【 悪影響の解消 】
第538話 様子がおかしい
こうして宿舎に戻ったのだが、入って早々
いや、普通に夕飯の支度をして待っていてくれただけなんだよね。
そしてニコニコしながら『お帰りなさい』と出迎えてくれた。
ちなみに
夕食はもう済ませたそうで、今日は帰ってこないらしい。
なんか昔を思い出すが、もうあの頃のような子供じゃない。
3人だけだとドキドキしてしまう。
しかし、今は違う意味でドキドキしている。
部屋全体に漂う不穏な空気。
そのせいか、カチャカチャという食器の音さえもどこか不気味に聞こえてくる。
「さっきね、
「へえ、そうなんだ?」
何の用事だろう?
今はあの4人が戻ったら教えてくれとしか頼んでいなかったが、何か問題があったのか?
ただ暢気な話ではない気がするんだよな。
部屋に入ってから続く緊張感。何処か空気がピリピリした感じだ。
しかしあの4人と二人には何の接点も無いはずなんだけど。
「そこで聞いたんだけど、
この異様な雰囲気はそれか!?
なぜあいつはそんな余計な事を言うんだ!
「それでね、負けたって聞いたの。本当?」
先輩は心配そうに覗き込んでくるが、こちらもいつもと様子がおかしい。
取り敢えず事実を言うしかないだろう。
「ああ、負けた。見通しが甘かった。まるで手も足も出ず、対策も思いつかなかった。ただ逃げる事しかできなかったよ」
さすがに一人で飛び込んだ無茶はまずかったと反省している。
だけど知っておかなければなんの対策も立てられない。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。
危険は承知でも、やるしか無かった。
まあ無謀だったのは事実だよ。でも他の人を巻き込んでいたら、多分全員死んでいた。
いつかは何とかしなければいけないが、あの時点では必ず殺されていた。
だからこれは正しかったんだ。結果論だけどな。
それを理解してもらうにはどう説明したらいいか。
「それで地上で倒れていたって聞いたけど、それも本当?」
「あ、ああ。スキルを使い過ぎたせいもあるけど、もうボロボロだったんだ。外に出るまでが精一杯で……」
あれ、何で
「でも
「そこはむしろ喜んでくれても――」
言いながら、頭の中で“早く逃げろ”ともう一人の俺が叫んでいる。
だがもう一人の俺が、“事態の推移を見守れ”とストップをかける。
「
「私もね、
そりゃ誤魔化せるものならそうしたかったが、クロノス時代の事はどうしても話さないといけなかった。
それにスキルを使い続けると悪影響が出る事は、
当然、俺ならどうするかは避けては通れない問題だ。
だからそれを話した事は仕方ないと思うが、どうしてそれを先輩が?
姉妹同士、隠し事は出来ないという事だろうか?
なんて冷静に考えてはいるが、完全に失敗した感じがある。
だけどきっと、いつかは話さなければいけない事だったんだ。遅かれ早かれの話じゃないか。
けどなんというか、本題はそこじゃない感じがする。
最近の事で、一番マズそうなことは
というかどう考えても、二人はその関連の話をしている。
でもさすがに回復したからね。当然、匂いや痕跡は外してある。
まるで最低な浮気男の思考だが、あれは俺の知らない所で起きた事だ。
しかも
それを曲解されて、
……あれ? 俺自然に先輩も含めていたな。
いやいや、当然だろ、落ち着けよ俺。
二人とも、俺の大事な家族なんだ。
「さっき
俺はさっきから、その名前が出るたびに嫌な予感しかしないよ。
「
「大切な任務って、そういう事だったの? どうして正直に話してくれなかったの?」
あのクソ馬鹿野郎がー!
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
そう考えながら、俺の体は光に包まれて消えた。
そして
▽ ◎ ▽
もういつでも大丈夫なように、24時間体制で待機しているのだろうか?
すぐさま修理工がやって来て、壁の穴を修理している。
俺はと言うと、正座しながら状況の説明中だ。言い訳とも言うが、本当に今回はやましい事があったわけでは無い。
あの温もり。
あの柔らかさ。
あの香り。
そりゃ男なのだから当時を思い出してしまったことは否定しない。
けど今は
浮気なんてするわけないじゃないか。
当時はほら、スキルの悪影響を解消しなければいけなかったし、何処か自暴自棄だった事も否定できない。
でも今は違う。俺は本当に
だけど同時に、そんないい加減な気持ちで皆と関係を持ったのでは無かっただろうと叱る自分もいる。
今の考えを、生涯を共にしたケーシュやロフレの前でも言えるのか?
「
そう言って、先輩が俺の背後にピッタリとくっついてくる。
いやこれはもうくっつくとかじゃない。
押し付けられている! 巨大なアレが!
ぎゅむむと潰れていく感覚まで分かる。
ダメだ! 俺は
……って、先輩ブラを付けていない!?
今までは
この破壊力! 俺を完全に壊す気か!?
理性が……ヤバい!
「お姉ちゃんどいて! やっぱりもう一回殺す!」
しまった! 顔に出ていたか!?
「物騒な事言わないの! ここが日本だったらどうするの!」
「お姉ちゃんもお姉ちゃんよ!」
「
ここは一日の長。やはり姉は強い。
「大丈夫、日本での
「……う、うん」
「でもこっちの世界ではそれだけじゃダメ。ただの不運が、
「そんな事くらい……分かってる」
「なら認めるしかないでしょう? その重荷を少しでも軽くする方法が、一つしかない事を」
そうか!?
先輩のこの状況は……。
確かに言い訳出来ない。
今の俺には、
もう真面目に考えるしかない。
本当は、一発勝負で奴を倒して解決するはずだった。
だけど現実はそんなに甘くはなかった。
今のままでは勝てない。様々な手段を駆使しなければダメだろう。
その為にはスキルを多用するしかない。
実戦はもちろん、そこに至るまでの準備にも。
当然、必ずケアしなければいけない。
そうでなければ、奴を倒すまでに自滅してしまう。
「そ、それで――それをお姉ちゃんがするの?」
「それを決めるのは
「うぐ」
後ずさってプルプルと震えている。
ここまで動揺した
告白した時は、もうそれが自然って感じだったしな。
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