第574話 知っていたけどやはり倒せなかったのだな

 ここのセーフゾーンは小さなものだ。

 大変動によって他のセーフゾーンとの連結が絶たれる事もあるから、この村はラーセットのような都市として発展する事は無かった。

 それに衛星都市として組み込むには離れすぎているし、途中の地形も起伏が激しすぎる。

 そんな訳で放置されていた訳だが、今にして思えば放置というか見逃し……でも無いか。

 みやとダークネスさんたちとの思惑の結果、ここは何かの目的のために秘匿されていたのだろう。

 その理由も分かる。日本への帰還を模索するためだ。実際に、その為に、俺もここに居たのだしね。

 後はそうだな……その俺を保護する事も含まれていたのかもしれない。


 中はまだ緑の苔の迷宮ダンジョンであった。

 そろそろ探知機が新たな大変動の予兆を捉える時期だが、その時間はアバウトだ。

 だけど俺は知っている。今から大体1か月ほどで、次の大変動が来る。

 時間的には余裕だろう。


「お待ちしておりました」


「先ほどは詳しいご説明がございませんでしたので、詳細をお願いいたします」


 服装以外は全く同じ顔。そして声。そしてこの口調だと、少しだけ違和感があるな。

 ダークネスさんの家では凄く馴染んでいたが、迷宮ダンジョンだとちょっと浮いている。

 だがそれはそれとして、緑だけの空間に金属的な金髪の二人は実に映える。

 まるで絵本に出てくる妖精の様だ。服装はともかくだが。

 いや、それはまあいいか。


「俺たちが本体と呼んでいる奴を知っているか?」


「曖昧な表現ではございますが」


「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネス様が倒そうとしていた相手ですと予想致します」


「その通りだ。さすがだな」


 ん? いやちょっと待て。

 双子が戦わなかったとは思えない。あれは異物だ。排除に関して、躊躇したり静観するとは思えない。

 そして迷宮ダンジョンの加護を持つ者と、異物となったものとの力の差は言うまでもない。

 実際、クロノス時代の作戦での要は双子だった。

 出会う前まで戻った時は大変だったが、決戦までの時間を引き延ばした分、双子がいない時間を大幅に短縮できた。

 今でも、双子無しであそこまで余裕のある戦いが出来たとは思えない。

 というか、殆どの戦闘で実際に本体を倒していたのは、分裂した双子の群れだし。


「ルサリアとアリサルは奴と戦ったか?」


「それは言うに及びません」


「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネス様と共に戦いました」


 すると、少なくともダークネスさんがクロノスであった時代の召喚者は、全員双子を知っていると考えて良いのか。


「ですが残念ながら倒すには至っておりません」


「少々事情があって、俺はお前たちの強さを知っている。正直に言ってしまうと、あれに後れを取るとは思えないのだが」


「いつのわたくしたちに会ったのかは存じませんが」


「わたくしたちの力に変化はございません」


「ただ倒すにはあまりにも困難でした」


「最大の要因は、向こうがただひたすらに戦いを拒否する点がございます」


「本気で逃げられると、周辺を一掃している間に逃げられてしまいますので」


 ……様子は分かった。

 やはり、俺の時の最大のキーマンは磯野いその椎名愛しいなあいだったと言えるか。

 マップを瞬時に把握する磯野いその

 怪物モンスターの位置を過去にまで遡って把握する椎名しいな

 この戦闘系ではないが、確実にチートと呼べるようなスキルのおかげで、双子は常に奴の弱い所を衝いたり、移動を先回りする事が出来た。


 しかし逆を言えば、それが無ければ地の利は完全にあちらにある。

 大変動の度に雑魚どもを派遣し、迷宮ダンジョンの形状を把握されている。

 その時点で、同格かそれ以上の手段が無ければ絶対に先手は取れない。

 ハズレスキルを使っても、きちんと分かっていなければ無理だ。

 手あたり次第に移動したり迷宮ダンジョンを破壊していたら、奴と出会う前に力尽きてしまうしな。


 奈々なな風見かざみに協力してもらえば俺だけは奴の場所へと跳べるが、それでは双子が付いて来られない。

 完全に前と同じ。しかも、常に風見かざみの暴走に気を使わないといけない。

 現実的ではないなあ。


「迷わず進んでいますが」


「位置を把握なさっているのでしょうか?」


「ああ、その点は問題ない」


 考え事をしながらも、移動は止まらない。

 予想通り、俺の動きに軽々と付いてくる。

 もしこいつらと戦闘になったら、絶対に負けるな。

 そもそも今は二人だから双子と呼んでいるが、戦闘時には分裂するし。そうなっらたら、もう逃げるしかない。


 あれ? おかしいな。

 俺のスキルは自分しか移動できない。

 他人を運べれば簡単だが、残念ながらそれは生前のダークネスさんも出来なかった様だ。

 ならあの時――初めて会った時だ。どうして双子が一緒にいたんだ?

 それにあの馬。あえて無視していたが部屋の中にもいた。

 さすがに樋室ひむろさんの部屋にまでは入っては来なかったが、それは配慮だろう。

 入ろうと思えば入れたんじゃないか?


「なあ――」


 ついつい初めて会った時にどうやって一緒にいたのか聞きそうになってしまったが、その事実が今は無い。聞くだけ無駄だ。

 だけど別の聞き方は出来る。今は何よりも欲しい情報の一つだ。


「二人はどんな時でもダークネスさんにくっついているのか?」


「必ずしもそうとは言い切れませんが、そうであるとも言えます」


「どうやらご存知のようですので言いますが、わたくし達は何組も迷宮ダンジョン内に存在しております」


 初耳……じゃないな。似たような話は聞いていた。

 ただ勝手に、あの一組こそが唯一無二と思い込んでいただけか。


「そしてブラッディ・オブ・ザ・ダークネス様が迷宮ダンジョンに入られた時は、最も近い組が向かう手はずになっています」


 知って驚く意外な事実。

 つまり初めて会った時、先にダークネスさんが出会う地点に到着。

 次いで双子が慌てて追いついて、そこに俺が来たわけか。

 物凄く堂々と登場したが、裏方では結構忙しかったんだな。

 話にも出てこないところを見ると、馬はアイテムってところか。

 そして同時に、誰かと一緒に距離を外す事が無理だと分かったよ。

 これは残念な情報だな。

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