第563話 改めて対峙すると勝てる気がしないな
まあ今はとにかく、やるべき事は別にある。
「それで、
「そうね……そっちよ」
「本当だろうな?」
「そこまで意地は悪くないわ。ただ単に見てみたくなっただけよ。100パーセント勝てない相手の場所を知って、一体何ができるのかしらねと。消えるのが関の山じゃないの?」
ムチャクチャ意地が悪いじゃねーか。
けど今の方向で結ばれた地点は大体分かった。
二人とも迷いなく示したし、場所もセーフゾーンに限定される。
例え大変動でもセーフゾーンの位置が変化しない以上、俺の中のマップはこの時代でも生きている。
「微妙な誤差があったとしても、候補は3か所しか無いな。それじゃあ行ってくるよ」
「一人で行かせることには抵抗があるのだがな」
「何人来ても犠牲者が増えるだけだ。それよりも
「言ったでしょう。どうなるのか見ものだって。結果を知るまでは何もしないわよ」
残念だけど、
もし機会があれば、何一つ迷わず神罰を使う。
こっちはこっちで、理由さえあれば彼女を殺す事に何の
まあ今は日本に送り帰すだけなんだけどね。
だけど僅かの
ここは
「では改めて」
こうして、目星を付けていたセーフゾーンへと跳んだ。
あ、先輩廊下に置いてきちゃった。
いやそれ自体は良いんだ。あそこはある意味一番安全だし。
それに連れて行く事も出来ないのだから仕方がない。
いつの間にか居なくなっている事を知ったら相当に怒るだろうが、言い訳は後で考えておこう。
それよりも、今はこちらの方が大切だ。
◆ ◇ ◆
目の前にいるのは奴その物。
候補は3か所と言ったが、サイズなどを考えれば実質ここにしないんだよな。
ここは直径……というにはおかしいか。楕円と星形を繋いだような面白い形をしたセーフゾーンだ。
少し細長いとはいえ、広さは大体200メートルほどか。
今の奴の戦力を考えれば、一番広い場所にいるのは確実だった。
周囲に蠢く様々な姿の眷族に、
『早かったな。単独で来る事はおそらく容易に想像できた。感嘆に値するのだと予想する』
「前の狂った感じよりマシで驚いたが、中身は同じだと実感できて良かったよ」
相変わらず、奴の姿は変わらない。
大きさは5メートルほどだが、浮いているのでそれよりも威圧感が高い。
貝で包まれたような顔の半分から覗く爬虫類のような緋色の目。
かつてはただの球状だったが、その下には人間のような上半身。
まあ全身から棘が生えていて腕が8本、左肩には人の乳房、腹には牛の乳房が生えている。
そこから下がようやく昔のような球状だ。
もっとも、そこから30本ほどの足が生えている点はまるで違う。
それに男女様々だが、ウマだのタコだのこの世界の変な生物のパーツが混ざる。
もう神とやらが酔っ払って適当に作った生物としか思えない。
『ここがお前の最後の日となる戦場。この世界からたった今、クロノスという存在が消え去り新たなる世界が誕生する』
「いや、そんなものは誕生しないがな。大体消える気もねーよ。それよりいつもの攻撃はどうした。俺と一緒に周り全部をなぎ倒してみろよ」
『……必要が感じられない。お前の力は既に脅威ではない』
違うな。
散々な目にあったから警戒している訳だろう。味方ごと巻き込んだとして、俺を倒せるかの保証がない。
それどころか、俺が一人で来た点が怪しさしかない。
味方を巻き込んだ後、どんな手段で攻撃されるか分からない。双子が来るかもしれない。だからこいつは今、動けない!
……まあ代わりに山ほどの眷属と雑魚が襲い掛かってきているんだけどね。
ただ雑魚の命は簡単に外し、左右で切った後ずらしてくっつけたようなサイに似た眷属は触れただけで簡単に構造を外した。再び左右真っ二つだ。
やはり強くなっているのは本体だけ。
周りがそれに合わせて強化なんて事がなくて良かったよ。
しかし倒しても倒してもきりがない。
近づきたいが、奴の周辺どころか上からも新たな眷属や雑魚が雲霞のごとく湧いて来る。
向こうもここに俺が来る事は分かっていたようだし、準備は万端か。
それでも俺を倒せなかったら、全周囲の衝撃波がやって来る。
だが手を止めたら死ぬ。スキルで雑魚を殲滅し、倒しきれない眷属は自力でやるしかない。
一本足のサメとクワガタのようなハサミを持つ巨大三葉虫型の眷属を同時に分解する。
しかしその後ろにいたモーニングスターの先端にも似た眷属の体当たりを思いっきりくらってしまった。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
そんな事はわかっているよ。
触れて、改めて分解する。
こいつらゼリー状のわりに、硬い部分はしっかりと硬いよな。
雑魚は全部本当にゼリーの様な感触なのに。
さすがは眷属といった所か。
しかしこれは厳しい。
ラーセットが襲われた時から、もうこの状況になる事は予想していたのだろう。
クロノス時代は散々に誘導して罠に嵌めさせてもらったが、今回は立場が逆か。
「せっかく言葉が通じるようになったんだ。幾つか聞きたい事があるんだが」
そう言いつつも手も足もスキルも止まらない。
というか止めたら死ぬ。
しかも向こうは沈黙したままだ。
「どうした? もう言葉を忘れたか?」
『安い挑発では空気すら揺らがない。何も与えない。何も知る事はこの世から存在しない。ただ消えるだけにここに存在する』
「そうかよ!」
そう言いつつも、右手は自分の耳へと伸びる。
『今だ!』
奴等と対峙しつつも、通信機に小声で
もちろん神罰を使わせるつもりは無い。
そんな事をしたら全てが台無しだ。
だけど、それは彼女が奴に対して無力である訳でない。全力でなければ――というより、全力でなくとも、今現在使える最大の攻撃力である事に間違いは無いんだ。
天を穿ち、地を穿ち、まるで光のシャワーといえるものがセーフゾーンに降り注ぐ。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
いやまあ、巻き込まれる事はわかっていたよ。
だがそれだけに、奴にとってもこれはたまらないはずだ。
まあ倒す事は出来ないけどね。
おそらく全力ではなくとも、
だが倒せない。
倒していたら、今この状況にはなっていない。
繋がるターゲットは俺ではなく、彼女になっているはずだ。
だがなぜ? たとえ片鱗であっても、頭に刻まなければいけない。それもここに来た理由の一つだ。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
俺の方がもてばいいけど……。
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