第556話 セポナのチョイスとはいえ思い切ったな

 龍平りゅへいが召喚される直前に反乱があった。

 当然、時計も塔も最重要機密。盗まれていてもおかしくはない。

 それに不自然に門に積まれたユンス等の遺体。

 宣戦布告かと思ったが、もう少し慎重に考えるべきだった。そんな事をするメリットがない。


 おそらくあそこまで侵入できるスキルを持った誰か……おそらく”透明分身”のスキルを持っていた早瀬流星はやせりゅうせいあたりが、騒ぎになっている間にいじったのだろう。

 透明になった自分の分身を操作するスキルで、熱も匂いも出さなければ重量もほとんどないので天井にも張り付ける。

 探索には実に便利なスキルだった。


 だがあれは精密機械だ。しかも固定されている。遠隔操作で持ち出すには限界がある。

 だからと言って、誰かが直接入れば必ずその時点でバレる。

 何とかしようとして時計を動かしたはいいが、持ち出しは断念したのだろう。

 壊してしまったら手土産にはならないからね。

 そして召喚は上手く機能せず、時計を無視して塔本来の召喚時間からあの龍平りゅうへいを呼び出した。


 その後は調査が行われたから、神殿庁で綿密に調べられてきちんと修復されたと考えて良い。

 あれ以降、俺が成長した時代から呼び出された人間はいない訳だし。

 となると、やはり今までの奴はどうやって時計を手に入れたのやら。

 考えつく答えはあるが、それ自体には何の意味もない。

 あるとすれば、今の段階で持っている事が確実な以上、破壊は最優先という事くらいか。

 そうしないと、数年後には際限なく敵が溢れてしまう。





 ■     ◇     ■





 こうして先に宿舎に戻っていたが、暫くして奈々ななたちが戻って来た。

 軽く耳を澄ますと、キャッキャウフフな話し声が聞こえる。買ってきた服とかの話だろうか?

 プライベートな事だから、言葉が判別出来るほどには聞けない。

 だけどまあ、夕食の時には分かるだろう。


「ほ、星に紐のパンティ……瑞樹が……」


 そう呟いて、龍平りゅうへいは死んだ。

 この馬鹿、詳細に聞いていやがったな。

 自業自得だ。夕食までに起きなかったら、そのまま寝かせておこう。


「俺は死ねぬ!」


 ……あ、すぐに起きた。ちっ!





 =     ★     =





 その後は普通に夕飯の時間となった。


「さて、行くとするか」


「俺には直視する勇気はない」


「そんな恰好のままであるわけがないだろうが……ああ良いや。俺は行くからお前は外で何か食べてこい」


「ふざけるな。そんな事をしたら、その間に全員お前が食べちまうだろうが」


 食べるの意味が変わっているぞ。

 つーか、


「お前は俺をどんな目で見てんだよ」


「自分の胸に聞いてみろ」


 ……何も言い返せない自分が悔しい。

 だけど奈々ななと先輩がいる前で他二人に手を出すことは無いわ。

 と言いたかったが、ストレートに受け取れば先輩には手を出すという事だ。

 口は禍の元。ここは黙っていよう。


「とにかく俺は行くぞ」


「仕方ないな」


 こうしていつものように龍平りゅうへいと行くと、出迎えてくれたのはセポナだった。

 服は新調され、ボロボロだったワンピースの代わりにフリルの付いた可愛らしいエプロンを付けている。

 だけど妙だな。エプロン以外が見えない。

 まさかと思うが……。


「なんだか下心満載といった顔ですね。正直に言えば、わたしにそこまで露骨な目を向けてきた人はいませんでしたよ」


「こいつはそっち系オッケーだからな」


「そっち系ってどういう意味だ。それにこいつはちゃんとした大人だぞ」


「それはそうなんですが、実際に大人扱いしてくれるのは敬一けいいちさんくらいですよ。ただご期待に応えることは出来ません。ちゃんと服は着ていますので。ほら」


 そうしてくるっと回ると、確かにお尻には黒いものを履いている。

 だが背中もそうだが左右共に全開だ。それで見えなかったのだと思うのと同時に、どうやって固定されているのか興味津々だ。

 ん? よく見えれば首の所に細いチョーカーが見える。


「そうか!? 前で繋がっているんだ。おそらく前から見ると、首の所から股までほぼ一直線の布。そして下はワイヤーか何かで形が固定され、パンツの形をしているに違いない!」


「まあその通りですが、ズバリ言われるとリアクションに困りますね」


「え? 俺声に出していた?」


「もろにな。気になっていたが、お前はこいつの前では気が緩み過ぎていないか? 少しは注意しないと、また修理工の世話になる事になるぞ」


「気を付けよう」





 そしてリビングに進んだ俺たちが見た物は、何でか見てはいけないモノだった。


「こ、これは違うの、敬一けいいち君。セポナちゃんが、一般的な服だって言うから」


「普通の私服ですよ? それに召喚者の方々は、その上から鎧を着るので自然とそちらの様な衣装が普通になるんです」


「でもまだダメ―!」


 奈々ななの放った強力な一撃――煮込み料理が入った寸胴とも呼ぶものが、俺の顔面にめり込んだ。


 彼女の服は胸の部分をマスクメロンのような網で支えた物だ。服と呼んで良い物かは知らないが。

 一応内側には肌色の布が付いていて、先端は見えないようになっている。

 しかしピッタリ奈々ななの肌と同色とは完全にオーダーメイドだな。

 端から見たら、完全に付いているようには見えない。

 イラストだったら書き忘れ。写真だったら加工済みに見えるだろう。

 服屋の方も、よく分かっていらっしゃる。


 下はもう少しまともだが、グリーンとイエローの市松模様のインナーにクロスした革のベルトが付いている。

 鎧の接続具の様だが、わざわざそんなものを買ったという事は……。


『セポナ、鎧の方も決めてあるのか?』


 顔にめり込んだ寸胴のせいで上手くしゃべれない。

 視界からは外しているがな。

 それよりジュウジュウという音と焼ける匂いが気になる。

 一応こちらも外してはあるが。


「ええ、この左右から後ろにかけて金属のサイドアーマーを付けます。ちゃんと神殿庁には許可を取りました。というより、本当に出してくれるんですね。凄いです」


 すると鎧を付けても前はモロだし……じゃなく、インナーも普通の服ではなく採掘品か。見た目よりも、防御関連は充実しているのだろう。

 ただそれほど上質なものではないな。触ったら分かるが、触ったら殺されるだろう。

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