【 デート 】

第565話 今回の撃退は思ったよりも楽だった

 被害の状況自体は見れば予想は付くが、実際の所は聞かなければわからない。

 今は当然ながら奈々ななの元へ行くべきだ。

 一撃の強力な神罰とは違うとはいえ、俺を一発で倒せるレベルの数百数千と放ったのだ。気にならないわけがない。

 だけど悲しいかな、どうしてもクロノス時代の習慣が染みついてしまっている。

 もう全部任せても良いはずなのだがな。


 そんな訳で、先輩の回収も兼ねてみやのいる召喚庁へと跳んだ。


敬一けいいち君!」


 到着すると同時に、廊下で待っていた先輩が間髪入れずに抱き着いてきた。

 ああ、戦いの影響が癒される。

 ここを奈々ななに見つかると色々アレだが。


「大丈夫だったの? 何か少し反応が薄くなっていたから心配したの」


「平気ですよ。奈々ななのおかげで助かりました」


 その名を出すと、ハッと思い出したかのように少しよそよそしくなる。

 うーん、お互い分かってはいるんだよな。

 この関係は日本に帰れば消えるし、そもそも俺は奈々ななを愛している。

 でも先輩から求められれば断れないし、じゃあそんな理由で抱いたのかと言えば嘘になる。

 自分に正直になってしまえば、二人とも好きなんだよ。愛しているんだよ!

 しかもそれは二人だけに留まらないというね。

 我ながら業の深さに呆れかえるわ。


「それじゃあ、とにかく後でね」


 そう言うと、先輩は俺の両腕を掴んでキスをした。

 何ともくすぐったい気分だが、今背後に奈々なながいたら神罰ではなく包丁が来るな。


「入るぞ」


 といいつつ、ドアノッカーも鳴らさずに執務室に入る。

 中にいたのはみやだけだった。


緑川みどりかわは出たのか」


「ああ。かなりの数が壁から来てな。手が足りないだろうと出て行ったよ。事前に壁からやって来る事は聞いていたのにな」


「いや、逆にセーフゾーンから攻めてくることを失念していた。俺はハスマタンのセーフゾーンの位置を最後まで知らなかったからな。本来なら、そこが主戦場になる事は当然だ」


 改めて窓の外を見ると、やはり煙が見える。

 そしてここからはラーセットのセーフゾーンも見える。

 外に連中の死体は無い。全部街に入れることなく撃退した訳だ。

 しかも誰も俺の元へは飛んでこなかった。

 現地人の被害を無視したくはないが、それでもやはり大勝利と言って良いだろう。


「それよりも君には聞きたい事があってな」


「俺にか? 応えられる事なら良いのだが」


 とは言っても、よほどプライベートな問題以外は隠す事が無い。

 そしてみやがそういった質問をする事は無い。

 問題無く全部応えられるな。


「今回のセーフゾーン戦では、相当な犠牲者が出た。黒瀬川くろせがわが言うには、今まで見た中でもトップクラスの眷族が3体も確認出来たそうだ」


 召喚者に死者――というか帰還者はいない。となると、犠牲者は全て現地兵か。

 しかしトップクラスの眷族が3体か。わざわざ俺に話という事は、まあ倒したのは龍平りゅうへいだろう。

 アイツの事は、俺が皆を日本に帰せるという話の時に、実例として伝えてある。

 今更話すような事では無いと思うが、確かに実戦は初めてか。現場にいた黒瀬川くろせがわもさぞ驚いた事だろう。


 ――って違うか?

 龍平りゅうへいは他の教官者と一緒に地下から戻っていない召喚者を迎えに行った。

 戻って来るにしても、反対側から殲滅しながらだ。

 もしそうなら、セーフゾーンに現れた3体がどうのという次元の話では無いだろう。

 何の話だ?


蔵屋敷里香くらやしきりか斯波裕乃しばゆの溝内信二みぞうちしんじ伏沼至ふしぬまいたるを知っているな」


 あ、バレた。

 いや今となってはもうあまり隠す必要も無いのだが、やはりまだ何が有るか分からない。

 当時は風見かざみの真意を測りかねていたし、何だかんだで他全員も白とは言えない世界だ。

 暫くは隠す予定でいたが……そうかー、やっちゃったか。


「その顔はやはり知っていたか。俺の知る彼らに、そんな力は無かったからな。もし召喚者を強化する術があるのならば――」


「残念ながら、そんなに都合のいい術は無いよ。あの4人は特殊でね」


 何処まで話すかは難しい所だが、やはりみやには真実を話すべきだろうが――、


「その前に、風見かざみは何処へ行った?」


「『所詮コピーはコピーね』と言いながら街の被害を確認に行ったよ。相当に落ち込んでいる様だったな」


 街の被害というか、多分確認に行ったのは奈々ななの神罰による傷跡だ。

 あの密度の集中攻撃……間にある物は全て破壊されているだろう。

 ただ俺と違って、奈々ななは人間を巻き込まない。

 最初はちゃんと狙っているのかと思ったが、どうも本能の様だ。

 良い事だから文句は無いが、自分のスキルが無差別なだけにちょっとへこむ。


 ただ角度は一方向からだけだった。

 というか、風見かざみの攻撃が届いたら俺ごと最大級の神罰を使っただろうな。

 だからこそ見張りを頼んでいた訳だが。

 だが、みや緑川みどりかわも彼女との付き合いは長い。

 今回は、わざわざ近づいてまで撃ちにはいかないと判断したのだろう。

 迷宮ダンジョン唯一の入り口は最大級の戦場だし、郊外にも雑魚がわんさかといる。

 賢明な判断だ。


「で?」


 鋭い視線が俺を衝く。仕方ないな。


「あの4人は俺がクロノス時代に召喚し、日本に帰したメンバーだ。俺がこの世界に戻る前に召喚されていたから最初はそんな事実は無かったが、俺がこの時代に来た事でその事実が確定した。上書きされた――本人たちはそう言っていたな。つまりは、今の彼らは俺が鍛えていた頃の力を持っているって事だな。まさかそんなに強力な眷族を倒せるとは思っていなかったよ」


 その点に関しては自慢したいくらいだ。

 実際、俺は他の召喚者と一緒に迷宮ダンジョン巡りをする事は滅多に無い。

 基本的には戦利品を見て、武勇談を聞きながらケーシュやロフレと一緒に資料作りにいそしむ程度だった。

 その中でも、やはり千鳥ちどりゆうのチームが別格過ぎた。

 だから彼らの力はその陰に隠れていたのだろう。


「他にもそういった人間はいるのか?」


「残念ながら生存者には居ないよ。今までのリストを確認した限りでは、日本に帰した中でこの世界に召喚されたのは他に児玉里莉こだまさとりだけだ。他にも知っている名前は何人かいたが、塔の改良が終わる前に命を落としていたり、日本に帰す前に俺がこの時代に来てしまったりでね。残念ながら期待には応えられそうにない」


「そうか。残念だが、そうであるのならそれで手を考えるだけだ」


 切り替えの早さはさすがだな。


「それでお前はどうするんだ?」


奈々ななのケアをしてからダークネスさんの元へ行く。ちょっと用事があってな。戻ったら召喚を再開だ」


「分かった。成果を期待している」

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