第543話 正直言えば会いたくないんだけどね
精神の安定……その辺は、召喚者でも実はあまり変わらないんだよ。
確かに精神に作用するような物は効かないが、ストレス軽減はストレートに効く。意識が勝手に求めてしまうのだろう。
場合によっては、現地人よりも効果が強いかもしれない。
もちろん、危険を感じたら意識がシャットアウトするから、いくらリラックスさせても催眠どころか睡眠などの効果があったら影響は消える。
そして精神状態がスキルに影響するのは確実だ。
召喚者の力と精神状態の関係は両極端といえる。
安定していれば召喚者としては最高の状態とだな。
少ない力で最高のパフォーマンスを発揮し、召喚者としての心身の強化なども最高潮になる。
逆に制御アイテムなどを失ったら暴走となる。
壊れた蛇口。或いは花火。制御不能の状態で最高の力を放出し続け、やがて消える。
その間だけは、確かにこちらも召喚者としては心身共に最高潮と言えるだろう。
どちらの場合でも、召喚者の成長には欠かせない要素だ。後者はただの自爆ではあるがな。
しかしそれなら、聞いていた効果とは全く逆になってしまう。
コピーは成長させないように安静にさせておくが、召喚者として成長してしまったら崩壊させる。そう聞いていた。
だけど、そんな物を付けてしまったら本末転倒だ。
最高に安定した状態が続けば、召喚者としての成長はかなり早くなる。
これは俺が最初に不安定な状態で壊れかけた時と、セポナやひたちさん、そして
クロノスとなってからも、沢山の人にお世話になりながら俺はここまで来れた。
俺は最初、あの時の
最も警戒していたのは指輪だが、もちろん他のアイテムなどの可能性も捨てきってはいなかった。
やがてクロノスとなり、大量のアイテムが発掘され集められるようになった。
当然、ヤバいものを他国に売るわけにはいかないから全部チェックしたよ。
だから見た限りのアイテムは覚えている。もっとも、種類が多すぎて頭がパンクしそうだけどな。
ただその過程で知った。召喚者を操ったりするアイテムは一つもない事を。
だからあの時の
何をどうしたら、召喚者の意識をあそこまで変える事が出来るのか。
しかも付けていた指輪は精神安定の効果だと言われると、もう何が何やら分からない。
リラックス効果のあるアイテムは幾つか出土したが、どれも俺には弱すぎたし、そもそも俺の場合、スキルの悪影響を解消する方法は簡単な方だったからな。
最初のハードルだけは恐ろしく高いことは否定しないが、まあ娼館はこの世界にもあるし。
ただ今となっては表面上だけで、確実に悪化はしていた事は分かってしまったけどね。
まあそんな訳で、そういったアイテムはスキルの悪影響を軽減する手段が難しい奴に優先的に回すようにしていた。
あの指輪がそのタイプとは思わなかったが、感じた力は特別強い方じゃない。
俺が見た似たアイテムの一つ。その程度か。
とはいえ、それがもたらす効果はやはり大きい。
当然、成長させてはいけない
付けるとしたら……大体見えてきたが、そうなると今までの前提が全て崩れるな。
4日後、ヨルエナから報告が来た。
やはり指輪を持って行ったのは
それともう一つ。こちらは今更な事だが、召喚者を操るアイテムなど存在しない事も確認出来た。
少なくとも、スキルを使える段階でもう完全に不可能な話だ。
俺がクロノス時代に無くてもこの頃には――なんて可能性もこれで消えた。
そこで俺はある人物を訪ねて、とある宿舎へと向かった。
とは言ってもご近所なんだよね。
同じ召喚庁のビルで、俺たちより3つ下の階だ。
そこに、まだチームを組んでいない3人の召喚者がいる。
全員、俺たちと共に召喚された残りだ。
その後は別のチームに合流したという。
そして思い出すのも嫌だが、
野球部のエースで、将来を
普通に考えたら、リーダーとして全員を引っ張っていく存在であってもおかしくない。
というか、そうならない方が不自然なんだよ。
だが彼が消えた事で、一緒に召喚された多くの者は、彼ではなく
その辺りが気になっていたが、今は普通に宿舎にいる。
あの時とは状況が変わって不要になったって事だろう。
そうなると
結構ミーハーな二人だから、
ただこっちに知り合いが多く集まったので、自然と今の形になっただけかもしれないけど。
もしくは
よく漫画で見るような、そういった権力を振り回す小物と違って、アイツはそういった浅はかな態度は一切取らなかった。
先輩を狙っていた事もあるだろうが、ちゃんと将来も見据えていたからな。
親の決めたレールだろうが、自らの意志でそれに乗る事を決めたわけだ。
それはともかく、普段は先輩に対する気持ちを表に出していない。
それを知った俺から言わせてもらえば、自分から言わなければ先輩は絶対に気が付かないぞ。
言う気も無いし、言えた立場でもないけど。
だってフラれるのが目に見えているじゃん。しかも俺のせいで。
余計な波風は立てないようにしようね。
そんな事を考えながら、俺は
一応先輩だし、例の件はこの世界では起きてはいない。
だから遺恨はここまでだ。
普通の後輩として、普通に先輩に接した。
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