第580話 道筋は見えた
「それで、聞きたい事はこれで全てでございますか?」
「いや、肝心な事を聞いていない。奴を倒すにはどうしたらいい?」
「それはご自分でお考えになってくださいとの事です」
そんなこったろうとはとっくに予想がついていたよ。
「では確定事項を聞こう。神罰――いや、これは知らないか。だが最近奴を攻撃した光の雨を知っているか? 奴の防御を易々と貫き、再生すら許さなかった強力なスキルだが、実はあれの上がある。奴がどれほど逃げたとしても決して逃れられない攻撃だ。もちろん、俺と同じスキルを持っているのなら或いはとも思うかもしれない。だがそれすらも通用しない一瞬の光。その反応を許さない速さと論外な超広範囲内全てを消し去る強力なスキルがあるんだよ。今までの奴は、それを受けた瞬間に全てを投げうって時空を転移した。よりにもよって、俺たちの世界にな。これは正しいのか?」
『そのとおりだ、しょうかんしゃよ』
こいつの言葉は置いておいて――、
「実際の所はどうなんだ?」
「その認識はきわめて正確だと存じ上げます」
「自力で辿り着いたのだとしたら、驚愕に値する事でございますね」
ただの可能性だったのだけどな。
だが1度や2度で結論づいた可能性ではない。
歴代のクロノスが幾度も繰り返してきた結果からの推理だ。
俺が褒められるような事じゃない。
だが――、
「詳細はどんな感じなんだ?」
「最終手段として機能する自己防衛機能です」
「自分自身が消えたと認識した刹那の間に、最も遠い場所へと跳ぶのでございます」
「これは生き物でいう反射に近いものです。ただ死んでからも機能する点が違いますが」
違いが大きすぎるわ。
「ちょい待ち。奴が戻せるのは時間だけじゃないのか?」
「両方備わっていた機能でございます」
「自らが死んだと判断すれば過去へ」
「それすらも理解できないレベルの即死であれば自動的に最も遠い彼方へ」
「こうして生き永らえてきたのでございます」
酷すぎる。チートもここに極まれりだ。
以前事象を戻す奴と戦った時も酷いチートだと思ったが、こいつ胃は更に上を行く。
さすがに世界を滅ぼす3体に数えられているだけの事はあるという事か。
「その本体が最も遠い場所として選ぶのが」
「貴方がたの世界という事になるのでしょう」
「当然、本来であればこの世界における過去の何処かでございます」
「ただ、今はそちらの世界に行けるアイテムを保有しておりますので」
逃げてえ……。
しかしこれで確定か。奴は時計を持ち歩いてなどいない。
それに神罰の範囲外か。結構遠くでも有効なんだな。
ただ今の時代の本来の奴はもちろん、俺の時代から来た奴も神罰の本当の力を知らない。
となると、完全に偶然。もしくは複数の時計があって距離に関わらず……は言い過ぎか。
少なくとも、奈々の神罰の範囲外に確実に時計持ちがいて、それを使うことが出来るって事だな。
そして、時計が無いのなら反射で最も遠い所へ飛ぶ。
だがそこは残念ながら、自分で封じた時間――俺が召喚された時だ。
そこまでわかれば、以前なら簡単だった。
つまりはその範囲外を行動している眷族を特定して行けばいい。
もし時計が1個だけであるのなら、話は更に早い。
時計の力で地球から人間を召喚しつつ、なおかつ安全のためにも自分からは離れた場所。
この距離は200キロメートル以上と分かっているわけだから、その範囲の外にあるセーフゾーンにいる眷族を片っ端から仕留めて行けば良い。
奴がハズレスキルを使いこなせていないのであれば、こんな作業すぐに終わるだろう。
時計もゲットだ。
……はぁ……改めて考えても、彼らの能力にどれだけ助けられてきたのかが分かる。
だが記録では
一方で
攻略法は分かっても、それを実行する手段は無しか。
だけど十分すぎる情報は得たと言って良い。
少なくとも、本体の位置は特定できている。
それに
最期の勝ち目は見えないが、攻略法は見えた。
後は時計が一つだけとどうやって確認するか。複数ある可能性は捨てきれない。
それに重要なのが……神罰だな。
今なら、奴は時を戻すだけのマージンが無い。時計が無ければ反射も意味を持たない。
長い戦いも、これで決着がつく。
だけど本当にそれで良いのか?
確かに本人はそれで満足かもしれない。だけど、あいつらはまだ俺に嘘をついている。
本体を倒すには必要無いのかもしれないが、俺がまだ納得していない。
どうして
「これで聞きたい事は全て終わりましたか?」
「ああ。最終的に倒すまでの道筋は見えた。ただ途中に、どうにも越えられない壁が立ちはだかっているだけだ。一応聞いておくが、お前たちは本体を倒す時に協力はしてくれるのか?」
「それがブラッディ・オブ・ザ・ダークネス様のご意思であれば」
「喜んで従いましょう」
言葉は美しいが、相変わらずちょくちょくメッセンジャーを蹴飛ばして遊んでいる。
これなら本体の前に連れて行くだけで戦ってくれるだろう。
そもそも今はダークネスさんと
「そういや余談なのだが、お前たちが何かを決める時、発起人が主になるんだよな?」
「わたくしたちにそれほど詳しいとは驚きです」
「この事は、ブラッディ・オブ・ザ・ダークネス様でも知らないはずなのですが」
「さっきから言っているだろう。俺は以前にもこの時間を体験した出戻りだ。その時にお前たちから聞いたんだよ」
今まで作っていたような微笑だった双子が一瞬だけ素の状態になった。
それなりに驚きだったのだろう。
「そこまで話した事は少々驚きでございます」
「いや、何の躊躇もなく自然の流れで教えてくれたぞ」
「ちょっと信じられませんが、きっとそのような状況だったのでしょう」
と言うか、秘匿する素振りさえ見せなかった。
あの時と何が違う?
このメッセンジャーが既に主だと紹介されただけだ。
「主の件に関してですが、一応はそれに近いのでございますが」
「今回の事情は少々複雑でございます」
「確かに話を持ち掛けたのはこれでございますが」
「ここまで導き、目的を決めたのは
「故に、この件に関してに限り、
まあご主人様となっているダークネスさんとは違う意味なのだろうは、今は取り敢えず、そういう事にしておこう。
少なくとも、今回の事に関しては俺に協力するでいいわけだしな。
というか、異物である俺を主とする事に含むところがあっただけか。
言いたくないとか思っていたな、これは。
「主ってのはどれほどの権限を持っているんだ?」
「人間の考えるような命令権に該当するものはございません」
「ですが、
「それがセーフゾーンの主たる権限なのです」
つまり命令する事は出来ないが、俺がやりたい事は勝手に考えて率先してやってくれるって事か。
なんというか、十分すぎる。
こうして、予定していたメッセンジャーとの話し合いは終了した。
予想通り、奴を倒せる力を持っている事。そしてそれを実証した事がこいつのお眼鏡にかなう条件だったようだ。
それに倒す手順も分かった。
奴が時間を戻せるようになる前に全ての時計を奪うか破壊し、その上で討伐する。
これで時間を戻せなければ時空を飛ぶ事も出来ない。全部解決だバンザーイって、それが出来ないから苦労しているんだよ。
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