【 復活への希望 】

第581話 死者の復活は可能だろうか

 行きに10日ほどかかったから、帰りも同じ日数と考えて良いだろう。

 登りが多くなるが、正直俺のような召喚者にはもうあまり関係は無い。

 ただなんだろうか、肌にひりひりとまとわりつく感覚がある。

 以前にも少しはあったが、ここまでハッキリしているのは初めてかもしれない。


「何かをお気になさっているご様子ですが?」


「ああ、そろそろ大変動が近いからな。何かを肌で感じるよ」


「……それは正直に言えば、あまり良い状態とは言えませんが」


「分かっているさ。こちらの世界とハズレ過ぎているって事だろう。ただこれは、もう通常の手段では完全には直せなくてな」


「確かに、進行を抑える事が限界のようにも感じます」


「でもブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさまの体を差し上げるわけにはまいりません」


「いや、くれると言ってもいらないから」


 だけどこれは本当に問題なんだよね。

 奴が再び時間を戻せるようになるまで待てないのは、こっちの体の件もあるわけで。

 決着はどう考えても早ければ早い方が良い。

 だけど、全ての問題を片付けなければ作戦は立てられない。

 折角準備しても、身内から背後から壊されたんじゃどうしようもない。

 そもそも今ある戦力で正面決戦なんて無謀も良い所だしな。

 はあ……もしこの世界に希望というものがあるのなら、せめて少しだけでも顔を覗かせてくれよ。


『クロ……ノ……ス』


「ん? 今何か言ったか?」


「いいえ」


「今の迷宮ダンジョンは静かなものです。


 前にも聞いた。だけど双子は聞こえていない様だ。

 風の音がたまたまそう聞こえたのか?


『ク……ロノ……ス…………き……』


 いや、風の音や幻聴じゃない。


「急に止まって、どうかなさいましたか?」


「いや……」


 もう聞こえない。だけど、まるで俺の中をすり抜けるように言葉のような何かがすり抜けて行った。

 そういえば、そろそろ大変動が近い。

 あの時もそうだったが、まだ少し余裕があった。

 だけど今はもう20日程度だ。それで気が付いたのか?

 ただそれが分かっても、今はどうしようもない……本当に?


「一つ聞きたいが、お前たちは大変動の時期をどこまで正確に把握しているんだ?」


「少なくとも、人間が使う玩具よりは正確に把握しております」


「大体秒単位までですね」


「わたくし達には迷宮ダンジョンの加護がありますので」


「じゃあ聞くが、大体20日ほどで次の大変動が来るのは分かっているか? 白亜の美しい迷宮ダンジョンになるんだが」


「時期は確かにそうですが」


「どのような形状になるかは分かりません」


「何故そうお考えになったのですか?」


「今更聞く事じゃないだろ。見て来たってだけだ。まあ分かっているなら良いんだ。そちらはもう何処かのセーフゾーンにでも向かうと良い。俺はここからラーセットに帰るよ」


「かなりの距離がございますが」


「今なら無いも同じだよ。とにかく緊急の用事が出来たんでね。ダークネスさんによろしく」


 こうして俺はラーセットに帰還した。

 問題は、可能かどうかだ。





 ★     〇     ★





 戻って最初に向かったのは、宿舎でも召喚庁でもなく、フランソワの部屋だった。


「入る……」


 ぞ、まで言うまでもなく扉が開く。

 俺が来た事は、やはり敷地に入った時点で感知されていたか。

 まあ当然だな。


敬一けいいち様! お待ちしておりました。わざわざ訪ねて下されるとは望外の極みです。それでその……今すぐですか? 今ちょっと油臭いのでよろしければお風呂に……出来ればご一緒に」


 今までの俺なら、相手の気持ちなど考えずに我を通しただろう。

 だが俺は、人との会話と協力する事との大切さを知っている。





 ☆     ★     ☆





 そんな訳で、ベッドの中で大切な話をする事になった。

 ふと思った。俺はダークネスさんに何か言える立場のだろうか?

 だがそんな考えは外した。今は邪魔だ。


「疲れているところ悪いのだが、一ツ橋ひとつばしとは上手く行っているのか?」


「この状態で聞く事じゃありません」


 あ、ちょっと膨れた。

 でもまあ、こっちの一ツ橋ひとつばしは普通に男なんだよね。

 確かに今、こんな状態で話す事じゃない。

 ちゃんとそう言ったところもわきまえないといけないな。





 ★     ☆     ★





 そんな訳で、聞くのは翌日となった。


「昨日の話なんだが……」


「ええ、一ツ橋ひとつばしの事ですよね」


 可愛らしい下着を履きながら、背中越しに応えてくる。

 いつもはこちらを向いて話すのだが、あまり話したくない感情がありありと伝わって来るな。

 だがここで止めてしまっては来た意味がない。

 これではただ単に、浮気をしに来ただけだ。


「実は頼みたい事があってな。塔の改良を頼みたい。それも早急にだ」


 頼めばみやは待ってくれるが、問題はそこじゃない。別の意味での時間の方だ。


「どんな点を改良すればいいんですか?」


 まだブラを付ける前だというのに、目をキラキラさせてこちらに来る。

 うん、近い。とは言え今更だな。


「ズバリ言おう、こちらの世界から召喚したい」


 いきなりの提案に、瞬時に研究者モードの顔になる。

 元々が見た目通りの年齢では無いしな。この切り替えの早さは生粋の技術屋だ。


「この世界から、誰を召喚したいのです? それにその意味は?」


 確かに。フランソワからすれば、この世界の召喚者や現地人なら、普通に呼べば良いだけだ。

 俺だって、メッセンジャーや双子に会うまではこんなこと考えもしなかったよ。

 だけどあの声を聞いてしまったら、もうやるしかないんだ。


「この世界で死んで、彷徨っている召喚者を再召喚する。出来るか?」


 フランソワは最初、意味が分からないという風であったが――、


「肉体は塔がこちらの世界に作ります。いわば魂と肉体を元に複製をこちらの世界に作るわけですね。ですがこちらで死んだ人間となると、複製すべき形は……」


「あるだろ、それは向こうの世界に。あとは、こちらの魂を入れるだけだ」


「でもその前提となる魂ですが……」


「あるんだよ。死んでもまだ消えずに漂っている。俺とは違って、普通にな。だけど召喚者はやはりこの世界の者ではない。この世界と一つになる事は無いんだ。実体のないものをどうこうするのは難しいと思うが、やってみてくれないか?」


「もちろん敬一けいいち様のご依頼となれば、断る事などありません。ただ一人ではダメですね……ふう……一ツ橋ひとつばしも使うしかありませんね」


 まだまだ嫌そうだなー。

 まあ最初から一触即発だったし……俺のせいだけど。

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