですなあ」
「拗ねているわけじゃないよ。覚悟の話だ」
そう。たとえ
殺すわけでは無い。日本に帰ってもらうだけだ。
記憶も維持されるというのなら、後は地球で不安に怯えながらXデーを待てばいい。
まあ、あんな惨劇は二度と起こさないけどな。
「やっぱり真面目過ぎますなあ。それだけの経験をしたのだとは思いますが、もう少し話を聞いてやっても良いのではありませんか」
それはエデナット・アイ・カイにも散々説教されたな。
俺がクロノスとなってから、二代目軍務長官だったユンスの後継者。
この二人には色々教わった。
その中には、国民の命を守る為なら、殺される事すら
まあ俺はまだ消えるわけにはいかないが――そうだな……。
「なら聞くとしよう。なぜクロノスの死を偽った。どうして
「これは困りましたなあ……まあ
「あいつは関係ないと言いたいのだろうが、今の状態じゃあ俺が納得できる話が無い限りお前たちの誰も信じられないぞ」
そう、事はダークネスさん――つまりは俺の死だ。そしてそれ以上に、消え方は最重要の問題だった。
奴が俺を取り込んだ事を知らずに仕掛けていたら、最悪ハズレスキルで壊滅する事だってあったんだ。
メンツだの冗談だので秘匿して良い話では無い。それなりの――いや、絶対の理由が必要だ。
「本来はウチが言う事では無いですが、この件に関して偽っていた事は素直に認めますし、詫びが必要でしたらいくらでもしますわ。何をお求めで?」
「俺が知り合いのは真実だけだよ」
「理由は隠すべきだと思ったからだ」
「それで迂闊に仕掛けて全滅したらシャレにもならないぞ。今は塔の改良なども進んだが、当時はそんなものは無かった。隠していい事といけない事があるだろう」
「ちゃんと話しますので、もう少し冷静に聞いて欲しいものですなあ」
「猛毒を吸わせようとしたやつの言う事じゃないぞ」
「あれは冗談みたいなものでしょうが」
コイツの場合、本気でそう考えていそうだから危ない。
「ただ一つ言わせていただきますと、もう少しウチらを信じて欲しいですなあ。確かに
「悪いが、最初にクロノスの死に関して
「そうでありましたか。参考までに、ウチらが何処でミスをしたのか教えて頂きたいものですなあ」
……隠す必要もないか。
というより、この期に及んで誤魔化すようならもう覚悟は決めてあるんだ。
「俺がこの世界に召喚された時だよ。まだ目覚めるには程遠いと思って色々と話していたな。その時に
「これは参りましたなあ。最初も最初。それも目覚めている事に気が付く前でありましたとは。確かに、身に覚えがない訳でありますなあ」
「意地が悪いわね。つまりはこの世界に来てからずっと、こちらの茶番に付き合って来たってわけね。何も知らないふりをして」
「そうでもないさ。これでも色々と、今の状況を考えたんだ。最初の頃は、無茶な召喚や召喚者を放任して消費している件かとも思った。何があるか分からない世界だからな。スキルの悪影響もある。俺はお前ほど心の機微に敏感じゃないしな。だけどあの話は、どう考えてもダークネスさん――先代クロノスに関係する話だ。だから自分を納得させながら、たまにカマを掛けて様子も見たりもした。結果としては、お前達は完璧に誤魔化し通したと思う。俺が真実を聞くまではな」
「余計な事をとは言えませんなあ。いつかはばれる事とは、誰もが分かっておりましたわ。ただそのいつかは、出来れば全てが終わった後であってほしかったですなあ」
天井に向けていつものように煙を吹くが、そこに確かにコイツの哀愁が見えた。
「では今度こそ教えてもらおうか。クロノスが消えた原因をどうして偽った」
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