第578話 なぜ今が残っているんだ
「話が大きく脱線してしまったが、実際奴を倒す手段はあるのか?」
「これはあると言っております」
「なぜなら、
大穴戦の後、初めて双子に誘われて時も同じ事を言われたな。
奴を倒した事も評価されていたが、こいつが俺を呼んだ最大の理由は、奴と俺が繋がっている関係だからだ。そしてだからこそ、倒せるのだと言っていた。
実際には倒したから繋げられたので、その点は実は逆なのだが。
ん? 本当にそうか?
俺と
精神構造が違うのだしと当時はその疑問は流したが、それは間違いだ。
こいつらには明確なルールが存在している。
「そのメッセンジャーは、俺が奴を倒せると見たから姿を現した。本来なら決して見つからないように姿を隠していたはずだ」
『そのとおりだ、しょうかんしゃよ』
その無意味な台詞はどうでも良い。
実際どうなんだ? 俺の何処に、今の奴と戦って勝てるという可能性を見たんだ?
肝心なのはその部分だ。
「なあ、双子……と呼ぶのはおかしいな。ルサリアとアリサル。お前たちはダークネスさんと
「ええ、ございません」
「先ほども確認なされましたが、それ程に需要なのですか?」
「メッセンジャー……と言えば良いのか。お前の近くにこいつらが来た事はあったか? もしくはお前みたいなのが沢山あって、その中のどれかでもいい」
……また高周波みたいなのでやり取りをしている。
しかしアレが言語を圧縮しているのだとしたら、確かに便利だな。
「把握できる範囲で言いますと、様々な場所で何度か通った事は確認したそうですが」
「ただそれだけだとの事です。会うべき理由は無かったと」
まあ何の話も無く会ったら、おもちゃにされたあげくに処分されそうだ。
「召喚者は?」
「わたくし達と共にいた者もいれば、単独で行動していた者もいるそうです」
「意外と周りが見えているのですね」
やっぱり確定か。
まあダークネスさんかどうかなんてこいつには判断が付きそうにないが、少なくとも双子が別の召喚者と共に行動する可能性は低すぎる。
だが、ダークネスさんの前に姿を現さなかった。双子が通っても無視していた。
そう考えると、やはりこいつが俺を選んだという事になる。
それとなんとなくだが、やはり他にもメッセンジャーはいる様だ。
「教えてくれ。なぜ俺を選んだ? 奴と繋がっているからか? それが理由なら、ここからどうすればいい?」
「繋がりはささいなきっかけに過ぎないそうです」
「大方、以前にも倒したのだろうとの事でございます」
「ただその出来事は消えているはずだそうですが」
「それでも残り続けるのが繋がりですが、それ自体にはあまり意味はないのです」
「大切な事は、異物となった存在を根源から消し去れる。その力を持っているから……だそうでございます」
考えるまでも無くハズレスキルだろうな……。
しかしそれならば、ダークネスさんだって持っている。
結局は繋がりだのは関係なくて、単に俺が奴を倒した。その事実が最重要――じゃないな。やはり最初の予想通りと考えて良さそうだ。
当時は俺よりも先に双子に接触して、大穴戦で出会う事になった。今度は素直に俺が来たから姿を現した。状況は変わっても、そこは変わらない。
他の誰でもない。俺の中に奴を倒す何かを見出だしたわけだ。
ただダークネスさんだって、生前はもちろん今だって時計の針さえあれば俺を日本へと戻すくらいの力はあるんだけどな。
ただそれでも足りない。少なくとも、奴を倒せなければダメなんだろうな。
ん? 時計の針……いや、それは後で良い。
「今のあいつはお前が異物となった頃とは力も姿も段違いだ。それでも、俺にそれが出来ると?」
「強い弱いは関係ないそうです」
「出来るから出来るとの事です」
なんだか“泳げる奴を見つけたから太平洋を泳いで渡らせよう”ってノリだな、オイ。
けどそうか……まだ通じるのか。
無敵だったらどうしようも無かった。ここに来たのも、実際にはそれを確認する意味もあった。
だけど、難易度はともかくコイツは俺が本体を倒せると認めた。可能性は低くとも、まだ希望はあるという事だ。
最終的にやる事は多分同じ。根源から――それこそ存在の最初からこの世から外す。
だけどそれは異物となった所までだ。
事象を戻す奴が異物となった瞬間にこの世界から消せたように、このスキルが奴にも効く。
ならば考えよう。考え尽くし、やり尽くし、それでも敗れたなら最初からだ。
諦めなければきっと何とかなる。
百年後かかろうが千年後かかろうが、要は倒せば良いんだろうからな。
もっとも、その時にこうしてこいつらと話をしているかは不明だけどね。
ただどうにも気になったが――、
「さっき、『だがその出来事は消えている』と言ったな。以前の世界では聞かなかった事だ。その辺りを知っているなら、全部話してもらおう。どうせお前には、隠す理由なんてないだろう?」
「以前という言葉に違和感がありますが」
「隠すべき事ではないのですべてお答えするそうです」
「そいつは助かる。ではまず、以前という言葉にどうして違和感あるのかを教えてくれ」
「もし自分が過去に戻ったのであれば」
「その過去は既に消滅しているからだそうです」
ビンゴか。
嬉しさ2割、悲しさ8割と言ったところだな。
「つまりは、過去に戻るためにはその地点までに起きた出来事を全て消費するで良いんだよな」
『そのとおりだ、しょうかんしゃよ』
いや、その台詞は聞き飽きたしなんかむかつく。
というか、以前の世界ではそこまでは教えてくれなかった。
意図的に隠した――いや、その可能性は低い。
当時の俺は、普通に時間の分岐が残る前提で話をしていた。だけど、それ自体に意味のある事ではない。
特にこいつにとってはな。
協力者がそう考えているならそれでいい。目的さえ達成できるのなら、わざわざ否定する必要は無いと考えたという所か。
確かにその程度の協力関係ではあるが、もうちょっと話して欲しかったな。
だけど、こうやって聞けば話してくれる。聞かれなければ話さないが、聞かれれば隠す気は無い訳か。
「ただその話は一つおかしい。実はこの世界は、もう既に1度消えているはずなんだよ。もう俺自身が体験済みでな。その点は、俺がクロノスだったと言えばそれ以上の説明は不要だろう。というか、俺が奴と繋がっている点で分かるだろう。だからこの時間はおそらく存在しない。お前に今さら説明する必要も無いだろうが、だからこそ俺は気兼ねなく最終決戦を始められたんだ。お前――と言うより奴が時間を戻せる限界が、俺がクロノスとしてこの世界に来た時点だと考えてな。だが現実は違った。なぜこの時間軸が残っている?」
協議を始めたが、そう呼べるほど長いな。
高周波の応酬という感じか。いったいどれほどのやり取りをしているのやら。
「まず、そのような事は常識で考えて有り得ないとの事です」
先ずこいつらの常識自体が違和感だらけだがそれは良いとしよう。
「もしアレ……
「そこでちょっと口を挟んでいいか?」
「どうぞ、お気兼ねなく」
「奴は死んだ時に過去に戻る。その時に、戻る時間までに生きて来た生涯の時間を消費する。それが時を戻すという膨大なエネルギーの代償だ。それで良いんだな?」
『そのとおりだ、しょうかんしゃよ』
いやマジでむかつく。コイツ黙らせられないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます