第553話 先輩はともかく
「それで悪影響が出ているのは……
ああ、
そういや
俺も簡単で羨ましいとは言われるが、ハッキリ言ってコイツより簡単な人間はそうはいないぞ。
「スキルの事は説明を受けるが、悪影響の解消方法に関しては個別のレクチャーを受けていないからな。今日はそれを聞きに来たんだ」
「そうでございましたか」
なんか心の底から安堵した表情だ。
それはそれでなんだか傷つく。
しかしその様子を察したのか、
「い、いえ。嫌というわけでは無いのですよ。それもお勤めと言われれば、当然その心構えは出来ていますし、光栄な事だと認識しております。ただ長い間そういった事は無かったと聞いておりましたので、どのようにしたらいいかの整理が付いていないと言いますか、事前の知識が足りないと申しますが――」
「いや、余計な気遣い良いから」
長い間行われていなかったというのは
なんだか悪評の半部以上はダークネスさんが原因な気がするぞ。
まあ彼もまた俺なのだが。
しかしそうなると、やっぱりミーネルとも……。
大体分かっていた。あの戦いを切り抜けるにはそうするしかない。
それにダークネスさんも俺だし、代々のクロノスは……まあ俺じゃない時もあったとはいえ殆どは俺だ。
当然ながら、俺は全員間違いなくミーネルに手を出しているんだよな。
どれも自分とは言え凄く複雑な感じだ。
こういうのも
まあ考えても仕方がないか。
結局彼女は血統を残す為に冴えないおっさんと結婚したが。幸いにも良い人だったからね。
ここは素直に祝福しておこう。
こちらの世界での結婚相手が誰であれ、目の前のヨルエナの様に血筋は続いているのだ。
代々の俺には……出来ない事だ。
「では全員、改めて確認しますね」
「そういえば、何で最初に教えなかったんだ?」
俺の時は教えていたがとは言えない。
「よく分かりませんが、体験させるためではないでしょうか? どんな状況になるのかを知るため……とか? おそらく講習で聞いていると思います。時折相談に来る方もおりますし」
全く習ってねえ。
相談に来たのも、おおかたおかしくなってきて藁にでもすがる思いでって所か。
もしくはスキルの悪影響とは認識せずに、単純にスキルを使っていると体調が悪くなるけど対処法はありませんか? とかだな。
「あとは自己流で色々試しているとかですね。こういった方が一番多いですよ」
確かに自力でストレス解消の手段を模索するのも大切だけどな。
だけどスキルという未知の要素に対して、それはあまりにも無茶だ。
今度
「まあ取り敢えず、全員を診てやってくれ」
「畏まりました。では先ず
そう言いながら、手を軽く握る。
ただそれだけの行為なのだが――、
「バランス感覚を養う事で解消されますね」
ストレートに言い切った。
「バランス……感覚ですか?」
「そうですね、少々お待ちください」
そういうと、ヨルエナはスタスタと部屋を出て行ってしまった。
部下に任せればと一瞬思ったが、ミーネル他、代々の神官長もこんな感じだったわ。
行事や仕事なのなら部下も使うが、自分が任された事は基本的に自分で行う。これも修行の一環なのだろう。
でも待たされるのはちょっとめんどい。
部下に任せて、全員の判別を済ませて欲しかった。
などと考えていたら、1時間程で戻って来た。
多分、目的地は宝物庫当たりかな? とおもったら、赤い大きなボールを抱えて持ってきた。
そう。テニスボールどころかサッカーボールサイズでもない。抱えるほどの巨大な玉だ。
「これはいったい? どうすれば?」
「この上で座ったり、また背を逸らしたりする感じですね。それと両手で持ちながらの運動など、様々な使い方があります」
エクササイズじゃねーか。
「慣れてきたら、上に立つ事も出来るようになると良いと思います」
曲芸かよ。
「ええと……」
ほら、先輩も困っている。
「悪影響の解消は人それぞれです。簡単な方もいれば難しい方もいますし、短時間で解消できる方もいれば時間がかかる方もいます」
そういや
趣味だと思っていたがそうでもなかったらしい。アレがスキルの悪影響をどうにかするためであれば、確かに簡単だがその実大変という所か。
「とにかくこればかりは、実際にやってみるしかありません。どのような姿勢でどのようにする事が一番高い効果が得られるのかは、ご自分で試してみてください」
「はい。では早速やってみます」
そういうと、先輩は部屋の隅で赤いボール相手にいろいろと試し始めた。
しかしやっている事は完全にエクササイズで間違いないな。
「それでは次は
「はい、お願いします」
そう言って、先輩相手と同じ事をする――のだが。
「うーん、スキルの悪影響というものは見られませんね」
「そうなんですか?」
というか俺としても意外だ。
当然ながら、悪影響も人より多めに出ると思ったのだが。
「解消方法は……これはどう言ったらいいのか難しいですね」
「何か特別な事が必要なのですか?」
「特別といえば特別です。神罰を
「ハイストップ。一応聞くけど、真面目に言ってる?」
「はい、大真面目です。
その目にも、言葉にも、一切の淀みは見られなかった。
マジかよ。
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