第528話 色々な意味で懐かしい二人だ
そう言えばこいつらは事情を知らないんだったな。
「クロノスから、本体と呼称するように言われていないのか?」
「そんな事は言われちゃいねえな」
「これでせっかく確定した君の信用が一つ下がったわけだが……そうだね、クロノスから指示を受けたという事は、こちらの事は当然知っているはずだ。言ってみたまえ」
言うのは簡単だが……え、アルバトロスさんで良いのか?
それとも本名を知っている事が重要なキーになるのか?
なんだかここでミスをすると、取り返しがつかなくなると頭の中で誰かが警告している気がする。
「今の状況は、本体の痕跡を確認するためにハスマタン近くにある巨大なセーフゾーンに向かっている最中だ。かつては並の召喚者じゃ何人でかかっても歯が立たないような強力な主がいたんだけどな――って、この話は良いか。名前はそちらの染めた金髪が
「なら構わねえ」
「そうだね。例え脅されても、或いは何かを渡されようが、余計な事を言う連中ではない事をわたしは知っているよ。しかもこの任務は極秘だ。そんな訳で信じよう」
「で? 俺たちは何をすりゃ良いんだ?」
「ついて来てくれればいい。戦闘になったら俺がやるから、君たちは奴の痕跡を調べてくれ。今はとにかく本体に会っておきたくてね。場合によっては手伝ってもらうかもしれないが、その可能性は低いな」
勝てるようならもう今回で決着だ。
勝てない様なら無駄な事をしても仕方がない。即撤収。
問題はその間のグレーゾーン。勝てるか否かが判別つかない場合だが、実質戦えるのが
そんな賭けをする必要は無い。
「大した自信じゃねえか。ちょっとその鼻っ柱をへし折ってやりたいところだ」
「歩きもしないのに忘れたのかい? 君の頭は鳥未満だね」
「うるせえ」
だからアルバトロスなのか?
聞きたいところだが、余計な事を今聞くのは得策じゃないな。
とにかく問答は合格点だったようだし。
「休憩中の邪魔をしてすまなかったな。先に行っているから、後から来てくれ。露払いはしておこう」
「お気遣い感謝するよ」
こうして突然の来訪者は去っていたが、
「どうにも怪しい奴だったな」
「そうかい? わたしからすれば、彼はかなりの紳士に見えたね」
「あ・の・
「君にそんな感情があるとは思わなかったよ。今までも、うら若き乙女たちをそんな目で見ていたのかい?」
ああ言えばこう言う……。
だがもともと口げんかで勝てるとは思っていない。それよりも聞きたい事があった。
「そんな事より、さっきの話はどういう事だ。その――力の及ばない所にいるとか言う話だ」
「言った通りだ。スキルのせいか、それともこの世界の不思議さかは分からないがね……そうだな、わたしの見立てでは、彼はもう相当なベテランだ。数年どころでは無いだろう。数十年、或いはそれ以上かの歳月を生きている印象だったね」
「召喚者の数は決まっている。そんな奴がいたら、俺たちが知らねえわけがないだろ」
「つまりは新しく召喚されたうちの一人という事だね」
「おいおい、目覚めの日からまだ
「事実は戻ったらクロノスから聞けばいい。だが今は任務が先だろう。そうだ、気が付かない様であれば言っておこう。彼は君の事を知っていたね。もちろん私の事もだ。そして敵意が無いどころか、親愛の情すら浮かべていたよ」
「その程度この事は分かってるよ。だから気持ちが悪りいんだ。まあいいさ、俺は奴を追う。お前もそろそろ休憩は終わりで良いだろう」
「やれやれ、うら若い乙女をまた走らせるつもりかね。どうせならおぶって行ってくれても良いんじゃないかい? 君の背中に素敵な感触を与えようじゃないか」
「置いて行くぞ、ババア」
「わたしはこの世界に来て、まだたったの22年だよ。
ダメだ、やっぱり口じゃ勝てねえ。
「とにかく行くぞ。さっさと追いつかないとな」
「その点に関しての異論はないが、さて追いつけるかどうか」
速度はどう考えても向こうの方が早い。
それで追いつくという事は、当然彼を足止めしている程の存在がいるという事だ。
これは今まで以上にスキルを発動したままにしておく必要があるなと
さて、合流するつもりが追い抜いてしまったがこれは仕方がない。
状況を見た限りだが、
自分の状況を的確に指摘されたのはショックではあるが、それでも今更この戦いは止められない。
というかさ、時間が戻ったのだからその点も完全に元に戻って欲しいものだ。
ただその時は、同時に力も失っている訳だろうが。
さて、個人で行くのなら走る必要も無いか。
距離を一気に飛ばし、セーフゾーンまで行く。
当時は非常に厄介な主がいたので手が出せなかったが、今はもぬけの殻だ。
ただ正直言えば、奴の眷族にされた主がいるのではないかという危惧があった。
何せハスマタンが襲われた時にはそれほど大型の眷族はいなかったし、あんなものを引き連れて行ったら邪魔でしょうがないだろう。
ルートも制限されるしな。
そんな訳で心配はしていたのだが、杞憂で良かった。
ただやっぱりスキルを使った事による悪影響は感じる。
しかも少しずつ戻れない所へと進行しているってのは、気分が良いものでは無いな。
しかし本当にここは広い。
周囲は一面茶色。足元は巨大な石板を無造作に重ね合わせたようなところだ。
多少同じ材質の砂が混ざっているのは、連中が動き回っている内に削れたか。
ただその中に、相当古いが地球の眼鏡やボタン、ネクタイピンなどの金属がぽつりぽつりと落ちている。
これはもう確定だ。特にポタンやネクタイピンには、日本語や英語、それにブランドの刻印なんかもされている。
間違いなく、奴は地球から召喚をしている。
だが時計も塔もここには無いな。さすがに持っていったか。
とは言っても、塔はあるのだろうか?
なんとなく時計だけのような気もする。
どちらにせよ、残された大量の足跡だけで憂鬱な気分になる。
一体どれだけの人間が召喚されたのやら。
何せ奴の目的は食事と眷族化だ。インターバルなど必要ない。
さすがに生贄になる小動物の限りがあるとはいえ、逆に言えば尽きるまで召喚を続けたわけだ。
そして今は移動し、このままではまた召喚の材料が増える。
ただでさえ大変動が来たらモンスターも小動物や蟲もリセットだ。また派手に召喚する事になるだろう。
――こっちか。
以前の奴は浮遊していたが、今の奴はどうなんだろう?
容姿がかなり変わったと聞いたが、一度変えられるならどんどん最適化して行くだろう。
今どんな姿なのかは想像もつかないな。
だけど方角は分かる。距離も意外と近いな。
これも全ては奴と繋がったからだろうが、さすがに離れすぎるとお互い距離は分からない。
俺が来ることを分かっていながらこの近く……なるほど。
セーフゾーンの中にいる全ての命を外す。
音も何もないが、確かに手ごたえは大量にあった。
向こうも俺を待っている。だが危険な数が来たら移動するつもりだったのだろう。
いいだろう。行ってやるさ。会いたいのはお互い様なんだからな。
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