第566話 さてデートに行こう

 聖堂庁に行くと、奈々ななは頂上にいるという。

 どうやら神罰を使うために移動したのだそうだ。

 確かに室内からあれだけ放てば、ビルが倒壊するな。恋人揃って大量殺戮者だ。

 まあ俺の方はその事実は消えているけども。


 屋上に出ると、万が一の為か全員が武装していた。

 奈々ななは上がレザー風のビキニで、下は予想通り前が全開のスカート型のサイドアーマー。

 しかも長さは40センチくらいしかない。

 他に身を守るものは無く、武器も持っていない。


 武装とは何だっけ?

 そんな事を一瞬考えてしまうが、須田亜美すだあみを見て少しだけ思い出した。

 予想通りの全身フルプレート。

 まああの胸じゃ普通のは無理だと思ったが、フォルムがとにかく丸い。

 あえて言うなら、球形をした艶々と銀色に光るフルプレート。

 首は胴体に完全にめり込み、まるで一体型だ。一応、頭に刃物でも仕込んでいそうな羽飾りが付いている。

 普通の金属であれば一歩も歩けない――というか転がって移動するのだろうが、軟性があるらしく普通にガシャンガシャンと歩いてきた。

 重量も見た目より軽い様だ。


 元々水泳部でスキルの悪影響を解消する方法も水泳。

 だからあの競泳水着のようなインナーでも平然としていたのだろが、この状態で泳げるとはさすがに思えないな。

 でもスキルは“飛行”。

 成長したら、案外水中でも自由に動けるようになるかもしれない。

 まあその前に決着をつけたいけどね。

 武器は尖端が球形になっており、そこにスパイクが大量についた鈍器。

 童顔巨乳な中身とのギャップが凄い。


 一方で岸根百合きしねゆりの方はラフで少しダボついたシャツに、これまたラフなパンツルック。

 ……部屋着とほとんど変わらん。

 一応両サイドのベルトに中型の剣は装備しているが、逆に場違い感が凄い。

 全体から使えないオーラが出ている。あれでは脅しにもならなさそうだ。

 今度剣術を習わせるか。


 セポナはその横で暇そうにしているが、さすがに今回は出番無しだな。


「お疲れ様。そっちはどうだったの?」


 こちらに着いた須田すだの様子からして、こちらはかなり楽だったようだ。

 というより高揚を感じる。

 奈々ななのスキルは相当に凄かったようだ。


「こちらは逃げられたけどね、収穫もあったよ」


 そう言いながら、一緒に奈々ななたちの元へ行く。


「とにかくもうね、ズバーンでパパパパーって感じで凄かったんだよ」


 しゃべる鎧と化した須田すだの説明はなんだかわけが分からない表現だが、実際に見た立場から言うとその通りだと思う。


「ああ。かなり助けられたよ」


「お帰り、敬一けいいち君」


「ただいま。助かったよ」


「アレで良かったの?」


「ああ。かなり助かった。凄いものだな」


「でしょう。えへへ。でもあれでも結構抑えたんだよ」


「さすがだな」


 ごく普通の勝利の会話。

 最初の頃は、ただこれだけを求めて迷宮ダンジョンを彷徨っていたんだよな。

 初めてこの世界に来た時に夢見ていた事が、ここにきてようやく現実のものとなるとは感無量だ。


 ただ、かつてクロノスだった時代にも、稀にだが召喚者たちと迷宮ダンジョンに入っては色々と話したものだ。

 だがその経験からすれば、奈々ななの瞳に力が無い。

 死んだ魚の目とまでは言わないが、似たようなものだ。

 話に聞いた神罰には遠く及ばない威力だが、やはり負担は相当か。

 まあ全力で放てば、精神や肉体の悪影響どころか本人が消滅するレベルだしな。


 屋上自体はごく普通の造り。

 ただ床が外壁と同じ翡翠のような緑色って所と、ここの高度が3千メートルを超えているので結構風が強い位か。

 その端まで行くと、柵がある。

 修理工は来ていない。ここは無事だ。

 だが下を見ると、地面やラーセットを守る壁の一部に幾つもの穴が開いている。

 特に一か所相当に固まった穴がある。多すぎて大穴かと錯覚するレベルだ。


「あそこにいると思って、そこを集中したの」


「他は?」


「なんだか撃たなきゃいけないような気がした場所が幾つかあったの。ダメだったかな?」


「そんな事は無いよ。素晴らしい結果だった」


 とは言っても、何で撃ったのかはやはり気になる。

 まさかと思うが、アイツのメッセンジャーじゃないだろうな?

 姿は変われど同じものだし、もし幾つも残していたら奈々ななが勘違いして撃つ可能性はゼロではない。

 俺が知っている奴は射程外だと思うが……頼むから無事でいてくれよ。


「ふふ、ありがとう」


 それはそれとして、笑顔が眩しいが目が死んでる。


「それじゃあ、今から行こうか」


「今から? 何処へ?」


「デートだよ」


「本当に? すぐなの!?」


 さすがに驚いた様子だ。

 おそらくこれから神罰に関してや、出した街の被害に関しての報告は色々あると思ったのだろう。

 確かにあるにはあるが、そんなものはみやに丸投げだ。


「じゅ、準備とかはどうなっているの?」


「そんなものは無いよ。行けば分かる。大変な世界だけど、とにかく見せたいんだ」


 元々考えていたんだ。

 実行するなら今しかない。

 というか、今後いつあるか分からない。


「行こう!」


「う、うん、分かった。なら行く」


 これで決まったな。

 もうとっくにキャンプ道具などは準備してある。

 これ以上、時間を無駄にしても仕方ないさ。


「それじゃあ、皆には俺と奈々ななは郊外デートに行ったと伝えておいてくれ」


「まあ伝えろと言えば伝えるけどさ。良いのかい?」


 うーん、須田すだの言葉から感じるニュアンスには2つの事が含まれているが……。


「大丈夫、ラーセットは当分攻撃されないよ」


「まあ、なら良いけどさ」


 先輩の事もあったのだろうが、まさかもう関係を持っているとまでは思うまい。

 ただ寂しがるだろう程度の認識だろう。

 実際の先輩は……多分何も言わない。俺たちの関係は、ある意味そんな儚いものなんだ。

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