【 暴かれる真実 】

第584話 隠された真実

 二人と別れた後、俺は忙しく召喚庁へと跳んだ。

 本当は奈々ななや先輩に会っておきたかったが、場合によっては状況が根本からひっくり返る。 

 間違いなくその覚悟は見抜かれるからな。

 ここは一人で行くに限る。





 ※     ◆     ※





 いつものように、召喚庁の執務室にはみやだけだった。

 いや……まあいか。


「入るぞ」


「……何かあったか」


「さすがに分かるか。他のメンバーは?」


「それぞれ忙しく動いているよ。風見かざみは例の事情もあるからロンダピアザにいるが、緑川みどりかわ黒瀬川くろせがわは外の確認だ。前回の襲撃以来、南北の動きが激しいのでな。それで、用件は何だ?」


「もう一度、ダークネスさんが消えた時の状況を聞こうと思ってな」


「それはもう話したはずだが……と言う訳にもいかないようだな」


「悪いが人間は嘘をつく。だがその世界には、人間を騙す事に何の価値も感じない連中もいてな。悪く言えば人間を見くびっているのだし事実なのだろうが、それだけにそいつらの情報は正確なんだよ」


「その様子では」


「ああ。事と次第によっては、ここで一戦交える事も辞さない。たとえなし崩し的に最古の4人全員を相手にする事になっても、この件は必ず決着をつける。そうでなけれな、ここから先に進めないのでな」


「クロノスはかつて一度も俺には勝てなかった。お前もそうだ。それは理解しているのか?」


「そんなつまらない話に時間を取るつもりはない。来いよ」


「良いだろう。元々はお前と事を構える気は無かった。十分に譲歩して要望も聞いた。それでも納得できないというのなら、仕方あるまい」


 その瞬間、みやは視界から消えた。

 空気に自在に壁を作り、それを使って脚力強化のスキルで目にも止まらぬ速さで動く。

 当然、カウンター対策に使うのは武器だ。相当量の予備を隠し持っている。

 確かに相性は悪い。クロノス時代は勝っているが、今のみやはあの頃とは段違いだ。

 よちよち歩きのひよっこだったのが、今では立派な戦士だ。当時を知る者としては嬉しくも思うよ。


 だけどな、もう手の内は知っている。

 スキルは強力。そして性格からして強化の方向性は一直線。

 悪いがネタが割れた以上、4人の中で一番相手をしやすいんだよ。


 当たる寸前、武器を外す。

 みやが振るった金属の警棒は、根元からねじ曲がり折れた。

 やはり以前と同じ武器を使って来たか。

 間合いも形状も全て同じなだけに相手は容易い。

 逆にフランソワや児玉こだまの様に、色々な種類の武器で様々な角度から攻撃してくるのが一番ダメだ。


「何!?」


 慌てて距離を取るが、先にそこまでの距離を外し、同時に新たな武器を出そうとした右手を握り潰す。

 骨が砕ける音が部屋中に部響くが、みやは小さな苦悶の声を上げただけだ。

 目を見れば分かる、まだあきらめてはいない――が、そのまま腕を捻じりながら背負い投げのように地面に叩きつける。


「ぐ!」


 さすがに歯を食いしばって激痛に堪えたが、代償として歯が何本か砕けたな。

 そのくらいは音で分かる。


「以前とは段違いだな……殺すか?」


「場合によってはそうさせてもらう。話が後になってしまった件は申し訳ないが、こちらの意図は知っておいてほしかったのでな。そしてそれは、今も変わらないと知れ」


「何を知りたい」


「クロノスの死の真相だ」


「話した通りだ。それ以上のことは無い」


 コイツはおそらく、どんな苦痛にも精神的な拷問にも屈しない。話す気が無いのなら無駄だろう。

 だが隠す理由は何処にある?

 風見かざみはどこまで本気で、心にあんな仮面を被ったんだ。


「クロノスは風見かざみに何度も刺されて消えたんじゃない。瀕死の所を、同じく瀕死になった奴に取り込まれたんだ。以前の俺は、そこまで追い込みながらも敗れた。だが勝敗は仕方がない。それによって奴が強化されてしまった事も結果論だ。だだ、お前はその最後を俺にどう説明した?」


「……風見かざみがクロノスを殺した。それの何が悪い」


「今更だが善悪になど興味はない。俺は仲間の死体を踏み越えながらでも奴を倒すと誓った。これは初めて自分の意志で召喚した3人を死なせてしまった時から変わらない。いや、少し違うか。召喚に手を出した時から、俺はただの悪人だ。だから、知るべきは事実だけだ。奴を倒す。だがそれは蜘蛛の糸よりも細く脆い上での綱渡りなんだよ。そんな事をしようって時に、必要な情報に不純物を混ぜるわけにはいかないのでね」


「それだけの為に、場合によっては我ら4人を倒すだと?」


「それだけ? 何よりも大切な事だ。お前は教わらなかったのか? 教えなかったのか? なあ、風見かざみ


 ゆらりと蜃気楼のように空気が揺らぎ、|風見⦅かざみ》が虚空から姿を現した。


「いつから気が付いていたの?」


「ずっとだ。その程度の認識疎外が、俺に通用すると思ったのか?」


「当然ね。ダメならダメで仕方がないけれど、少しくらいなら誤魔化せると思っていたのは事実よ。それで、何が嘘なの? すべて真実よ。それとも、証拠でも持ってきたのかしら? だったら是非見たいものね」


 普通なら藪蛇やぶへびだ。

 俺が風見かざみに口で勝てるわけがない。

 だが勝つ必要もない。

 みやがここにいるのも、風見かざみが一緒にいるであろうことも想定済みだった。

 彼女がロンダピアザにいると言われた時は、“確かにそうだな”と苦笑しそうになったよ。

 当然、風見かざみに自白させる方法は考えてきた。

 準備してきたといっても良いな。

 後はこいつに、一言言ってやれば良い。


児玉里莉こだまさとりを復活出来る可能性が出てきた。既にフランソワと一ツ橋ひとつばしに研究させているが、あの二人だ。近日中に結果を出すだろう」


 そう伝えた瞬間、風見かざみはペタンと崩れ落ちた。

 目の焦点が合っていない。ただ一言、「里莉さとり」と呟いただけだ。


「確かにそれは効くだろう」


 ゆらりとみやが立ち上がる。


「だが、それだけに偽りであるなら決して口にしてはいけない事だ」


 先ほどよりも遥かに迫力が増したな。

 風見かざみと恋仲にあるという訳ではない。

 しかしこの反応……まあ戦友の傷口に触れたという所か。

 なら児玉里莉こだまさとりの死にも――。


「そこまでですなあ。絵里奈えりなちゃんのその様子を見て、嘘か真実か分からないボンクラでもないでしょうに。その子は敬一けいいちさんの言葉に真実を見たからそうなったのでしょう?」


 背後から響く呑気な声。黒瀬川くろせがわか!?

 今までどこにいた? 僅かの気配すらなかったぞ?

 あまり実戦向きではないと思っていたが、風見かざみより遥かに戦闘に長けているな。

 それに絵里奈えりなちゃん?

 まあ風見かざみは両刀使いだし、黒瀬川くろせがわと何かあっても驚きはしないが。

 というか、そもそも外に出ていたんじゃなかったのか?

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