第577話 意外なところに意外な希望があったものだ

「それでまだ聞きたい事があるのだが」


「全てを答えると言っておられます」


「随分と素直だな」


 そうも思うが、こいつは俺と本体との繋がりを知っている。

 以前は双子を経由して俺に本体の討伐を依頼したが、今回は俺自らが来た。

 状況は変われども、目的と大元の状況が同じなら結論も同じか。


「一応聞いとくが、奴を倒したところでメッセンジャーが奴に成り変われるわけではないのだろ? なぜ倒して欲しい?」


「あのような迷惑な存在になってしまった自分が許せないからが一つです」


 理由も同じだな。

 今更な質問だったが、これも確認すべき問題だったから仕方がない。


「……が、敬一けいいち様も一つ勘違いをなさっています」


 ん?


「是非教えてくれ」


「この世界で死んだ者は、やがて大いなる力の元に帰り、この世界を構築します」


「大変動か」


「よくお分かりですね」


「ダークネス様より頭の反応は早いようでございます」


 さらりと酷い事を言っているなー。

 でも今のダークネスさんはあの状態だしな。何となくわかる。


「それで大変動がどうしたって? 異物でも関係あるのか?」


「異物もまた、大いなる本流へと還る事になります」


敬一けいいち様は根本からハズレているので無理ですが」


「それはもう知っているよ。それで?」


「ただ我らが源である本流に戻れても迷宮ダンジョンのセーフゾーンの主に戻る事は滅多にありません」


「もちろん、貴方がたが怪物モンスターと呼ぶものから新たなセーフゾーンの主が生まれる事もございますが」


「外で繁殖したものは別ですけどね」


「ただそれでも、ここに残った本体の心は源である本流に戻る事を欲しています。その為にも、今ある異物としての肉体を消し去りたいのです」


「そしてまた、行き場のない異物は再び大いなる本流の中で新たな存在になる事も可能です」


「そうやって、この世界は作られているのでございます」


 そういや、黒竜もそうだったな。

 たとえ肉体が倒されても、それは本当の死ではない。

 やがては大変動と共にこの世界に現れるのだと。

 それにこの迷宮ダンジョンで生きている事自体が好きなようだった。

 異物となった者が黒竜の言うように不幸であるかどうかは異論の余地があるが、実際にこの世界で生きるものにとっては、この迷宮ダンジョンの世界で生きる事が幸せなのだな。

 いわば天国みたいなものか……あれ?


「なんかものすごく引っかかったのだが、異物の魂はどうなっているんだ?」


「魂という存在は召喚者が定めたものですが」


「異物の意識は本流に戻った時点で消滅します」


「力の奔流に堪えられませんので」


「その辺りは、この世界に守られた存在か異物であるかの大きな違いといっても良いでしょう」


「ですがそれ自体が消える事はありません。異物はあくまで異物として、地上に出た同種の異物が新たに増える時、そこに入る事になります」


「そういった点から考えますと、召喚者の言う魂とは似ていても違うと言えるのではないでしょうか」


 そうか。

 もうこの時代には亡くなっているケーシュやロフレ。彼女らはこの大変動を起こすエネルギーの流れに乗り込まれ、やがて生まれ変わるのだな。

 俺達の世界で言う輪廻転生みたいなものか。

 案外、もう何度も生まれ変わっているのかもしれない。


 ただこの世界だと、人間として生きた者は人間に。鳥や獣だったものは同じものへと生まれ変わる事が決まっている。そこは大きく違うな。

 そう考えると、例え異物となろうが最終的な種族の数は変わらないのか。結構興味深い。

 しかし何と言うか、壮大な話だ――ん?


「なあ、俺達召喚者はやっぱり異物なのか?」


「異物ではあるのですが少し特殊な存在でございます」


迷宮ダンジョンの者かといえば全く違うものです」


 何となくその答えは分かっていた。

 だって、俺たちはこの世界では年も取らなければ子孫も残せない。

 人間ではあるが、この世界の人かと言われれば明確に別物だ。

 さっきの答えからしても間違いはない。

 じゃあ死んだ俺たちは本流に行ったあと、そこからどうなるんだ?

 さっきの異物となった者のように、永遠にこの迷宮ダンジョンをエネルギーのようなモノとなって彷徨い続けるのだろうか?

 意識はどうなっている?

 これは聞かねばなるまい。


「そうなると、俺たちの魂というか、エネルギーのようなものはどうなるんだ?」


「他の流れと交わりながら大変動を作りますわ」


「当然、作られるものには多少の影響をもたらします」


「いや待った……どういうことだ?」


「大変動は、この星を流れる全ての力がもたらすもの」


「その時、この世界を余すことなく流れる大いなる本流が、迷宮ダンジョンと呼ぶものやアイテムと呼ばれるも物を作るのです」


「その際、異物となっていない本来の住人は新たな肉体を得ます」


「異物は大変動に関わらず、呼ばれれば本流からは外れます。ですが残ったままの力は迷宮ダンジョンに残り、様々なものを作り出します」


「もちろん本来の住人も作り出しますが、影響は少ないものとなります」


「それは、迷宮ダンジョンが作られる時に自らも作られるので、干渉が少ないのです」


「一方で流れる召喚者は自我が強いと申しますか、そもそもどこにも行きませんので」


「独特なものを多く作り出す事が知られております」


 呼ばれるって事は、多分生まれるという事だろう。

 新たな命が誕生する時、異物の魂――じゃないんだけど、俺的に考える魂がそこに入るわけだ。


 そうか……世界を作り替えるほどのエネルギー。

 それはこの星全ての命そのものだったのか。

 不定期に作り変えられるのも、時期が完全に特定出来ないのも、その魂の溜まり具合が正確に分からないからか。

 逆を言えば、起きそうな時期が特定出来るのも分かる。

 迷宮ダンジョンを流れる魂の総量――つまり生き物が死ねば死ぬほど、発生は近くなるわけだからな。

 あの大時計のような変な機械が、その計測器という訳だ。


「物凄く貴重な情報をありがとう」


「この世界に生きるものであれば、誰でも知っている事でございます」


「さすがに人間程度では理解しておりませんが」


 ありゃりゃ、結構人間を見下しているんだな。

 でもまあ、知識も力も上で、しかもこいつらはセーフゾーンの主。

 異物を下に見るのはある意味当然か。


 だが奴を倒す方法を聞きに来て、まさかの収穫を得た。

 今までこの世界で死んだ召喚者。それらは未だに消えずに、大変動を発生させるエネルギーの一端を担っているわけだ。

 たまに地球的な物が出土するのもそのせいか。


「改めて纏めるが、同じ種類が存在しない異物は生まれ変わる事もなくずっと漂い続け、最後は他の生物になるんだよな?」


「その認識であっております」


「そして召喚者は生まれ変わる事は無い」


「他の何かになる事もありえません」


「召喚者とは、それ程この世界の法則から弾かれた存在なのです」


 ……試す価値はありそうだが、フランソワと一ツ橋ひとつばしの協力が不可欠か。

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