第561話 出来れば本人に話して欲しかったけどな

「本体の位置を特定するとはどういう事だよ?」


「そもそも特定しても倒す手段は無いと思うが、それでも何かあるのか?」


「まだ思いつかないよ。ただ位置を知っているのと知らないのでは色々と作戦が変わるからな」


「確かに本体の位置は重要だ。場合によっては総力戦を仕掛ける事も……」


「いや、それは無理だ。今の段階では奴は絶対に倒せない」


 あの隙間の無い広範囲攻撃。

 誰か無効化できるスキル持ちがいれば良いのだが、そんなに都合の良い人間はいない。

 だけどそれは向こうも知らない。

 あの性格だ。自分の位置が特定された事は、間違いなく戦況に影響を与えるだろう。

 ただこれを……いや、もうここまで言ったんだ。今更怯んでどうする。


奈々ななはもう本体の位置を特定している。スキルの距離も届く」


「それは……」


「もちろん使わせる気はないよ、緑川みどりかわ。ただ風見かざみも場所の特定をしている可能性があった。それを確認しに来たが、どうも間違いなかったようだな」


「意味が少し分からないな。話してくれ」


「聞く必要なんてないわ! 今はそれどころじゃないでしょ!」


風見かざみ、黙っていろ」


「クロノス……」


 くっという顔をして歯を食いしばっている。

 そりゃそうだろう、知られたくはなかったはずだ。

 俺もつい先日、この事はまだ先送りにするべきだと思っていた。だけど今はもうそういう事態じゃない。


「風見はコピーしているんだよ。色々とな」


「それはまあ、それが風見かざみのスキルだしな」


「ああ。だけど風見かざみの計画は失敗した。というより」


「アンタが邪魔したんでしょうか!」


「ああ、その通りだ。本来なら、奈々なな緑川みどりかわのスキルで封印し、彼女のコピーを作る。周りにはそう話したんだろ?」


「……」


 相変わらず都合が悪くなると沈黙する。

 お前の悪い癖だぞと言いたいが、口では勝てないから今はありがたい。


「だけど成功しなかった」


「試してもいないわ」


「試すまでも無く分かっていただろう。実はこんな時でなければ、次に召喚した一人を緑川みどりかわに封印して貰って、実際に召喚者をコピーするところを見せてもらおうと思っていたんだ」


「趣味が悪いわね」


「何でも見て確認しないと気が済まない性分でね。その上で言おう。普通の召喚者でも、お前のコピーは長くはもたない。みやが言っていたぞ。アイテムは成長しないからコピーが長持ちすると。あの時から少し気になっていたんだ。逆に考えれば、少しでも成長してしまうとコピーが崩れてしまう。それがお前のスキルの難点だとな」


「なら、全部お見通しなわけね」


「もう少しわかりやすく説明してくれよ」


 緑川みどりかわは訳が分からないといった感じだな。

 実際、風見かざみのスキルなどに興味は無いのだろう。

 こいつの目的は、事態が解決したらクロノスの仇を取るために風見かざみを殺す事だ。

 そして付き合いが長いから、彼女のスキルに負ける事は無いという絶対の自信を感じる。

 だけどな、緑川みどりかわ。今戦ったら、勝負にすらならずにお前は負けるぞ。

 まあそんな日は来ないけどな。


風見かざみに召喚者のコピーは出来ない。もっと正確に言えば、普通の召喚者でも長くは維持できない。ましてや奈々なな程の成長に対応しようとしたら精々数日か? それとも数時間かもな。その度に封印を解いていたら、奈々なな本人が目覚めてしまう」


「じゃあ」


「ええ、そうよ。あの計画自体、半分は正しいけど半分は嘘よ」


「話してもらえないか?」


「その男が自信満々に推理を披露している最中でしょう。途中で答えを聞くのは野暮ってものよ」


 いや、出来れば本人に説明して欲しかったのだけどな。

 自白と言うとまた違うが、本当なら本人が説明してくれるのが一番ありがたい。

 しかし話したくないというのであればしょうがないな。


奈々ななのコピー体を作るんじゃない。今の風見かざみ自身が、奈々ななのスキルをコピーしているんだよ。こいつはスキルのコピーも出来るからな」


「話したことは無いはずだけど」


「お前じゃないお前からだよ。外見だって奈々ななになれるんだろう。だが神罰なんてスキルを簡単にコピーすることは出来ない。お前がコピーしているのは、精々目覚めた直後程度のレベルだ」


「確かにな。スキルをコピーできるにしても、双方のキャパシティが違いすぎる。これでも沢山の召喚者を見てきたんだ。その位は分かる。風見かざみの力では、あんな化け物じみたスキルをコピーするなんて無茶な話だ。だが実際にやっているというのなら、それはどういうカラクリだ?」


「俺も無理だと思ったよ。だからその指輪が必要だった」


 風見かざみが付けている指輪。かつて隷属の指輪と呼んでいた物。

 当時は小指に付けていたのは奈々ななの癖だと思っていた。

 だけど咲江さきえちゃんも小指に付けていたし、風見かざみもそうだ。あの時もな。

 フリーサイズとはいえ、やっぱりこんな世界だ。付ける場所は決まっているようなものだろう。


「一応、神殿庁へ持ち込まれたアイテムは全て確認している。何かの糸口になるかもしれないからな。その指輪も確認し、その程度ならばと……」


 指輪を見るみやの顔色が少し変わる。

 そりゃそうだろうと思う反面、やはりこの二人には特別な関係は無いんだなと認識できたよ。


「見ての通りだ。その指輪は風見かざみのスキルで作ったコピー品。これもおまえ自身が言っていたな。コピーしたアイテムは風見かざみの能力次第だと」


 今嵌めている指輪から感じる力は、咲江さきえちゃんが手に入れた時とは比較にならないほど強大だ。


「だがそれでも足りない。奈々ななのスキルは、その程度で制御できるものではないのでな。そんな物をコピーしていたら、すぐに精神が崩壊する。だが幸いな事に、俺とお前はスキルの悪影響を解消する手段が同じだ。唯一の違いは、同性でも大丈夫って所か」


「貴方の知る私は随分とおしゃべりなのね」


 それだけ仲が良かったんだよと言ってやりたいが、火に油だろうな。

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