第551話 先ずは先輩をケアしないと
結局何とかうやむやのまま、俺がセポナと呼ぶ事が自然な流れになるように誤魔化した。
まあ、雇い主だからと言う理由という事にしただけだけどな。
呼び名を聞いた件に関しては、勘違いという事にしておいた。
他人がどう呼んでいたかは、実際あまり気にしないしね。
元の主人――
この時間軸では戦う羽目にならなくて良かったよ。
だけどセポナの扱いに対しては不満が残る。もっと大切にするべきではないだろうか。
なんというかこう――物理的にではなく精神的に。
あの時の何処か怯えた雰囲気が、初めて出会った時と被ってしまう。
……なんてのは、ただの俺の感傷だけどな。
あの現地人の集団の中でやっていくためには、より細かく正確に伝えられる通訳が必要だったのだろう。
そういった意味では、彼らとセポナとの出会いは渡りに船だったと思う。
だけどこの世界で奴隷を持つことは爆弾を抱えるに等しい。特に
しかも彼女持ちで相手はセポナ。性的な意味での奴隷としては全く使えない。
いや、今自分に跳ね返って来たからこの考えは捨てよう。
ただもう現地語は完全にマスターしたようだし、話によれば半分は無理矢理だ。俺が引き取るという事は、彼らからしたら大歓迎だったのだろう。
奴隷契約をしなくて良いって言ったのも、案外気が変わったら大変だと思っただけかもしれない。
単純に捨てたのでは、さすがに後味が悪いだろうし。
だがとにかく、彼らも死なずセポナも手に入った。
実際通訳としても先生としても一流だし、俺たちの文化にも詳しい。
彼女には世話になり過ぎたと言っても過言ではない。ケーシュやロフレの事がまだ胸にしこりとなっているからという訳ではないが、とにかく彼女には幸せになって欲しい。
しかし精神安定か……明日はダークネスさんと双子の所へ行きたかったが、それは後回しだな。
今はとにかく、先輩をヨルエナの所へ連れて行こう。
そんな事を考えながら部屋に入ったが、その日の
分からないでもないのだが、これも難しい問題だなー。
★ ◎ ★
翌日、先輩を連れて神殿庁へと行った。
というか普通に大神殿と呼ぶべきか。
メンバーは先輩だけでも良かったのだが、そうなると絶対に
今更
そもそも万が一の出来事で、一生後悔を背負うのはごめんだ。
何が起きるか分からない世界というとこは、何が有っても忘れてはいけない。
そういった意味で
というより、実はちょっと気になっていたんだよね。
スキルを使えばどうしても悪影響が出る。
だからと言ってごく自然におとなしくしていても、召喚者としての成長は必ず心に悪影響を残す。
実際、
だが聞いただけだ。
実際にそれを確かめる
話が少し脱線したが、それほど
一方で、
そしてもう3ヵ月が経過している。
だが、ここまで一度も
なら安全か? そんなわけがない。
どんな召喚者も、スキルや成長の悪影響から逃れられはしない。
この際、ついでにヨルエナに聞いてみるとしよう。
というか、俺がクロノスだった頃だと、代々の神官長は悪影響の解消に関しては必ず話していた。
しかしこちらでは誰も聞いていない。
その方が大量に召喚するには都合が良かったのだろうが、そろそろ改めさせないとな。
そしてこのメンバーが動いたことで、
当然そうなると、セポナも一緒だ。
結局全員でぞろぞろと行く事になってしまった。
◎ ★ ◎
神殿庁というか、大神殿は見た目だと普通のビルと変わらない。
ただ何と言うか、独特の空気が流れている。
澄んだ空気というか、とにかく全体的に静かなんだ。
実は壁の素材に加工して音を吸収している事が要因だが、それはまあ黙っておこう。
どちらにせよ、信者たちがそもそもあまり音を立てない。
他の省庁や雑居ビルの様な喧騒とは無縁な場所だな。
俺やセポナはまだしも、他のメンバーは全員この国の宗教などさっぱりだ。
だけどこの空気のせいで、誰もが自然と無口になる。
ここは慰霊の場も兼ねており、ビルの中には火葬場から葬儀、その後の資産分与の為の弁護士から税理士まで全てが整っている。
もっとも、
ちなみに火葬するのに納骨が無いのは、骨は
この世界の死因ナンバーワンは、言うまでもなく迷宮探索。生活と死がピッタリとくっついているわけだな。
だから地上で亡くなった者たちも、皆と同じ世界に行けるようにと
ケーシュやロフレが亡くなった時は外にある特別な祭儀場で火葬したが、骨はこの世界の習わしに従って
だけど、もうその事実は消え去っているだろう。
この時代の二人がどうなったかを考えないわけでは無いが、何せあの激動の状態だ。
その時のクロノスの戦い方次第で生死やその後の生活も変わる。
同じかもしれないし、ラーセットが襲われた時に亡くなっているかもしれないし、逆に家族や財産が無事で生贄になっていないかもしれない。
可能性は様々だが、どんな結果であっても知りたいとは思わない。
俺にとってのケーシュとロフレとは、共に過ごしたあの二人だけなのだから。
場の空気に当てられたのか少ししんみりしていると、正面から見覚えのある男が歩いてきた。
黒とグレーの縞スーツに緑のサングラス。
ただ今回の縞は途中で一か所稲妻になっている。ちょっとしたオシャレだろうか。
靴もパリッとした革靴で、そういやこいつは結構身だしなみには気を遣う奴だった。
初めてであった時の、アニメキャラのプリントシャツはどうなったのやら。
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