第554話 順番にやって行かないと必ず失敗するね

敬一けいいち君を攻撃することが、私のスキルの悪影響を解消する方法なの? そんな事、出来るわけがないじゃない!」


 奈々ななは抗議するが当然だな。

 スキルの悪影響を解消する手段とは、すなわち精神を安定させる方法という事だ。

 これでは日本に戻って結婚したら、家庭内暴力の嵐が吹き荒れるぞ。

 でも今までの奈々ななを考えれば、そんな傾向は欠片もない。


「正確に言えば少し違います。水城奈々みなしろなな様のスキルはとても強力です。当然悪影響も大きくなりますが、同時にスキルを行使し、成功した時の達成感が悪影響の緩和になるのです」


「意味が分からないわ? ただの岩じゃだめなの?」


 奈々ななは首をかしげてクエスチョンマークでいっぱいという感じだ。

 あの様子だと、実際に自覚は無いのだろう。

 有ったら怖い。

 俺はなんとなく分かったけど。


「つまりですね、水城奈々みなしろなな様の全力を1万としますと、今は1くらいに抑えている状態です」


「確かに常に全力で押さえているけど」


 全力で押さえてアレですかそうですか。


「そのままですと、使った事による悪影響はほぼありません。ただ、実生活の中で自然に溜まる方が遥かに大きな状態です」


 だめじゃないか。


「それってダメじゃないの?」


「確かにそのままですとダメなのですが、スキルを使った事で得られた達成感により悪影響の解消具合が変わります。たとえばそうですね……頭では納得しているけど、感情では納得しきれないストレスがありますね」


 おいおい。


「それを1の力で解消する事で、10の悪影響を解消できると考えると分かりやすいと思います。実際には正確な数値として出す事の出来ない問題ですが」


「うん、でも何となく納得できた」


 そう言うと、ニッコリ笑顔でこちらを向く。

 いやいや、今ここでぶっ放すのは無しだぞ。


敬一けいいち君、今度久々にデートに行こう。二人っきりで」


「そうだな。そんな時間があっても良いだろう。早いうちに時間を取って行こうな」


「うん。楽しみにしてる」


 ハートマークがぽわんぽわんと浮き出していそうな程に満面の笑みだが、ぶっ放す事は確定だ。

 奈々ななの考えは手に取るように分かるからな。

 スキルの悪影響は少ないだろうが、心的ストレスの方は俺の女性関係のせいで相当だ。

 放置すれば、どのみち精神の暴走を引き起こしかねない。

 よし、10発くらいは覚悟しておこう。

 でもその時に使ったスキルの悪影響を解消するために他の女性の元へと行くわけで……。

 なんて悲しい堂々巡りなんだ!


「ここでぶっ放そうか?」


「修理工さんたちが困るので今度にして下さい」


 また態度に出ていたか。

 まあ地球にはスキルも無ければ、当然その悪影響もない。

 現実世界には現実世界のストレスと、その解消方法がある。

 日本での奈々なながストレスで暴力を振るうことは無いだろうさ。

 そもそも、俺が浮気をするという事実が根本的に無いしな。

 日本に帰ってから地球が滅びるまで、最後まで童貞を貫いた俺の意思を舐めるなよ。





 その後は残り二人も見てもらったが、須田すだは水泳。岸根きしねはジグゾーパズルだそうだ。

 まあ正確には難解なパズル的な物であればいいそうだが、最も適したのがそれというのだから従っておくのが吉だろう。

 そんな訳で、宝物庫から1万ピースの真っ白いパズルを用意してもらった。

 俺があれをやったら逆におかしくなりそうだが、人それぞれと言ったところか。

 まあ、岸根きしねはあからさまに嫌そうな顔をしていたがな。





 こうしてスキル問題が一段落すると、女性陣はセポナを連れて服を買いに行った。

 確かに日本語が通じる服屋もあるにはあるが、ハッキリ言ってまともな物が置いていない。

 良くて怪しい日本語が書いてあるTシャツくらいで、精々寝間着に使うのが限界だろう。

 アレで出歩くのはさすがに厳しいし、そろそろ迷宮ダンジョン生活にも耐えられる特殊な普段着も揃えないとな。

 結局欲しいものは自分で迷宮ダンジョンで掘り出すか、セポナの様に地元に詳しい人間に教わるしか無いわけだ。


 神殿に行けば用意してくれるだろうけど、さすがにヨルエナも聖堂庁の長官であり大神官の身だ。

 それ程に長い時間は取れないし、効果や持ち出していいかの確認や許可を全員分となれば、他の省庁にも書類を回さないといけない。

 当然現地語で。

 アイツが無条件に全員から歓迎されていたのはこれが大きいだろうな。

 それまではずっと制服だったからね。

 そういや洗濯の時はどうしていたんだろう。やっぱり乾くまでシーツ一枚だったのだろうか。


「お前はいやらしい事を考えているとすぐに顔に出るな」


「うわ、いたのか! というかそんなに出るか?」


「ああ、出るな。それ以外でも出るが、もう少しポーカーフェイスを学べ」


「これでも気を付けてはいるんだけどな」


「それだけ正直者という事だ。平時なら美徳だが、ここだと周りの足を引っ張るぞ」


「肝に銘じるよ。それよりも先輩の元へ行ったのかと思ったが」


「少し聞いておきたい事があってな。俺たちも外へ行こう」


「そうだな。ついでにこちらも服を揃えるか」


 今まではやる事が多すぎたし、奈々ななたちも勉強や鍛錬でそれどころでは無かった。

 俺はやろうと思えば一人で行けたが、俺だけ服を買って来ましたとか言ったら白い目で見られる事は必定。

 いつか時間を取ってみんなで行こうとは思っていたが、まさか龍平りゅうへいと二人で行く羽目になるとは思わなかったよ。





「それで? 聞きたい事ってのは?」


 のんびりと道を歩きながら、静かに話し掛けた。

 人通りはあるが、日本語で会話する分には問題無いだろう。動きながらだし。


「これからどうするのかって話だ。本体の奴は見たんだろう」


「まるで話にもならなかったがな。今の俺とお前で仕掛けても、おそらく瞬殺だ」


「それほどか? 少し誇張しているようにも感じるが、そんな理由も無いか。しかしそうなると手詰まりだな」


 やはり何か一手が欲しい。

 確かに最古の4人に教官組。戦力になるメンバーはいる。

 だがこれではダメだ。全員で仕掛ければ俺を殺せるだろうが、その程度の力で勝てる相手とは思えなかった。

 龍平りゅうへいも分かっている。俺に苦戦するようでは、俺を瞬殺できる奴に何ができるわけもない。


 他は全員、4年前の反乱で崩壊した。

 あと戦力になりそうなのはダークネスさんに檜室ひむろさんと正臣まさおみ君ではあるが……うーん、ダメだな。

 ダークネスさんには、もう僅かの力しか残されていなかった。

 他二人は戦闘力に関してはお話にならない。


「やはり決め手は双子と、あの子らが見つけた本体の分身だな」


「ならとっとと接触した方が良いだろう」


「そうしたいのはずっとそうなんだが、この時代の双子は本体から切り離されたメッセンジャーと接触していない。あれは俺が奴の本体と繋がったから双子と接触したんだからな。そんな訳で、双子の元へ行ってからメッセンジャーの所へ行って戻って来なくちゃならない」


「どのくらいかかりそうだ?」


「村に行くまでは一瞬だが、俺は人を運べないからな。場所は分かっているからショートカットもするし双子もついて来られるだろうが……そうだな、やはり往復で10日か……安全策を考えるなら15日から20日は見ておきたいところだ」


「それだけ開けるわけにもいかないが、必要な事でもあるだろう」


「だから次の召喚が終わったら、ダークネスさんの元を訪ねてから双子を借りようと思う」


「全く、やる事が多くてなかなか倒しに行けないな」


「その点に関しては大丈夫だ。さっきも言ったが、どうせ今の段階では勝ち目なんて無いからな」


「威張って言う事じゃねえな」

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